第四話 彼女と出会えた奇蹟

「麻世ちゃん、だいじょうぶ?」

「えっ?」


 朝食の時、ティファニアは心配そうに麻世の表情をのぞき込んで言った。


「いいえ――大丈夫よ」

「何かあったの?」

「ううん、ちょっと悪い夢を見ただけ――それより、私もあの学校に行ってみることにするわ」


 麻世はそう言ってごまかした。

 ティファニアと色んな話をしているうちに自分たちが同じ年の生まれであることがわかり、より一層に仲良くなることができた。

 学校には様々な年齢層の人たちがここにはいる。みんながどのような人生を送ってきたかはわからないが、少なくともこの世界ではみんな幸せそうに存在している。

 大学のように様々な授業があり、自分の好きなことを学ぶことができる。そしてどうやら「先生」に該当するのは〝天使側〟の関係者のようだ。つまり、アマネと同じく人間ではない。

 学校というよりは学問所という感じだった。


「……もしかして、アマネもああして何かを教えていたりするのかしら」

「ううん、アマネは本当の、っていうか、やっぱり天使そのものだから天使の役割を果たしているんだって」

「そういえば、パラレルワールドがどうとか……」

「うん。現実で生きている人に対して心の中で望んでいる理想の世界を創り上げるんだって。本人をその世界に導くの」

転生てんしょう、ってこと?」

「それとは違うと思う。生きているその人がそのままパラレルワールドに行くんですって。その人にとって理想の世界を叶えてくれる、ってことなんでしょうね」

「そう」


 自分のイメージしていた天使とは少し異なる気もしたが、それよりも麻世には気になることがあった。


「ところで……貴方は神を信じてる?」

「え?」

「ここには神がいるんでしょう?」

「あ、うん。女神様がいらっしゃるわ。本当の姿かわからないけれど、たまにここに姿を現してくれるの。とても……素敵な方だわ」


 ティファニアが微笑みながら言う。この世をつかさどる神がいるというのなら会ってみたい気もしたが――


「麻世ちゃんもいつか会えるよ」

「そうね……」


 神の存在を信じない自分が神と出会うことが果たしてあり得るのだろうか?


(……まあでも、私にとってはさほど重要なことではない)


 すると麻世は話題を変えるようにティファニアに訊いた。


「そういえばティファ、貴方の得意な科目は何?」

「私? 天体が好き! この世界でも元の世界の空と同じように星空が見えるから」

「そうなのね。今度夜空を観察してみようかしら」

「じゃあ今度、一緒に見に行きましょう。ここはどこからでもとても綺麗に観察することができるの」

「楽しみだわ」


 麻世は微笑んで言った。

 この日はいくつかの授業に参加してみたり、学校の中を見学したりした。


「麻世ちゃんって、とっても賢いのね。すごいわ」


 昼食の時、ティファニアがとても感心したように言った。


「貴方のお姉さんだって成績が良かったんですって。私のお兄ちゃんが言っていたわ。勉強だけじゃなくてスポーツとか音楽全部みんなできるって」

「さすがはお姉ちゃんね」

「料理も上手だし、カーチャさんってカンペキで本当にお手本にしたいくらいだった。その上すごく楽しくて、優しくて……」

「そうだね……麻世ちゃんが羨ましいな――って、別に深い意味はないよ。こうしてお姉ちゃんのことが聞けるのは麻世ちゃんのおかげだし、本当、奇蹟みたいなことだから」


 ティファニアは慌てて付け加えるように言った。


「だって、私にはもうお姉ちゃんのことを知ることができなかったのに、お姉ちゃんのことを知ってる麻世ちゃんとこうして出会うことができたから……ちょっと不謹慎かもしれないけど」

「ううん、こちらこそ貴方に会えてとても嬉しいわ」


 麻世は微笑んで言った。

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