第七話 素敵な先輩たちと
翌日、土曜日で休日だったが麻矢はずっと家にこもりきりだった。学校のある日も家と学校を往復するだけで、麻世が亡くなって以来、自分も生きていないような感覚だった。そして夜になれば麻世のことを思い、自責の念に駆られ、ずっと泣いていた。両親は元気のない麻矢のことを心配したが、彼女はずっと塞ぎ込んでいた。
「……」
麻世に絶縁され、そして仲直りもできないまま彼女は命を絶ってしまった。しかも最後の会話は彼女のことを糾弾するかのような言い方だった。これ以上にない最悪の別れ方だった。
あの会話をやり取りしたその日の夜に――
「――っ!」
麻矢は嗚咽をもらした。その事実が麻矢の心を容赦なく
その時、突然着信音が鳴った。麻矢はビクッとして涙をぬぐい、スマートフォンの画面を見た。恵花からだった。
電話に出るか少し迷った後、電話に出た。
「……もしもし」
『麻矢ちゃん、私だ。カーチャだ。今、大丈夫か?』
再び麻矢は涙をぬぐって、
「はい、大丈夫です」
『もし良かったらこれから一緒に出かけないか? チョコレートの祭典ってやつが今日あるらしいんだ。それで、天女目やかえでと……あと、天女目の友達の紗香ちゃんって知ってるか? 氷樹の……幼馴染でもあるんだ』
「……はい。お会いしたことはあります」
『急だから……無理かな?』
「いえ――構いません。何時ごろですか?」
『そうか、良かった。私は今から電車で向かうところだ。十時に駅で待ち合わせている』
「わかりました。じゃあ、駅で」
そう告げて麻矢は電話を切った。本当は外に出るような気分ではなかった。けれどもせっかく自分を誘ってくれているので、麻矢は恵花たちと会うことにした。
◇ ◇ ◇
麻矢が希望ヶ丘駅に行くともうみんな来ていた。
「やあ、麻矢ちゃん」
恵花は明るく声をかけた。
「こんにちは」
「来てくれて嬉しいです」
翠妃が微笑んで言った。
「こんにちは、紗香さん」
麻矢は紗香にも挨拶した。
「来てくれてありがとうね」
「こちらこそ……誘っていただいて……」
「さてと、じゃあ行こうか」
恵花が先陣を切って言った。
◇ ◇ ◇
電車で都心の方まで移動し、恵花たちはあれこれとしゃべりながら祭典の会場にやってきた。
「わあ、たくさん来てますね」
翠妃は大勢の女性客を見て言った。
「チョコレートが嫌いな奴はいないだろうからな」
五人は会場入口の方へ進み、中へ入った。そこには世界中のチョコレートが展示されており、当然試食もできた。
恵花たちは色々なチョコレートを試食してまわった。海外のショコラティエが集まっており、ドイツ語と英語に堪能な恵花のおかげで色々と直接話を聞くこともできた。
「カーチャがいてくれて一層に楽しめたわね」
かえでが言った。麻矢の今朝まで沈んでいた気持ちも少しずつ薄れていった。
存分にチョコレートを堪能した後、五人は昼食をとることにした。
「チョコレートをたくさんいただいちゃったから軽めのものでいいかもしれないわね」
「とても美味しかったです」
五人はベーカリーのカフェに入った。チョコレートの祭典の感想などみんな楽しく話しながら時間を過ごした。その後も色んな店をまわったりして楽しい時間を過ごしていた。
そしてそろそろ夕方近くになり、駅に向かった。麻矢は恵花たちにお礼を言った。
「今日は、本当にありがとうございました。私を誘ってくれて……」
「こちらこそ来てくれてありがとう」
恵花はにっこり微笑んで言った。
「……もちろん麻矢ちゃんのことが心配だったからっていうのもあった。けど、みんな麻矢ちゃんのことが好きだからだ。元気になってほしいって」
「……」
すると、麻矢の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「麻矢ちゃん――」
「すまない――色々と思い出させちゃったのかもしれない」
恵花が慌てて謝った。しかし麻矢は首を振った。
「……違うんです。だって……みんな私のことを元気づけようとしてくれているのが嬉しくて――」
麻矢の瞳からはぽろぽろと涙が溢れた。
「私――麻世ちゃんのお通夜の時にあんなことを言ったきりで――それなのに……」
すると紗香がそっと麻矢の肩に手を置いて、
「麻矢ちゃんが辛いって気持ちは痛いほどわかるわ。本当よ。麻矢ちゃんの立場だったら私だって……カーチャさんも言ったけど、私たちは麻矢ちゃんに早く元気になってほしいって思っているの」
「そうですよ。立ち直るのにはまだ時間が必要です。焦らなくていいんです」
翠妃も優しく微笑んで言った。
「今日のお誘いもカーチャさんが考えてくれたんですよ」
「……」
なんて素敵な先輩たちなのだろう――こんなにも自分のことをみんなで思ってくれるなんて――麻矢は涙を拭いた。
「……正直、まだ立ち直れていません。どうしても、あの時のことばかり考えてしまうんです」
「麻矢ちゃん……」
恵花は痛ましそうに麻矢を見た。
「……けど、今日は本当に、ありがとうございました」
麻矢が少し微笑むと、恵花たちも微笑んだ。
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