死神と呼ばれた僕と君
目的地まで30分とかからないので浅倉氏の家へと着いた。
「ふーん、しかし外観だけ見たら普通の一軒家にしか見えないですよこれ。」
外観は、2階建てのごく普通の家なのだが…地下がものすごく広く防音などの対策もしっかりと練られているので外に情報が漏れることはまずない。
あの時マーシャのクローンに出会わなければ一生知らなかったかもしれない。それほど内密にしていたという事だ。
「…」
今度は、鍵がかかっている前回の反省を踏まえてだろう。鍵が閉まっているなら外から衝撃を与えて無理矢理中に入るしかないのだが、音が出るので向こうに気づかれてしまう。
「…!」
「どうしたの?ミーシャ」
「もしかしたら気づかれないで中に入れるかもしれない。」
「鍵がかかっているのに?」
「地下には、銃声などが外に聞こえないほどの防音を施していました。という事は、逆に地上の音が地下に届かないと思うのですよ。」
「本当に大丈夫なのかしら?」
「現役の殺し屋ですよ…」
「そうだったわ。」
「ということで、敷地内に入って一階にあるあの窓ガラスを割ります。それから地下へ行き浅倉氏を殺します。準備はいいですか?」
「えぇ、もう出来てるわ。」
「では、行きます。」
そういい車から降り、浅倉氏の敷地内へと侵入し窓ガラスを蹴り無理矢理割った。
「忘れてました。これを…一応持っておいてください。」
そういい僕は、彼女にハンドガンを一丁渡した。
「えぇ、ありがとう。」
地下に続く階段を発見した僕達は、一段一段とゆっくり物音を立てないように降りていった。
「…」
「…」
二人に緊張が走った。
男は、2度目の侵入と隣に今までの自分を殺してくれた人がいるという事
女は、自分の父親をこれから殺すという実感が湧いた為か、無言の時間が続いた。
もう少しで前回浅倉氏がいた、メイン室に着くのだが、細長い通路が長く続いていた。
「マーシャそこで待っていてくれ。」
「ぇ、えぇ」
「…‼︎‼︎」
マーシャに伝えた瞬間に違和感に気づいた。この通路は、他の部屋と違う…
空気が凍てついた感じがした。
その瞬間俺は、後ろへバク転をしすぐさま距離を取った。
すると一呼吸もなくしないうちに冷たい銀閃が僕のいた場所を振り払っていた。
「…やっぱりアンタか…」
「流石は、死神と言った感じね。これでも気配を消していたつもりだけど。」
「あぁ、気配が消えすぎだよボス。」
目の前には、ボスがいた。まさか、浅倉氏に協力したというわけなのか?
「これから殺し合う前に少し話し合いをしましょう。」
手に持っていたナイフを下ろし僕と本気で話し合うつもりのようだ。
「あぁ、そもそもボスって、そんなに俊敏に動けたんですね。」
「女だからってみくびらないで欲しいわね。」
「女にしては、速すぎるんだよアンタ。それでなんでここにいるんだ?」
「勿論貴方を殺しに来たのだけれど…そういえば貴方、自分の母親を知りたいのよね。」
「…」
僕は、ボスの問いかけに無言で返した。
「最後だから教えてあげるわ。」
「私よ。」
「本当なのか?」
「えぇ、本当よ父親は、複数いるわ。」
「どういう事だ?」
「精子提供してもらったのよ…それぞれの特徴を活かしたものを合成して作りお腹に宿した。その結果、死神なんて呼ばれる貴方ができたのよ。」
「なんで、僕を組織に入れたんだ?」
「私の計画よ。最強の暗殺者を作るというね」
ボスが、母親…
「さぁ帰りましょう。家に(組織)」
もしこのまま帰ったら、母親と一緒に過ごすことが出来るのだろうか…
その時だった、マーシャと家で話した内容が浮かんだ。
「普通に生きていい、誰かの道具や、言いなりにならなくていい。」
今までの自分を殺してくれた大切な人から、教えてくれた言葉。自分で生きたい…生きてみたい。
人を沢山殺した人が普通に生きるという叶いもしない願い。それでも…生きたい…自分の手で未来を決めてみたい。
一般人ならもっと大きな夢があるのだろう。たが、最初から人殺しに専念させられた男の願いは、ごく普通な夢だった。ましてや普通の家庭で順風満帆に過ごしてきた人なら考えもしない夢だろう。それでも男にとってその夢が光り輝く宝石のようにキラキラした物のように見えたのかもしれない。
「…悪いけど一緒には帰れない。今は、大切な人と『普通』に過ごしていきたい。」
「そう…言う事を聞いていればいいのに…交渉は決裂ね。」
そう母親が言った瞬間だった。
「!」
音速のような速さで一気に僕の懐まで近づいてきた。
「隙だらけね。」
一呼吸もしない内に12回と母親…いやボスの剣術を受けてしまった。
「…う…ぁ」
鋭く深いのを貰いまともに防御できなかった。
体からどんどんと血が流れ出ていく。
「死神と呼ばれているから期待したのだけれど、結局はこの程度なのね…新たな計画を立てないといけないようね。」
長細い通路で待ち伏せしていたのは、動きづらくする為か…。
近距離だとこちらが圧倒的に不利だ。一旦距離を…
バン
「グァ…ァ」
「後ろに行くことぐらい読めているわ。」
ボスは、僕がバックステップした瞬間を狙って銃を撃ち始めた。
「クッ…」
「あら?そろそろ限界かしら?」
正面からでは音速でナイフを振り距離を置けば銃…徹底している。
「さぁ終わりにしましょう?死になさい…死神そしてさようなら。」
先程と同じ速度で迫り来るボス…30mぐらいあった距離が一瞬で0になる。
そして僕は、ボスの剣術をもう一度食らってしまう。
「あら、これで終わりだと思っていたのだけど、しぶといわね。」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
圧倒的な不利このままじゃ切られて終わりだ。だけど…諦めなければ必ずチャンスは見えて来る。
「流石にもう限界みたいね。よく耐えたわ。褒めてあげる。さぁ死になさい死神。」
「!」
音速を持って振られるならその音速を神速を持ってして凌駕する!
やり直しはなし、チャンスは一度限り。
集中しろ…
彼女から振られる真向切りを僕は、横薙ぎで防ぎ、純粋に剣術勝負と出た。
両者共に人の域を超えたスピードで振っているため剣筋などそんなものなど見えなかった。
ナイフとナイフの弾く音が聴こえる。それと同時に肉を切る音も聴こえる。
「不味いわね。」
もっと…もっと速く。更に振る速度を上げる
もはやお互いに残像すら見えない程。常人から見れば、時間が止まっているかのようにきっと見えるだろう。
ここしかない!
ガキンという金属が折れる音が聞こえた。
「しまった。」
ナイフの振る速度を遅くし一撃一撃を重くしボスの持っていたナイフをバラバラに折った。
「はぁ…これで…終わりみたいですねボス。」
「…」
ボスは驚いた表情でその場で座り込んでいた。まさか自分が負けるはずないと思っていたのだろう。
「最後に一つだけ。精子提供したと言ったが何故そんなことをして僕を産んだんだ?」
「だから言ったじゃない、最強の暗殺者を作るって。」
「何故…僕にはわからない。組織には他の暗殺者だっている。そこまでしてこだわる必要が無いと思うけど。」
「フフ…最初から産まれて育てば、命令すれば人を殺す良い『道具』になるじゃない。忠実で最強の暗殺者に私は、こだわったのよ。」
「…」
一歩、また一歩母親へと向かう。
「私を殺せるの?母親よ‼︎」
「この目が殺さないと思うか?」
目の奥にはメラメラと燃えている炎が彼の意志の強さを表していた。絶対に許さない。
そんな意志を母親である彼女は、感じ取っていた。
そして僕は母親に言葉を投げる。
「確かにアンタは俺の母親だ。だけど、子供は大人達の都合の良い道具なんかじゃない‼︎子供にもだって人権はある…選べる権利があるはずだ。
普通に生きたかった…生きてみたかった。こんな血まみれの仕事なんてやりたくなかった。なのにアンタは、俺の意志なんて無視して組織に入れ更には、母親がいないなどと嘘をついた。俺は、普通に仕事してお金を稼いでそんな生活がしてみたかったんだ。」
気がつけば涙を流しながら言葉を話していた。
口調も強くなりいつもの『僕』から、『俺』へと一人称が変わっていた。
「…」
一歩一歩ゆっくりと距離を詰めいく。
すると母親は、口を開いた。
「来るな…来るなァァァァァァア…この怪物…死神…貴方なんか人間じゃないわ。この悪魔‼︎」
ボスとは思えない発言だった。
「言いたいのはそれだけなのか?」
次の瞬間、急所に目掛けて振った刃は、母親だった人に当たった。
「…」
さぁ早く浅倉を殺しに…?
マーシャがいない?いくら周囲を見渡してもマーシャの姿が見えなかった……
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