四分の一
「私、死んだんだなぁ。誰も、私のこと、見えないんだなぁ。」
太陽さえも、私のことを見てくれはしなかった。数粒の涙は照らされることなく流れた。お父さん、お母さん、やっと会えるね。怒られちゃうかな。そんなことばっか考えている間に、いつの間にか辺りは暗くなってきていた。後ろを見ると、街灯が灯りだし、家の明かりも増えてきた。
『・・・はる・・・』
あと何をしようか迷ってたときに、 私を呼ぶ声が聞こえた。
「、、、誰?」
『・・・はる・・・』
耳の奥で何回も聞こえた。語りかけてきた。しかし、後になって私ははっとした。私の名前は『はるみ』であった。私のことを『はる』と呼ぶのは雄馬だけであった。他の人からは、名字とか、はるみとかって呼ばれ、『はる』とは雄馬以外に呼ばれることはなかった。
「これは、雄馬の声だ。」
そう思ったが、当の本人は植物状態であるのに、なんで聞こえるのか不思議でたまらなかった。声は段々と鮮明になってきた。
「東の方向から!」
そう思うと同時に体は動いていた。もちろん、風の切る音は全くしない。
「あ、勢いつけすぎた!」
曲がり角をスピードを落とさないで走ったら高くそびえ立つ塀に衝突しそうになった。しかし、痛みを感じなかった。確かに肘が当たった気がしていたが。よく見ると、指先は消えかかっていた。再び天に召されるときには、体が少しずつ無くなっていくらしい。
「でも、体が透けてるなら、直行できる!」
声のする方へ、地面が痛みを感じないくらいに重力をかけながら走っていた。
「はぁっ、はぁっ、ゆ、雄馬、雄馬!待ってて!」
塀も、鍋を囲んでいる家庭も、雪も、人も、車も、全てにぶつかりながらただ声のする方へ走り続けた。その先に何が待っていようが、この声の主のところへ行かなきゃ悔いが残る気がした。午後十時、辺りはすっかり暗くなり、やっと雄馬の家がある県に辿り着いた。
タイムリミットはあと二時間、それまでに雄馬のいる病院を探さなくてはならない。
「雄馬、はぁっ、絶対っ、絶対行くからっ、待っててね!」
私が消えても誰も時間は止められない、いつかは忘れる、そう思ってた。私にできることなんてちっぽけでしかない。でも、ちっぽけでも、欲している人はいる。それがこの世界に二人かもしれないし、一人かもしれないし、いないかもしれない。でも、今、確実に一人はいる。その一人を変えられるようなことを最後にしたい。やることは決まった。これで、もやもやした気持ちがすっきり晴れて、お母さんたちに会うことができるよ。お母さん達も、待っててね。
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