第11話 R 捨ててください
忌々しいクリスティーナが、アニータに向かって叫んでいる。
ロビンは、体が強張るのを我慢して、アニータを抱きしめながら、クリスティーナへ言った。
「いい加減にしてくれ。クリスティーナ!俺はお前の物じゃない!うんざりだ!」
クリスティーナは、ワナワナ震えながら、ロビンに言った。
「早くその女を離して!ロビン!貴方と私の思い出をみんなに見せてもいいの?」
ロビンは、戸惑った。
ここにはアニータがいる。
アニータにだけは、どうしてもバレたくない忌々しいロビンの過去。
クリスティーナと夜会で再会した時は、脅されて言いなりになったが、もう嫌だった。
あの、くだらない写真で脅されるのも、
クリスティーナに絡まれるのも。
ロビンが緊張している事が伝わったのか、アニータはロビンをそっと抱きしめ返してきた。
ロビンは少し泣きそうになるのを必死に我慢した。
そうだ、俺にはアニータがいる。もうあの過去とも決別しないといけない。
ロビンは、クリスティーナを見て言った。
「もういい加減に、捨ててください。」
ロビン・グリセンコフは侯爵家の嫡男として生を受けた。
優しく穏やかな母、仕事が忙しいが休みの時はよく遊んでくれる父、ロビンを溺愛する祖父母に囲まれ、ロビンは大きくなった。
ある日両親と共に、アッカーソン伯爵家に訪れた時その事件は起こった。
アッカーソン伯爵令嬢クリスティーナと、侍女達に囲まれロビンは身ぐるみを剝がれ、わけのわからない奇抜な女性用の服を着せられた。
ロビンはグリセンコフ侯爵家の嫡男だ。父のグリセンコフ侯爵は有能で厳しいと評判で、その息子のロビンを粗雑に扱ったり、攻撃したりしてくるような人間は今まで周囲に誰もいなかった。
ニヤニヤと笑いながら、ロビンを羽交い絞めにする女達に恐怖を感じ、ロビンは抵抗を諦めた。
不快感を持ちながら言われるままに、奇抜な女の服を着せられる。
何が楽しいのかクリスティーナと侍女達は、クスクスと、笑いロビンに言ってくる。
「本当にかわいいわ。女の子みたい。」
「あら、色気もあるわよ。きっと大人気になるわね。」
「もういつもドレスを身につけたらいいのに、絶対にその方がいいわ。」
化粧をされ、無理やりポーズを取らされる。
早くこの拷問のような時間が終わる事を願って無抵抗でいると、クリスティーナはロビンに、キスをしたり、抱き着いたり、馬乗りになってきた。
気持ち悪い。
もう嫌だ。
クリスティーナからは、甘酸っぱい果物が腐ったような匂いがした。
(はやく、、、はやく終わってくれ。)
部屋に入って来た両親に助けられたロビンは、その後、酷く体調を崩した。
何度も吐き、食事を食べる事が出来なくなった。
母を含め女性が側に寄ると、気分が悪くなる。
医師からは心因性のストレスが原因だと告げられた。
ロビンの周りの使用人は全て男性に変えられ、ロビンは男子校に編入した。
(僕は女じゃない。僕は、、、、)
男子校へ行き、格闘技を習い、体を鍛えた。
もう二度と女に間違えられないように、必死で練習した。
筋肉がつき、体格が良くなったロビンだが、顔立ちまでは変える事が出来なかった。
時々、同級生からもロビンは可愛い顔をしていると揶揄われる。
正直うんざりしていた。
このままではダメだ。苦手を克服していかないと、、、
ロビンは、高等部は男女共同の学院へ行く事にした。
そこで、ロビンは忌々しいクリスティーナと再会する。
ロビンを呼び出したクリスティーナはロビンにあの時の写真を見せてきた。
「ロビン。見て。よく撮れているでしょ。貴方と私の大事な思い出よ。」
そこには、あの忌々しい服を着ているロビンが写っていた。肩まで揃えられた銀髪のロビンは化粧をされ、女の服を着ている。そのロビンにクリスティーナがキスをしたり抱き着いてきたりしている。
ロビンは、クリスティーナの持つ写真を奪おうとする。
クリスティーナは、ロビンに写真をあっさりと渡してきて言った。
「ふふふ。これは貴方にあげるわ。まだ私沢山持っているの。これを学院の皆に見せたらどうなるかしら。きっとロビンは凄く人気者になると思うわ。」
ロビンは言った。
「頼む。やめてくれ。お願いだから捨ててください。」
クリスティーナは笑う。
「いいわよ。ロビンが私の彼氏になってくれるならね。私達が学院を卒業したら捨ててあげるわ。」
ロビンは、クリスティーナの要求を飲んだ。
だけど、嫌悪感が強くクリスティーナと接触する事ができない。クリスティーナがロビンに近づき触ろうとしてくると吐き気がこみ上げるからだ。
クリスティーナもそんなロビンを見て、ロビンが学院で彼氏役をするだけで満足しているようだった。
もう少しで卒業だ。
もう少しだけ我慢をすれば、、、
だが、父にクリスティーナがロビンに近づいて来ている事が知られてしまった。
ロビンは正直に、クリスティーナに写真を使い脅されていると伝えた。
父は、アッカーソン伯爵家に抗議した。その後すぐにアッカーソン伯爵家は没落した。
クリスティーナから写真を渡して貰う前に、彼女は国外へ消えた。
あの時の写真はどうなったのか?
クリスティーナがいなくなった事は嬉しいが、写真の事だけが気がかりだった。
ロビンは学院卒業後、輸入共同事業に携わる事になった。女性の事は苦手なままで、集団での会話は問題ないが、女性と二人きりになる事がどうしてもできない。
両親もロビンの事を心配していた。だけど、ロビンにはどうする事も出来なかった。
そんなある日、輸入共同事業パーティでアニータに出会った。
アニータは、小柄な金髪の女性で妖精のような美しさをしていた。
ロビンは、一目見てアニータに視線が釘付けになった。
ふわふわとなびく金髪、小柄で美しい容姿。この世の物とは思えなかった。
いつのまにかロビンはアニータに近づいていた。その時、アニータがバランスを崩しこけそうになる。とっさにロビンはアニータを支えた。
アニータは、美しい緑色の瞳でロビンを見て言った。
「ありがとうございます。とっても力が強いのですね。」
ロビンは、見惚れながらアニータに言う。
「ああ、鍛えているから。貴方は大丈夫ですか?」
アニータは、頬を染めながらロビンに言った。
「はい。大丈夫です。」
その後、何度かアニータと会い、ロビンは告白された。
アニータはロビンの「男らしい」ところに惹かれたと告げてきた。
ずっとコンプレックスだった女性のような顔が、ロビンは急に気にならなくなった。
アニータは美しい。
まるで妖精のようだ。
アニータと二人で過ごしてもロビンは平気な事に気が付いた。
それどころか胸がドキドキと高鳴り幸せな気持ちになる。
愛している。
誰よりも好きだ。
アニータの事が、、、、
アニータに「捨ててください」と言われたが、ロビンはアニータと別れるつもりなんてない。
ガーランド公爵との誓約書は複製したものを燃やした。
離婚届は、あえて綴りを間違えて不受理になるようにサインをした。
アニータを迎えに行く前に、あの忌々しい女を養子に迎えたアマージス男爵家との契約を捨てるつもりだった。
契約破棄の段取りを終えて、ロビンはアニータを迎えに行った。
そう、愛するアニータと再び暮らせるなら、
その為なら、、、
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