死神と呼ばれた僕と君

マーシャがいない…胸の中で嫌な予感がする。

メイン室へと行くことにした。

メイン室の扉を開いたと同時に強い照明がついた。

「…フフフあの女は、負けたか…まぁいい。もう終わりにしようか死神君。」

「あぁ、このままアンタを野ざらしには出来ない。」

「では、始めるとしよう。」

指パッチンと共に奥から一人の女の子が出てきた。


「マーシャ…?一体何があったのですか?」

「無駄だ、今の彼女は、俺の言いなりだ。死ねと言ったら死ぬぞ…」

洗脳状態とでも言いたいのか?それにしても厄介な事になったな。

「さぁマーシャ、あの男を殺せ。」

奴が指示したと同時に容赦のない銃弾が僕の頬を掠めた。


「本当に撃ってくるとは…」

いくらなんでもまずい。とりあえずこの部屋から逃げるしか…

バン…バン…

無慈悲な銃弾が次々と放たれる。

「どうしたら…」

今は、逃げているがそれでも彼女は追ってきている。

 ここで殺すわけには…なんとかして元に戻すしか…


僕は、機械室と書いてあったドアを蹴り開け中へと入った。

間髪入れず彼女がドアを開け中へと入ってくる。

「マーシャ‼︎どうしてあの男の言いなりになんてなったんだ!」

彼女が中に入ると同時に言葉を投げる。意味無いかもしれないだけど、どうしても彼女に伝えたいことがあった。

「…」


沈黙で返す彼女、その目は出会った時と同じで生きる希望を感じさせない目をしていた。

「出会った時も君は、生気を感じさせない目をしていた。今君の目は、まさに出会った時と同じだ。」

 バン


何度も聞いた低い音が部屋全体に聞こえた。ここにいつまでもいると殺される…

次の瞬間僕は、側にあった机を盾にしながら彼女に突進をした。

彼女は、銃を撃つが机が盾になってくれているので、僕に銃弾が届く事はなかった。

彼女目がけて突進するも、避けられてしまった。だけど…

最初から狙っていたドアへと向かっていく。

 ドゴォン


ドスの効いた低い音が鳴る。

なんとかドアを壊したが、後ろから彼女が、一歩一歩ついてくる。

コツン、コツン

歩く音が後ろから聞こえる。

今後ろを振り向けばきっと銃を撃つだろう。

_______________

 走っていくうちにメイン室へと戻ってきてしまった僕は、後ろからくる彼女に追われ退路を断たれてしまう。


先程のような盾になるものはない為、強引な作戦は出来ない。そう考えていた時だった。

「フフフハハハ」

笑い声が聞こえた、マーシャの後ろから浅倉が来たのだ。

「さぁ、つまらない物語に終わりをしようじゃないか。」

「撃ちなさい。」

浅倉の言葉が言い終わると同時に引き金を引く彼女。


「ッ……」

彼女が放った銃弾は、僕の腹部を深く抉っていた。


逃げることもなく僕は、マーシャに言葉を投げる。

「マーシャ、僕は貴方に感謝しています。貴方と出会わなければきっと今頃、人を殺して感情もなく上の命令を聞くロボットになっていたと思います。」

 

荒い呼吸を整えながら想いを伝える。もしかしたら、彼女に届かないかもしれない…それでも伝えたかった。伝えないといけなかった。


「貴方があの時素直になっていいと言って無かったらここに立つ事は出来なかったと思います。だから僕は、貴方に感謝をしています。」

その瞬間彼女の瞳は微かに光を取り戻した。見逃さなかった僕は、スーツの内ポケットに隠してあった、拳銃を取り出し彼女に銃口を向けた。

 彼女は、逃げる事も怯える事もなくただそこに立っているだけであった。


「フフハハ、結局お前は、人を殺すことでしか生きられない。まさしく死神だな。」

「……」

彼女は、無言でじっとこちらを見つめる。

僕は、声を出し最後の賭けに出る。

「彼女を返してもらう。浅倉!」

「フッ、お前のものではないだろう?」

「そうだな…僕は殺し屋だ…そして死神だ…ならば死神らしく……

 僕は、今ここで彼女を殺す‼︎」

次の瞬間指にかけていた引き金を引き彼女の頭めがけて放った。


シュッッッ

彼女の頭の横を掠めた、銃弾は壁へと向かっていく。

「ミーシャ‼︎」

次の瞬間彼女は、僕の方へと走っていく。

瞳に光が戻っていて見たことのないほど輝いた少し濃い青色の瞳…

「やっと目が覚ましましたか?遅すぎです。」

「ごめんなさい。私ッもう少しで取り返しのつかないことを…」

「気にしないでください。ほら、今生きているじゃないですか。」


「さぁ浅倉…貴様の物語にそろそろ幕を下ろしてもらおうか。」

「ふざ…ふざけるな…ふざけるなぁぁぁ

ここで終わってたまるか‼︎お前…お前のせいで全てが壊された!」


感情に支配された浅倉は、白衣の中に隠してあった拳銃手に持ち…

   バン

銃弾を僕に向け撃ったが、その銃弾が当たる事は、無かった。

「一方的な感情に支配されては、100発撃ったとしても僕には、当たらない。」

引き金を引こうとした浅倉だったが、銃弾がもう一度発射される事は、なかった。

「ッッッ…ァァァ」

悲鳴が部屋に響く。

僕は、神速の速さで彼との距離を0にし、腹を刺しさらに腕の腱をナイフで深く切り銃を持つことも出来ないようにした。


「もう終わりだ。最後に質問に答えてもらおう。」

ビービービー

警報が鳴り次の瞬間…

「爆破まで後3分速やかに退避してください。」

感情のこもってない無機質な声で呼びかけていた。

「爆破だと…貴様!」

「逃げましょうミーシャ。」

「いや、どうしても聞かなきゃいけないことがある。」

「どうして、マーシャの母親を殺し、マーシャを実験台にした?」


すると浅倉は、観念したかのように話し始めた。

「妻は、ロシア人だった。出会いは、研究者同士の交流で偶然だ。そこで俺たちは、恋に落ち結婚をした。そこまでは、充実していた…」

血を吐きながら咳き込む浅倉、だが話を止めることはなかった。


「ある日クローンの実験に成功した俺は、妻を使って実験台にした。妻の了承を経てだ…

だが実験は、失敗した。機械の暴走で体の隅々を分解され妻は、死んだ。そこから俺は、1年の改良を重ねもう一度完成させた。

 マーシャを使ったのは、妻に似ていたからだった。マーシャを使って研究を成功し、権力を持ち国のトップになろうとした。」


「国のトップになって何をしようとしたんだ…」

「新しい世界を作ろうとした…素晴らしい世の中にする為に。」


「だからってマーシャを利用して言い訳ではない。それに…新しい世界を作るのは、老人ではない!マーシャのような若い人達が未来を切り開いていくんだ。」


「しかし、いつも時代を作ったのは、老人共だ…今の若者は、勇気も、自信も、やる気も全てない。老人どもの言いなりにピッタリだ。」


「確かに今は、そうかもしれないだけど…僕は、その先信じる。あの時の自分とは、違って若者が先導に立つ日が100年後になろうともそれでも僕は、信じ続ける。」


「フッそうか…ドアを出て左へ真っ直ぐ進むといい…そこにポットがあるそうすれば爆発には、免れる………」

そういい終えると浅倉は、呼吸をしなくなった。

ビービービー

「爆破まで残り1分」

「ミーシャ!逃げましょう早く‼︎」

僕の体は、重力に従い仰向けの体制で倒れた。

「もう限界だ…視界がぼんやりしてきた…」

「そんな…なら私もここで一緒に…」

「それは、それだけは…ダメだ…君は、生きなきゃいけない。この先もずっとずっと。」

「どうしてよ!私を殺すんじゃなかったの!約束したでしょ‼︎」

僕は、にっこりと笑いながら彼女に答える。

「もう…約束は、果たしただろ?」


ビービービー

「残り30秒…」

「さぁ…」

「…もうッ分かったわよ!私は、ミーシャの分まで生きていく。絶対に生きていくわよ‼︎」

彼女は、立ち上がりドアへと走っていく。

「マーシャ…」

彼女は、走っていく。死神としてはではなく…人間として生きたかった。たった一人の男の想いを背負いながら。

「マーシャ…貴方は、きっと…」

僕は、目を閉じる。音は聞こえなくなっていた。


彼女と一緒に過ごす景色が浮かんだ…

もし…もしも…彼女との出会いがもっと早ければ、白黒だった景色が鮮明でとても綺麗な様に見えたのだろう。

あぁ、恋しい…彼女ともう出会えなくなるのが、話せなくなるのが。

‼︎

そうか…この感情が…

書物で読んだことのある。『恋』この感情が『恋』…そうか僕は、貴方のことが…

もっと早く知りたかった…。最後の最後で分かった感情が、僕の胸の中にポツンと空いていた空洞を埋めていく…


男が最後に見た夢は、とても優しい夢だった。男は、それが幻の世界だと知っていながら、一秒一秒の幸せを噛み締めていた。


「マーシャ…僕は…貴方のことが…」

最後の力を振り絞り最初で最後の言葉を言う…最後の二文字は、口では、言っているが、音にならなかった。

次の瞬間、物凄い轟音が響く…全てを破壊する音。だか、その音が男に聴こえることは、なくただ静かに笑顔で眠っていた。


地下からの爆発は、周辺の家を巻き込み爆破した。



____________

18年後

「今回取材をさせていただく女性記者の中村です。よろしくお願いします。浅倉マーシャさん」

「フフ、そこまで固くならなくていいのに、貴方と私の仲じゃない。」

「いえ、仕事ですので…」

「貴方のそういう所好きよ。」

「早速取材させていただきます。歴代最年少での総理大臣になった。という事で苦しい思いを沢山してきたと思います。1番の恩人を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


ペンと紙を持ちながら話す中村さん。その瞳は、やる気に満ちている瞳だった。


「1番の恩人は、死神ですかね。」

「し、死神…ですか?」

「えぇ、彼と出会ってなければ私は、今頃総理、いや生きてないかも知れなかったのですから。」

「死神さんは、そんなに影響力のあった人なのですね。」

「えぇ、私は、あの時彼に殺されたわ…」

「こ、殺されたというのは?」

「そのままの意味よ…彼が、私を殺してくれたから私は、変わることが出来たのです。」


 今の彼女の瞳は、どんな絶望に陥っても輝きを失わない強くて優しい光り輝く少し濃い青色の綺麗な瞳をしていた。


「それで、死神…という方のお名前は?」

「そう…名前ね。名前は…」

私は、窓の先にある青くどこまでも続く広い空を見ながら、笑顔で懐かしい人の名を言った。

「ミーシャよ。」


〜あとがき〜

これにて終了となります。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

 私は、他にも現在連載中の「罰ゲームで告白して幼馴染と付き合うことになった」という名前の物語も投稿しています。もしよろしければそちらも見ていただけたら嬉しいです。(隙あらば宣伝)

本当にここまで読んでいただきありがとうございました。

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死神と呼ばれた僕と君 ruy_sino @ruy_sino

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