第二章 失った大切な妹

第一話 あなたのためになりたい

 週明けの月曜日、今日はかえでが氷樹の家へ迎えに行っていた。わざわざ恵花が氷樹のいる希望ヶ丘まで毎朝来るのは大変だとかえでが申し出たのだ。

 すると、途中で祐輔に会った。


「木下くん、おはよう」

「おはよう、白峰。……ひょっとして、氷樹の家に?」

「ええ。カーチャが先週まで迎えに行っていたんだけど、さすがにカーチャにいつも来てもらうのは大変だと思って……」

「そうだったのか。俺も氷樹の家に立ち寄っていたからさ」


 二人は氷樹の家の前にやってきた。


「おはよう、氷樹くん」


 出てきた氷樹にかえでが微笑む。祐輔も「よっ」と声をかけた。


「……おはよう」


 氷樹は相変わらず表情に影があったが、学校に向かう意思があることにかえでは安心した。


「今日からは一緒に行こうぜ」


 祐輔がなるべく明るく言った。

 三人は駅に向かって歩き始めた。その後の電車の中でも話をしているのはかえでと祐輔の二人だけだったが、氷樹が学校に行くことに意味があると考えていた。

 そして星蹟桜ヶ丘駅に到着すると恵花が「Guten Morgenおはよう」と声をかけて合流した。


「おう、木下もおはよう」

「おはよ、カーチャ」


 恵花も交えて四人は学校に向かった。



 ◇ ◇ ◇



 紫は自分の教室に入る前に氷樹の教室をのぞいた。すると氷樹の姿があった。


(よかった……来てる)


 ひとまず安心して自分の教室に入る。


「おはよう、紫」

「おはよう。氷樹くん、今日も来てたね」

「そうみたい。カーチャたちが一緒に来てるっていうし」

「ああそっか……カーチャはともかく、かえでちゃんや木下くんは氷樹くんと同じ地元だもんね……」


 紫は羨ましく思った。氷樹と一緒に登校できたらさぞかし幸せなことだろう。けど今の氷樹は妹を亡くして心に傷を負っている。自分も彼のために何かしてあげたかった。

 放課後になり、今日は部活がないのでホームルームが終わると紫はすぐに隣のクラスへ行った。しかし氷樹のクラスはもうすでにホームルームも終わっていたので彼の姿はなかった。訊いてみるともうすでに教室を出たらしい。

 紫は急いで学校の玄関に向かうと、入口で彼を見つけた。


「氷樹くん――」


 声をかけると氷樹が振り向いた。


「氷樹くん、今日はもう帰っちゃうの?」

「ああ」

「……ねえ、できたらどこかに寄らない?」

「……」

「氷樹くんと、お話がしたいの」

「……この間も言ったが、俺はお前の気持ちを利用しようとした。これ以上俺に関わらない方がいい」

「そんなことない――私が、氷樹くんと一緒にいたいから……」

「……」

「妹の麻世ちゃんが亡くなって……氷樹くんが傷付いているのはわかるわ。だから私……氷樹くんのためになりたいの」


 麻世の名前に氷樹が反応した。


「……お前の気持ちはありがたい。けど、今の俺はきっとお前のことを傷付けることになる。だから、もうやめた方がいい」

「私……邪魔だったかな……?」

「そんなことはない。ただ、俺と関わったところできっと幸せにはなれない。お前だけじゃない。カーチャや、天女目、白峰たちもそうだ。あいつらの気持ちは……すごくありがたいことだ。けど、今の俺には……」

「でも……私、氷樹くんのことが好きだから――」

「……」


 氷樹はしばらく紫のことを見ていたが、何も言わずに去って行ってしまった。

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