第8話 胸の高まり

ロビン・グリセンコフ公爵令息が部屋に入って来た。


ロビンは、少し疲れたような表情をしている。



それでも、アニータを見て、ほっとしたように微笑みかけてきた。



アニータは自分の胸がドキドキと音を立てている事が分かる。



(ああ、ロビンだわ。やっぱり素敵。私の愛する人)



ロビンは、アニータの所に近づいて来て言う。



「会いたかったよ。アニータ。すまなかった。一緒に帰ろう。愛している。」



アニータの隣で、母が頬を染めて悩まし気な溜息をついている。



兄は、呆れたようにロビンを見て言った。


「よくそんな言葉を言えるな。恥ずかしくないのか。」



母は、兄を小突き言う。


「今、いい所なのよ。邪魔しないで。」



アニータの母は、昔から劇場へ行く事が趣味だった。特に恋愛劇が好きで、ロビンを見て、劇団の俳優よりいい声をしているとよく興奮していた。


たしかにロビンの顔立ちは整っている。銀髪碧眼の長身の美男子。その場に一緒にいるだけで、アニータは幸せな気持ちになる。



アニータは言った。


「ロビン。私たちは離婚したのよ。貴方と一緒に行けないわ。もういいの。貴方には私よりもっと相応しい人がいるじゃない。私の事はもう、、、、」



ロビンは言う。

「違う!離婚なんてしていない。あの女は、俺がこの世で一番嫌いな女だ。」



離婚していない?



どういう事だろう?



たしかに私は離婚届にサインをして父に渡した。



父がグリセンコフ侯爵邸へ行き、ロビンのサインを貰って提出したはずだった。



訝し気に思っていると、父が急にやって来た。



「アニータ。離婚届が不受理に、、、、、



ロビン。なぜここに?」

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