第3話 校舎裏にて

3.桔梗が原駅前


空を見上げると夕暮れが近いことがわかる。


今日は委員会の仕事が長引いたあげく、呼び出しをくらってしまったのだから仕方のないことか。


視線を下ろすと目の前には同じ中等部の中森がいた。


私を呼び出した張本人であるが一向に何も話そうとしないので実は困っている。


「中森よ、私を呼び出したということは何か話したいのだろう?」


「あ、はい……」


何やら重い話のようだな。

此奴こやつはクラスで物静かな方だと聞く。もしかしたら人には言えない悩みがあるのかもしれない。


ピピピピピ────


おや、珍しく私の携帯が鳴るとは。


ポケットから取り出して着信画面を見る。

そこには【ミーティア】とあった。


ぐぬぬ……こんな空気で電話に出るのは少々まずい気がするが相手がミーティア・・・・姉さんとなれば話は別。


それに私は『どちらかを殺せ』という究極の選択肢を迫られたら2人とも半殺しにして1人分は殺したとやってのけた顔をするタイプなのだ。


「すまぬ、電話に出るぞ」


そう言って中森の返事を待つ前に私は電話に出た。


「もしもし、私だ」

「────────」


「ああ、そうだ。姉さん唯一の妹分である逢瀬廻あわせめぐるだ。しかし急にどうしたのだ?」

「─────、───」


「なるほど。では私が行こう」

「───────」


「よいよい、姉さんには大恩があるのだから気にすることではない。で、何時頃に行けばよい?」

「───」


「何! それは本当に急ではないか」

「────?」


「当たり前であろう。私を誰と心得ている」

「──────」


「ああ、委細承知した」

「────」


「ば、馬鹿者! 私はまだ健全な中学3年生であるぞ!」

「───────」


「ま、まあよい。これで切らせてもらうぞ」

「────────」


そう言って私は通話を終えた。


「………全く。まだ春先というのに嫌な汗をかいてしまったぞ」


「……もう大丈夫ですか?」


私の携帯をしまう素ぶりを見た中森はそう言った。


「ああ、大丈夫だ。しかしもう行かねばならぬ」


「え?」


「お主が急用で私を呼び出したように、私も急用で行かねばならなくなったのだ」


「そうなんですか、じゃあすぐ終わ───」


「ダメだ。この件は後日聞こう。今の私には一分一秒すら惜しい。だから簡潔に理由を言う………これから婚約者フィアンセを迎えに行かねばならんのだ」


「え?」


「それにだなあ、こんな校舎裏よりも私の家に来た方が話しやすいであろう。茶菓子ちゃがし程度なら用意しておくぞ」


「え、ええ……」


「よろしい、理解したようだな………あ、言い忘れておった。中森よ、私の下駄箱は郵便受けではないのだ。私の家に来た際に住所も教えておくから次からはそこに送るのだぞ」


中森は終始キョトンとしていたが私はつっこまずに「それじゃっ」と一言残す。


「近道はこっちか」


軽く助走をつけてからのワンツーステップで校舎の塀を飛び越えた。


「しゅたっと!」


華麗に着地するなり、そのままの勢いで桔梗が原駅へと走り出した。


ここからだと約10分。

その間に問題を起こしてなければいいが。

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