死神と呼ばれた僕と君

僕はマーシャと共に、マーシャの服を買う為に大型のショッピングモールに来ていた。

「ふーん…何度見てもここはデカいですね。」

「…」

彼女は、マップをじっと見ていた。

「どうしましたか?」

「え、えぇどこがいいのかなって思って…。」

「なるほど…だったらここはどうでしょうか?」

僕は指を指してた。

 『v-ark』このお店は最近の流行に合わせた服や、昔ながらの服、 シンプルな服など数多く取り扱っているお店だ。

「v-ark…名前だけ聞いたことあります。行ってみましょう。」

早速行くところが決まったのだが…気まずい。不思議な関係な為、マーシャにどんな話をすればいいのかが分からない…関係が浅いからここは、シンプルな話題で話しかけるとしましょう。

「マーシャさんは、何歳なんですか?」

「17歳よ。」

「17歳ですかまだ若いですね。」

……終わってしまった。失敗だったのか?

 そんな事を考えていたら目的地に着いた。

良かった…これで気まずくなることも多少無いはず…多分。そんな心配をしながら僕は、お店の中へと入った。


 1時間30分後

やっと買い物が終わった。女の子は、服選びに時間が掛かる事を知らなかったので正直ここまで掛かるとは、思ってもなかった。

 フード付きの長袖にスカートの年頃な女の子が選びそうな服だった。マーシャは、大事に袋を両手で持っていた。

「気に入りましたか?」

「えぇ、その…ありがとうございます…。」

少し恥ずかしそうにマーシャは礼を言った。

「いえいえこれぐらい大丈夫ですよ。さぁ、家に帰って父親の元へと行きましょうか。」

「えぇ、そうね。」

腕時計で現時刻を確認する。

3時15分

後は、帰るだけ…その筈だった。

 「キャァァァ」

「‼︎」

突然女の人の悲鳴がショッピングモール全体に響く。

「どうしたんだ……!」

悲鳴が聞こえた方へと視線を向けると、ナイフで女の人を人質に取る男の姿が見えた。

目の前には、落下防止のガラスがあった。

咄嗟に僕は一歩前と出る。

「ミーシャさん…まさか!」

「えぇ、そのまさかです。」

そう言い僕は、落下防止のガラスを飛び越え二階から一階へと落下し一気に男の近くに近寄った。

「フヒャヒャまさか、お前がいきなり来るとは…死神さんよ〜」

「…‼︎その声は、ナイフ使いのトリオンだな。」

ナイフ使いのトリオン…ナイフを得意とし、人を殺すことに快感を覚えている男。   俺と同じ組織に所属している。

「どうしてお前なんかがここにいる。」

「そんなの決まってるだろぉ〜お前を殺すためだよ。」

「ボスの命令か?」

「そんなの聞いてどうするんだぁ?ここで死ぬっていうのによぉー‼︎」

叫び声と共に全速力で僕に向かってくるトリオン。

一般の人が見たら残像すら見える速度なのだろう。しかし僕から見れば50mを全力で走る幼い子供と同じに見える。

「…!」

奴は、地面を一度強く蹴り加速してきた。避けるタイミング距離感をズラしてきたと言うことか。

 僕は、瞬時に後ろへとバックステップした。すると、鋭い突きが襲った。バックステップしたおかげか突きが僕に届くことは、なかった。しかしもう少し反応が遅れていたら頸動脈切れてノックアウトだった。クッ…まぁ成長してるか…だが…こっちの方はどうかな?

「ふーん、それがトリオンの全力なのか?」

僕は、立ち止まり挑発を奴に投げる。

トリオンは、プライドの高い男だ故に…

「調子に乗るんじゃねぇ‼︎‼︎」

先ほどよりも速度を更に上げて僕に襲い掛かる。

「前から言ってるよなお前は、プライドが高すぎる男だと…」

「うるせぇーここで殺して…ウヒャァー」

トリオンは、叫びながら手に持っていたナイフで鋭く抉り取るように刃をを振るう。

たが、僕は体の軸をほんの少しだけずらし奴の一撃をかわした。

 暗殺者同士の戦いにおいて一瞬でも隙が生じればそれは、『死』を意味する。

僕は、かわした瞬間手に持っていたナイフを奴から奪い一気に有利に立った。そしてひと呼吸も経過しない程、トリオンの脚の腱、そして腹を鋭く刺してやった。

 「クッ…結局お前には、勝てないのかよ…」

「君が負けた理由は、一方的な感情を剥き出したことだ。それによってナイフの振るタイミング、軌道がバレバレだった。」

「ヘッ…そうかよ…ゴッフゴッホ…キツいじゃねぇか…」

男の刺された部分から勢いが止まらず血が体内から外へと出ていく。

「僕達は、そうゆう世界で生きている。負けたら待っているのは、死だけだ違うか?」

「ヘッ…確かにそうだな…違いねぇや…さぁ…ケリぃつけるならさっさと…ゴッフ…しやがれ…。」

血を流しながら喋るトリオン…その顔はどこか喜んでいるようなそんな顔だった。

「そうかい…じゃあな…」

手に持っていたナイフで奴の心臓めがけて刺そうとした時だった。

「待って‼︎」

マーシャの声が聞こえた。

「どうしてだい?」

「なんで…貴方は、こうも簡単に人の命を奪おうとするの…」

「なんでって言われましても…暗殺者同士の戦いに敗れた敗者に待っているのは死だけです。」

「だからって簡単に殺したら…おかしいわ貴方…おかしいわ‼︎どうしてそこまでして人の命を奪おうとするのよ!」

「…」

僕は、彼女の必死の訴えによって気がつけば手を下ろしていた。

「ミーシャ…どうして貴方は、どうして命を奪うの…誰に対して、何の為にその人を殺そうとするのよ…」

「わかりました…殺すのを辞めます。」

僕は、そう言いナイフを地に置いた。

そして自分の服を破り包帯がわりにし軽い止血をした。

「トリオン…最後にもう一度質問します。何故僕を殺そうとしたのですか?」

「クッ…そんなの…俺らの組織に所属してるなら決まってるだろぉ…」

「まさかアイツなのか?」

「あぁ…それとアイツはお前を狙ってる気ぃつけるんだなぁ…」

そう言いトリオンは、目を閉じた。

 こうしてトリオンを倒しマーシャと共に、家へと帰った。



ガチャ

扉の鍵を開け家の中へと入っていく。

「ミーシャさんは…どうして簡単に命を奪うことができるのですか。」

先に口を開いたのはマーシャだった。

「長い話になりますが?」

「構いません。聞かせてください。」

僕達は、ソファーに座りながら話をした。

「僕は、幼い頃からGTSTという組織で暗殺技術を学ばされました。自分の母親なんて知りませんし、自分の名前も知らないのです。」

「でもミーシャだって…」

「偽名です。今でも所属している組織は、幼い頃から子供を道具として育て成人したら、任務がボスから言われます。もちろん任務を失敗してその場で死んだ仲間もいます。失敗して帰ってくれば、組織から“廃棄”とされその後は…ご想像にお任せします。」

「そんな酷い組織があるなんて…貴方は、なんで逃げようと思ったりしなかったの?」

 「組織から逃げてもいつかは、殺されます。それに僕達には拒否権なんてものは存在しません。ボスが死ねと言ったら死に、殺せと言ったら殺す…それだけです。それに感情なんてものもありません。仕事の邪魔になるだけです。」 

 「⁉︎」

「急に何をしてるんですか?」

「貴方の心臓の鼓動を感じていたの…凄く冷たい。」

「心臓の鼓動を聴いただけでわかるのですか?」

「えぇ、貴方もやる?」

そう言われ僕は、彼女に寄り掛かるような体制で彼女の心臓の鼓動を聴いた。

ドクン…ドクン…ドクン

彼女の鼓動はとても弱かった…だけど…

「凄く…温かい…これが君の…」

彼女の鼓動は、弱々しいけれども、温かく、強い意志を感じた。

「マーシャ…」

僕は、ゆっくりと話しかける。

「僕は、人を殺す事で周囲から死神と呼ばれてきました。貴方は…僕の事どう思っていますか?今日も血生臭い現場を見せてしまいました。」

「正直今日のアレは、ビックリしたわ。でも私は、貴方のことを死神なんて言わないわ。だって貴方は、神じゃない…私と同じ人間よ。だから普通に生きていいのよ誰かの言いなりや道具じゃなくて」

「君と同じ人間…」

胸の奥底で僕が、願っていた言葉だった。『死神』響きはいいが、お前は人間じゃないと言っているようなものだ。だからこそ否定して欲しかった。死を司る神じゃなくてただの人間だと。

 その時だった…目から水の粒の様なものが落ちた。次から次へと…止まらなかった。

「マーシャ…僕は、普通に生きていいのでしょうか…感情もない、何もかもがつまらないと感じる僕でも…」

「えぇ、生きていいのよ…貴方には、その権利がある…その不慣れな敬語もやめて自分で自分の未来を決めていいのよ。」

 『普通に生きていい』彼女が発した言葉は、僕の胸の奥に突き刺さった…

  ありのままの自分でいよう。

「マーシャ…これから貴方の父親を殺します…殺す理由は、非人道的な実験している彼をこのまま放っておくわけには行きません。これは、組織の命令ではなく…僕自身の意志です。」

「えぇ、行きましょう。」

僕達は準備を済まし。彼のいる元へと再び向かうのであった。

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