最終話 また、友達になろう

 アマネに連れてこられた場所は普段自分たちのいる場所とは違う不思議な場所だった。天界と同じように春を思わせる場所で、芝生に木々が生い茂っている。空に青空が広がっているかと思えば、雲が何故か自分たちと同じ位置にあった。


「こんな場所、あったっけ?」


 ティファが周りをきょろきょろとして言った。


「アマネ――ここはどこなの?」

「麻世、貴方に会わせたい子がいるわ」


 アマネの指した先には一人の女の子がいた。


「…………!」


 麻世は言葉が出なかった。これは夢の中ではない。いま、この場に存在しているのだ。私がずっと会いたかった――麻世はもう駆け出していた。そして、彼女に抱き着いた。


「麻矢ちゃん……!」


 そこにいたのは麻矢だった。麻世は涙を流しながら「ごめんね……!」と何度も繰り返した。

 麻矢の温もりを感じた。本当に麻矢だった。

 すると麻矢の瞳からも涙がこぼれ落ちた。言葉は聴こえてこなかったが、『麻世ちゃん』と言ったのがわかった。

 二人は見つめ合い、涙を流しながら微笑んだ。いま、お互いに繋いでいる手は確かに温もりがあった。

 麻世は涙をぬぐって、


「麻矢ちゃん、お兄ちゃんと幸せにね」


 果たして麻矢に言葉が聴こえているかわからない。けれども伝わったのは感じた。

 この時をどんなに待ちわびたか。どんなに望んだか。再び彼女と出会えた奇蹟。私の親友。一番大切な友達。


「…………」


 やがて視界は光に包まれ、気が付けば再び元の天界に戻ってきていた。するとティファニアがそっと麻世の肩に手を置いて、


「麻矢ちゃんと会えたのね……」

「うん……」

「良かったね!」


 ティファニアが麻世に抱き着いた。


「アマネ、ありがとう。あの子に会えて、本当に……」

「貴方がここに来てくれたから。その――アイテムを与えてくれたエカテリーナ・クラムスキーのおかげよ、きっと」


 アマネは胸元の麻世のネックレスを指して言った。


「……彼女は本当に不思議な力を持っているのかもしれない。貴方のお姉さんは」


 ティファニアの方を見てアマネが微笑んで言う。


「うん……」

「カーチャさんのおかげ……私もそう思う。私――ここに来ることができて、本当に良かった。そして……ティファ、貴方にも会えて良かった」


 麻世は涙を流しながら微笑んだ。


「私の方こそ……お姉ちゃんのことたくさん知ることができたから。それに、麻世ちゃんとも仲良くなれたから……」

「うん……そうだね」


 そしてアマネの隣にヒジリがいることに気が付いた麻世は彼女の前にやってきて、


「……神様、ありがとうございます。私は……ここに来られたこと、そして貴方たちに会えたことに感謝します」

「貴方の大切な人たちに祝福を」


 ヒジリがそう伝えると、麻世のしていた銀のネックレスが光り輝いた。麻世はそのネックレスを手にして、「……ありがとう、カーチャさん」と呟いた。

 するとネックレスの光が麻世を包み込んだ。麻世は瞳を閉じ、微笑んでいる。


「麻世ちゃん――の?」

「ティファ、貴方と出会えてよかった。ありがとう」


 するとティファニアが「麻世ちゃん!」と言って駆け寄った。


「私――アマネにお願いしたの。麻世ちゃんとお友達に――生まれ変わって貴方と一緒に過ごせるもしもの世界を」

「ティファ……」

「人生を、新しい世界線でやり直せるって――」

「……」


 それは、かつて麻世もアマネに問いかけた密かな願望だった。ティファニアが事故で死なず、友達になれる――そして氷樹と麻矢が幸せになれるのを見届けることができる世界――


「もし……麻世ちゃんもそう願ってくれるのなら……」

「…………」


 麻世は唇を震わせた。


「私に……それがゆるされるの? 私は…………」

「エカテリーナ・クラムスキーは貴方が幸せになることを心から強く願っていた。私は、彼女の願いを叶えることができる」


 アマネがそう言うと、麻世はぽろぽろと涙を流した。


「…………ありがとう」


 やがて光と共に麻世の身体は天に昇っていった。



 ◇ ◇ ◇



「…………」


 ティファニアは瞳から涙を流しながら、「……きっとまた逢おうね。来世で」と呟いた。


「ティファ」


 アマネがティファニアの肩にそっと手を置いた。


「ありがとう。貴方のおかげで麻世の心は無事に解放できた」

「いいえ、お礼を言うのは私の方。麻世ちゃんに出会うことができて本当に良かった。私の……お姉ちゃんのことも知ることができて嬉しかった。夢の中でも会えたしね」


 ティファニアはにっこりと微笑んで言った。すると、ヒジリが口を開いた。


「アマネも言ったけれど、貴方のお姉さんは天使になれる素質を備えているのかもしれない」

「えっ?」

「彼女には不思議な力がある。麻世の心を救うために貴方をこの世界に呼び寄せたと麻世には話したけれど実際は違う。貴方も麻世と同じでの」

「引き寄せられた?」

「この世界に降り立つ人間は私が選んだ者の一部の人間――けどごく稀に自然にこの天界に降り立ってくる人間がいる。そして、貴方が降り立ったのは麻世のしていたネックレスに力が込められていたから。貴方のお姉さんが麻世に贈った物よ」

「お姉ちゃんが……」

「……きっと、麻世のことを想う気持ちがそうさせたのかもしれない」

「…………」

「ちなみに、貴方を麻世と同じ年齢の姿にしたのはただのアマネの気まぐれなのだけれど」


 ヒジリが横目でそう言うとアマネは「アハハハ」とごまかすように笑った。

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