第五話 伝わった想い

「私、会えたの! お姉ちゃんに!」


 朝、ティファニアが麻世の部屋を訪れたとき、彼女は興奮するように言った。


「会えたって……カーチャさんに?」

「うん! 夢の中だったんだけど……お姉ちゃんだった。高校生くらいで、私のこともわかってくれたみたい。言葉は届かなかったんだけど……けど……絶対お姉ちゃんだった」


 アマネが――それとも神様が自分の願いを叶えてくれたのだろうか。麻世は喜ぶティファニアを見てとても嬉しかった。ティファがカーチャさんに会えた――


「私のことを抱きしめてくれて、笑ってくれて――嬉しかった」

「そっか……良かったね。きっとカーチャさんも嬉しかったと思う」


 麻世は微笑んでティファニアをそっと抱きしめてあげた。

 こうした〝奇蹟〟を神は与えてくれているのだろう。自身も夢の中で体験したことを朝食の席でティファニアに話した。


「じゃあ……また生きていたころの時間に行くことができたの?」

「きっと……そうだと思う。もしカーチャさんが……カーチャさんに気付いてもらえれば……」

「だいじょうぶ」


 ティファニアが麻世の手をとって言った。


「私のお姉ちゃんならきっと麻世ちゃんの想いに気付いてくれるよ」

「……ありがとう」



 ◇ ◇ ◇



 麻世はふと外に出て歩いていた。ティファニアのさっきの言葉――姉の恵花に会いたいというのはきっとこれまでもそうだったのだろう。

 もしくは自分と出会ったことで、これまで以上にそう強く思うようになったのかもしれない。


(私がここに来れたのは、カーチャさんのおかげ……)


 アマネが言うにはこの銀のネックレス――恵花の想いが込められた力によるものと言っていた。


(本当は地獄に行くべきだった私を……)


「彼女は貴方がティファニアと天国で出会えるように願っていたわ」

「――!」


 振り返ると長い黒髪の女性――ヒジリがいた。


「ヒジリ……様……」

「きっと貴方とティファニアは仲良くなっていると」

「……」


 すると、麻世はヒジリの前に進み出た。


「ありがとう……ございます。ティファをカーチャさんと会わせてくれて……」

「貴方がわたしを信じてくれたから」


 麻世は目の前のヒジリに心から魅了されていた。生前の自分は神の存在を否定し、自らの運命の邪魔となる存在とまで思っていた。

 けれど今は神に感謝したいという気持ちが心からわき上がっていた。


「麻世、貴方に伝えたいことがある」

「えっ?」


 ヒジリの金色の瞳を見つめた途端、視界がぐるりと回り、情景が移り変わった。

 そこは、麻矢の家の前だった。恵花と麻矢がいて、麻矢はあの写真を見ていた。麻世の書いた、メッセージを読んでいたのだ。

 すると麻矢は唇を震わせ、泣いていた。恵花も彼女を優しく抱きしめている。麻世の本当の想いが通じたのだ。


『麻矢……ちゃん……』


 麻世の瞳から涙が流れ落ちる。伝わったのだ。伝わってくれたのだ。

 生前、彼女とは最悪の形で別れてしまった。自分の本当の想いも伝えられないまま。そしてそのことで彼女のことを苦しめてしまった。

 そしてその後麻矢が氷樹と出会っていた。話している言葉は聴こえてこないが、やがて氷樹が麻矢を抱き寄せた。


『…………』


 良かった――麻世は再び涙を流しながらそう心の中で呟いた。自分という呪縛から逃れ、二人は再び一緒になることができたのだ。


『本当に……良かった……』


 気が付くと元のヒジリと出会った場所に戻っていた。すると、目の前にティファニアがいた。泣いている。


「良かったね、麻世ちゃん」

「ティファ……」

「私も今、ヒジリ様に見せてもらったの。あの子に麻世ちゃんのメッセージが届いたんだね」

「…………」


 麻世は唇を震わせるとティファニアに抱き着いた。


「カーチャさんが……麻矢ちゃんに伝えてくれたの」

「うん……」

「お兄ちゃんと……一緒になれたの……」

「うん……」


 ティファニアは麻世を優しく抱きしめてあげた。

 すると、アマネが姿を現した。


「アマネ……」

「さあ、二人とも。私に着いてきて」

「え?」

「アマネ、お願いね」


 ヒジリがそう言うとアマネは「はい、お任せください」と言って麻世とティファニアを連れていった。

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