幼馴染と道の角でぶつかるラブコメしてたら、異世界転生してて草。

ぐらにゅー島

道 〜君と過ごした日々〜

「ねね、あれやりたい。

あのー、入学式に遅刻しちゃって、道の角で運命の人とぶつかっちゃうやつ。」


「え、あれ?僕たちで?」


彼は、本を読む手を止めて私の方を見る。

いつもどうり、私は彼の家に居座っているのだが、幼馴染ならこれくらい普通だろう。


「なに?セツナは僕とラブコメしたいの?」

ニヤニヤしながら、彼は私を見てくる。


「はあ⁉︎そ、そういう訳じゃないんだから、勘違いしないでよね⁉︎」

だから、いつも通り、そう、いつも通りに冗談にして流す。


…本当は、彼のことが好きなのに。


「非日常的なことするのも面白いじゃん?ね?」

「うーん。セツナがそういうならやってもいいけど…。日常こそが至福だよ?」

「もー。」


彼とだから、いろんな思い出を作りたいのに…。



「じゃ、行くからねー!」

私達は高校の制服を着て、わざわざ鞄まで装備して近所の道の角まで来ていた。

彼はなぜか執拗に鞄を持っていくのを嫌がったけど…。


私は、走り出す。

彼とあの道の角でぶつかった時に、抱き締められたりしないかな?

やだ、急に緊張してきちゃう。


あまりに緊張し過ぎて、走るスピードも、勢いもどんどん上がっていく。


「「いっったあ!?」」

ドンっと、音を立ててぶつかった。流石に痛い。


「あー、ごめん。勢いよ過ぎたかも…て、え?」


目の前には、制服姿の私がいた。


「…あー、入れ替わったかあ…。」

目の前の私は、髪をかき、やれやれと言った顔をする。


「え、な、なんでそんなに落ち着いてるの⁉︎入れ替わってる⁉︎」

改めて私の姿を見ると、彼の姿そのものだった。


「…。一回落ち着こう。

一回うち帰ってから考える…。」

流石に状況が読めなかったので、頭を冷やしたいところだ。


しかし、身体は正直なもので。

鞄を持つ手が震えてしまう。それで、思わず鞄を落としてしまった。


中に入っていた教科書やノートがこぼれ落ちる。


「あ、セツナ!!」

私の見た目をした彼が私に手を伸ばした様に見えたがその手が私を掴むことはなかった。



次の瞬間、目の前には中世の西洋の様な景色が広がっていた。


「…へ?」

この景色見たことあるな…アニメで。


「あれ、お前…」

声がした方を振り向くと、エルフの女の子がいた。


年は、18ぐらいだろうか?長い金髪はしなやかな絹の様だ。

とんでもない美少女で、女の私ですら見惚れてしまうほどの…。


「ね、何見てんの?きもいんだけど…。てかまたきちゃったの?馬鹿なの?」


…すごい暴言を吐かれた。


「なっ!初対面の人にそれはひどいでしょ!礼儀って知ってる?もー。」

流石に美少女でもこれはひどい。めっちゃ蔑む様な目をしているよ…。


「えー?一緒に異世界転移した仲じゃん?まるで別人みたいだなぁ。」

金髪エルフは、私を品定めする様にジロジロと見てくる。


「そりゃ、私はセツナです!人違いですもん!」

これは、流石に怒っていいよね?


?もしかして、あの噂の幼馴染の?」

「…え?私のこと知ってるの?」


「そりゃー、彼から話は聞いてたからね!」


詳しく聞いてみると、私の幼馴染の彼は、異世界転移者らしい。

昔、彼はこのエルフの女の子と旅をして、やっと私のもといた世界に戻ってきたらしい。

その過程で、私のことも聞いていたらしく…。

それで彼女は私を知っていたのだそうだ。


こっちの異世界での一年間は私たちの世界の1時間に換算されるらしく、私も彼の変化に気がつかなかった。

いや、ちょっと急に大人っぽくなった時があった気がしなくもないけど…。


「入れ替わったと思ったら、その入れ替わった相手が異世界転生者で…。

その身体になったから、私がその能力を相続したってこと?」


「そそ。で、彼が異世界転移するキッカケとなるのは『鞄の中身を落とすこと』だから。セツナちゃんも気をつけた方がいいよー♪」


「どーゆーしくみ??」


てか、私が彼の見た目でも、中身女だって知った瞬間に態度柔らかくなったな、この子。

まあ、私も女の子同士気楽でいいけど…。


「あの。彼と二人で旅してたってことは…。

もしかして彼のこと好きだったりして…?」

「いや、それはないな。」


即答だった。

めっちゃ真顔で即答されて。


「あ、え、ごめん…。」


なんだか微妙な空気が私と彼女の間に流れる…。


「あ、そういえば貴方の名前聞いてなかった!なんて名前なの?」

ちょっと強引過ぎたかな…。思わず空気に耐えられなくて変なこと言っちゃった…!


「あ、私?伊藤清一郎だよ!」

「あ、伊藤清一郎かー!可愛い名前だね!

…ん?」


いとうせいいちろう…???


「えっとー、もう一回聞いてもいい?」

「うん!伊藤清一郎だよ!」 


…???


「あー、あの、私の中身男だからさ!」

「え、その見た目で!?」


あははーと笑う伊藤さんは流石に男の子には見えなかった。


「あーじゃ、伊藤さんも異世界転生してる感じということですか…。」


「そそ。まぁ、彼も私も大体同じ境遇だったよ。

ま、今はセツナちゃんと同じだけどね?」


「あはは…。じゃあ、伊藤さんも高校生ってことかー。緊張するなぁ。」

「あー、セツナちゃんより年上かも。」


「あ、じゃあ大学生ですか?」

「んー、東大行ってたけど、今はもう卒業しちゃったからなぁ。」


なんだか遠い目をして話す伊藤さん。 

大人なんだ…。きっとすごい人なんだろうなぁ。


「ま、私!三十代独身無職なんだけどね!」

「え?」


さんじゅうだいどくしんむしょく…?


「ん―、口癖は『養って♡』だよ!

よろしくね!セツナちゃん!」


…えぇ?


「つまり、君は私を養うべきだよ!」


ちょっと伊藤さんの笑みが悪魔の笑みに見える。

ヤバいな、この人絶対に。


「おーっと!急に鞄を落としちゃったかもっ?」

私はわざと鞄を落として異世界転移することにした。


多分これでもとの世界に戻れるだろう。

バイバイっ!伊藤さん!




目が覚めると、森の中だった。

目の前には焚き火の跡があって、伊藤さんがいた。


「なんでいるのおおおおお!?!?」

「あ、セツナちゃん起きた?」


怖い怖い。

しかも、元の世界じゃない!?


「あー、元の世界にはもう戻れないと思うよ。」

伊藤さんは、声のトーンを下げてそう言う。


「ど、どういうこと…?」

なんだか、背筋が寒くなるのを感じつつ伊藤さんの言葉に耳を傾ける。


「パラレルワールドってあるでしょ?

そんな感じで、世界は沢山あるんだよ。

そのうちの一つに戻る方法なんて、運が良くないと有り得ないでしょ?」


「なにを…言ってるの?」


伊藤さんは、ニタァと笑うと私の近くに詰め寄ってくる。


「私…神なんだ。」

「は…?」


「ほら、君の幼馴染の彼は運が良かったから。

一万回異世界転移して、元の世界に戻れたんだよ。

彼は、私が選んだ神候補だからさー?

その身体に刻まれた使命は消せなかったけれど。」


「神…?使命…?何を言っているの!」


グッと雰囲気の変わった伊藤さんに、恐怖すら覚える。


「だけど、彼にはもう用は無いから。

セツナちゃんにだけ、その身体の持ち主にだけ、用があるから…。」


「この、身体…?」


確かに、私は彼とぶつかって入れ替わった。

だから、この身体に染み付いた異世界転生能力を手に入れた。

それは同時に、神となる使命も任されたということで…。


「俺ももう嫌なんだ。こんな世界。

他に神になる人材を見つけないと、俺は人間に戻れないから。

ね?君が俺を養ってよ。助けてよ!」


伊藤さんは、…いや、もうあの人は伊藤さんじゃないのかもしれない。

神は、自由に飢えていた。


「な、何を言ってるのか私わからないからっ!」

後ろに下がって距離を取ろうとするが、その距離すら詰められる。


怖い怖い怖い。

もしかしたら、私はを畏れているのか?


「ほら、神って、人が勝手に考えた偶像なんだよ。

だから、神も人間の中にいるってことで…。

それに選ばれたのが、俺ってわけ。

なんで俺なのかは、わからないけれど。」


少し寂しそうに笑う

きっと、ソレの人生という道はもう決められているようで。


体中の力が抜けて、おもわず荷物を落としてしまう。




目の前には、墓地が広がっていた。

そこには勿論、金髪エルフの女の子の見た目をしたソレが立っていて…。


「逃げられないヨ?」

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