第13話 怪人
はあ………
どうしたものか。
あの
私は嘘をつけぬ性分ゆえに結局は『言わない』という選択にした。
嘘はバレなければ真実にすらなる。だがバレた時に失うものは計り知れない。
ましてや
だが、理解してくれてよかったぞ。
それに………嬉しかったぞ。
やはり私が認めた男だけある。
兎にも角にも。
私の中ではそっと胸を撫で下ろし、安心しきったのだが実際のところ絶妙な空気なってしまった。
駆けつけた警察官たちに見つかることなく
私もこの辺りは初めて歩くし、ましてや昨日来たばかりの
タクシーを探すだけで道を訪ねるのも馬鹿馬鹿しいという意見は一致し2人で仲良しこよし歩くことにした。
それにまだ夜の7時であったから制服姿の私たちを怪しむ者はおらず、むしろ良い意味での視線を感じた。
さっき私から思わず手を握ってしまったが今度は
「なあ一生………」
「どうした?」
「手、離さなくてよいのか? 妙に汗ばんで嫌ではないか?」
何を言ってるのだ私は。
「また誘拐されちまったら困るだろ。俺は離さないし廻も離すなよ」
「こ、子供扱いするでないわ!」
思わずいつもの調子で声を上げてしまった
そして、そんな私を見て一生は笑った。
「やっといつもの廻に戻ったな。今日はもうだんまりかと思ってたが」
「わ、私だって色々と言いたかったのだぞ。それを我慢して頭の中でだな………」
「ああ、全部分かってるって。廻から言い出すまで何も聞かないから安心しろって」
………どんな心境の変化があったのかは知らないが今の一生の顔には迷いも戸惑いも感じられない。それに妙に落ち着いておる。
「なら私から質問してよいか?」
「黙って歩くのに飽きてたからな。今なら何でも答えれるぞ」
「これは私の勘なのだが、何かあったのか? その………撃たれる前と少し雰囲気が変わった気がしてならぬのだ」
「撃たれる前って………むしろ俺が撃たれて生きてた事に関しての質問はいいのか?」
ああ、そうだった。自然な流れとしてはそこから始めるのがよかったかもしれぬ。
「別に気にしておらぬから聞かなかったのだ。生きておった、それだけでよいではないか」
「相変わらず俺の予想の上を行くな………えーとな、何かあったといえば………あった」
「ほう、その先を聞いてもよいか?」
「いいけど、笑うなよ?」
一生は口籠もりしながら説明した。
しかしながら何かと思えば、撃たれた直後に一生は真っ白な空間で神様に会い、長時間にわたって話していたと言い出したのだった。
「ふむ。どこが面白いのだ?」
「え? 笑わないのか? だって神様だぞ」
「それくらいの事なら私ですら経験済みだ」
UFOや幽霊を見たと言うなら笑っていたが神様にはとっくの昔に会っておるわ。
「もしかして半裸で短パンの子供だったり?」
「なんだその設定は。私が出会ったのは着物を纏った綺麗な女性であったぞ。まさしく女神って感じで気品もあった」
「へえ、どんな話をしたんだ?」
「ふむ、覚えておらぬ」
本当に覚えていない。夢のように記憶が曖昧だし、それに出会ったのは数年も前だ。
「夢じゃないのか?」
「夢のような話だが私は会ったのだ」
真っ直ぐな眼差しで一生を見る。
「ああ………分かったよ。そんな目で見られちゃ何も言えねえ」
横目で私を見ていた一生は渋々そう言った。
その時、私はある事に気付く。
「一生よ、あっちを見よ」
私の指差す先には一台のタクシーが停まっていた。それに運転手も乗客もいない。多分、その側に見えるコンビニにいるのだろう。
「あれに乗るのか?」
「当たり前だ。行くぞ」
「あ、でもよ………」
一生が踏み止まるのには理由があった。
目と鼻の先にタクシーが見えているのは確かなのだがそこに行くまでにフェンスを越えなければならなかった。
異なる2つの駐車場が隣接しており、その境目にフェンスが建てられていた。
「一旦、手を離す事になるがよいか?」
「じゃなきゃ向こう側に行けないだろう」
「一緒に飛べばよいではないか」
昨日の放課後に飛び越えた塀もこれくらいだったし出来るだろう。
「なんだそりゃ、さすがに別々で行くぞ」
一生はそう言って手を離してフェンスに登り始める。
ガシャガシャ、とフェンスの
「全く………遅いし見栄えも悪い」
私は助走をつけてワンツーステップでフェンスを飛び越えた。しかも今回は背面跳びだ。
それに着地も華麗に決まった。風紀委員という仕事に就いてなかったら陸上競技の世界で結構いい所まで行けたと思うぞ。
「どうだ! 見たか
「お、おう。ばっちりと見えたぜ」
何故かその言い方に引っかかった────「見ていた」ではなく「見えた」と言った。
「顔が赤いぞ、それに何故横を見ておる」
「もう少し羞恥心を持て。 せっかく先に登ったのに見えちまったら意味ないだろ」
やっとそこで理解した。
「………この変態」
吐き捨てるように言った。
「風呂上がりに下着で家を歩いてる人間のセリフか?」
「こっそりむっつり見られるのが私は嫌なのだ。見たいなら見たいと言えばよいだろう────ほれ」
わざとらしくスカートを捲り上げた。
「どっちが変態だよ!」
「見せるとは言ってないぞ?」
「じゃあ聞くな!」
「少しからかっただけであろう、そう
「喘いでない、嘆いたんだ」
ふむ、これがフェンスにしがみつきながら嘆く男子高校生の図か。
これはこれで危ない。
「まあ
一生は「はいはい」と言いながらフェンスを登り、1番上から「よっ」と飛び降りた。
膝にジンジンきたのか分からないが着地してしゃがんだ姿勢のまま動かない。
「仕方ない、ほら」
私は一生を立ち上がらせようと手を伸ばした。
その瞬間────私の後方から正面に向かって何かが勢いよく通り過ぎた。
そしてフェンスが大きく軋む音と共に一生は後方へ吹き飛んだ。
突然過ぎて何が起きたのか分からなかった。
「な"ん"だよ………これ''…」
一生は口から血を吐き出す。
白いパイプに赤い三角の鉄板────【止まれ】と書かれた道路標識のポールが一生の胴体を貫き、フェンス諸共突き刺さっていた。
「俺"は……い"い"…前を……見ろ"」
一生の振り絞った言葉に振り返ると何かが立っていた。
不思議だ。今日は晴れだというのに。
「………レインコート?」
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