第四話 後悔の日々
夏休みに入ると部活のある日は祐輔とかえでが氷樹の家を訪れていた。たとえ氷樹が部活に行かなくとも、直接顔を合わせた方がいいとかえでたちが話し合って決めていた。
そしてもう七月も終わろうとしているが、氷樹は未だ部活には参加していなかった。
「そのうち来てくれるさ。まだ夏休みは始まったばかりだからな」
「だといいけど……」
氷樹の家を後にした祐輔とかえでは駅に向かっていた。
「まあでも、ちょっと一緒にどこかに遊びに行ったりするくらいなら付き合ってくれそうだし、前向きに考えていこうぜ」
「そうね……私たちが後ろ向きになっていたら始まらないものね」
学校に到着して球技室に行くと、恵花がやってきた。
「氷樹は……今日も来なかったか」
恵花は残念そうな表情で言った。
撞球部は新一年生もなじんできて部には活気があったが、かつて在籍していた麻世が亡くなった事実はみんなに衝撃を与えていた。
◇ ◇ ◇
八月に入っても変わらず氷樹は家にいることが多かった。祐輔たちが家を訪れたりしても顔を出すものの、学校に行くことはなかった。また、紫からも一緒に出かけようと誘われるが、同様に断っていた。
「……」
麻世の部屋の中で、氷樹は佇んでいた。
生前の時と変わらない彼女の部屋。今思えばこの部屋に入ることはあまりなかった。ほとんどが彼女の方から自分の部屋を訪れていた。昔からそうだった。
『お兄ちゃん』
麻世と向き合うようになる以前はほとんど彼女のことを無視していた。鬱陶しいと思ったことは一度もなかったが、ただただ自分に構う妹のことを不思議に思うくらいだった。
そして高校入学してからは彼女と向き合うようになった。一緒に学校へ行き、休みの日に出かけることも――
「……」
思えば夏休み――一年前の夏休みには色々あった。思い返すだけで心が苦しくなることばかりだ。
まずは麻矢のことだった。たまたま祐輔が休みで彼女と二人で部活に向かう途中、事故の関係で電車が途中の駅までしか行かなく、部活が休みになった。なので近くの水族館に二人で行った。楽しかった。彼女と一緒にいられて無意識的に幸せを感じていた。
そして紫。麻世に嘘をついて紫と二人きりで花火大会に行ってしまった。麻世に対する後ろめたい気持ちと紫に対する罪悪感が入り混じっていた。
(ああ――苦しい)
思い返せば思い返すほど苦しくなる。
麻矢と付き合うことを反対した麻世。自分のことを異性として愛していたと告白してきた麻世。
あの麻世を作り上げてしまったのは長年彼女を無視していた自分の責任なのだ。もっと彼女と向き合うべきだったのだ。
(気付くのが、遅すぎたんだ)
こんな結末を迎えるのであれば、最初から誰とも関わりを持たなければよかった――いや、最初から麻世のことだけを見ていればよかったのだ。
(けど……それでも)
麻矢のことが心の中から離れなかった。彼女とは未だ会えていない――
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