鮎原のカード
「本人は『出会えてよかった』と思っているのに、『出会わない方が良かった』とも言える、ということはつまりその発言の主語は千晶なにがしの周りの奴らだと言うことでしょうね」
「…そういうことです」
「単純に変な男に千晶なにがしがひっかかった、そういう話ではなく、本人は陶酔しているのに、周りが迷惑することだからじゃないですか。つまり…宗教、霊感商法、マルチ…この辺りのことです」
「そうです、彼女はネットワークビジネスにはまったんです。その“はやと”って人に会って」
「なるほどね。ふーん」
「ネットワークビジネスの活動が忙しくなって、大学にも来なくなって、しばらくしたらある日出会ったんです。渋谷駅の改札口前で。男と二人一組で勧誘していました。あとで知ったのですが、彼らは男女一組で勧誘することが多いそうです」
「ああ…いますね、改札にそういう人」
「そして男の顔を見ると、はやとでした」
ピカッと鳴って、すぐに雷鳴がした。一気にゲームと言うよりホラーに近くなったな。これは現代版の怪談か。
「それを見かけた後、千晶は大学をやめていたことを知りました。だからでしょうか、きっと槙くんが全く千晶のことを覚えていないのは」
同級生だったが、途中で消えていた、だから覚えてない…まあその可能性もある。
「ま、そこまではわかったけど…問題はどうしてネットワークビジネスをやっている奴だとボケボケ大学生の俺が見抜いたのか、か…」
ソファに比べて背の低いテーブルの上に鮎原のスマホを置き、二人で覗き込む。
「わかりませんか?」
「読み解いたってことは、この男がネットワークビジネスをやっている奴だと写真に何か写り込んだ、もしくは勧誘をしていることが暗に書かれている…この可能性だと思うんだけど、この文章、いけ好かないだけでそういうことが読む取れるようになっているわけではないんですよね」
「何か写り込んでますかね?」
「ホワイトニングですっていう真っ白な歯以外そこまで不自然なところはない気がします。ま、でもまあ文章の方はまったく違和感がない文章という訳でもないんだですけどね」
「どこがですか?」
「いやだってアプリで不慣れとか今時そんな操作迷うことないだろうし、週3でジムって情報も『ジム行ってます』で済む話なのに頻度入れたりとか。知性を疑います」
「そこまでいいます?」
と言って鮎原はクスクス笑った。
「ちょっと待ってくださいね」
鮎原はごそごそとクリーム色のハンドバックから、小さなメモ帳とペンを取り出して、書き出した。
何をヒントに推理したか
① 写真に何か写り込んでいた
②勧誘していることが暗に書かれていた
「この二つの可能性が考えられるってことですよね。なら①も②もバレた原因は不注意、そうなりますよね。つまり意図せずに槙くんに伝えてしまった」
おれはあごに手をあて、それがロジックとあっているか考えた。
「その可能性はある、けど、その観点から行くと両方とも違う可能性もあるかもしれないです」
「というと?」
「勧誘していることのシグナルを出しているのなら、故意にその“情報”を入れた可能性がある」
「そんなことあるんですか? それって避けてくださいって言っているようなものではないですか?」
「避けてください…か。勧誘したくない相手がいるのならそうだね」
「? でもそれって難しくないですか、だって勧誘したくない相手側にも、共通して知っている暗号が必要ってことじゃないですか」
「シグナル、暗号、ネットワークビジネス…」
俺は鮎原のスマホを手に取り、あらためて自己紹介文を読んだ。
「…37か」
「サンナナ?」
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