余りのないジジ抜き
ちょっと待ってくださいね、もしかしたらまだあるかも。そう言って、鮎原はスマホを取り出して、何やら操作し始めた。ちょっと待ってくださいね、たぶん、ここに…と同じことをつぶやきながら約1分。
「あ、ありました! これですこれ!」
見ると、それは白い歯を見せて笑う溌溂とした印象の男性が映っていた。子犬を連想させるような顔立ちだ。
「これが千晶とあった男性のマッチングアプリの画像です。これを見たんですよ、槙くんは」
爽やかな笑顔の下には自己紹介文が付いている。
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はやと 22歳
プロフィールを見てくださりましてありがとうございます。
普段出会いの場がないので友達の紹介ではじめました。始めたばかりでわからないことも多いですが、もしよかったら気軽に話しかけてください✨
【趣味】
食べること、特に焼き肉好きです!
週3でジムに通っています。
ネットフリックスで映画もよく見ます。意外と涙もろいです汗。
【タイプ】
笑顔が素敵な方で、一緒に楽しい人。
旅行に行くのが好きなので一緒に旅行行けたらいいですね(#^.^#)
まずはメッセージで仲良くなれたらなって思います。よろしくお願いします。
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「どうですか?」
「どうって…いけ好かないとしか」
「そう? なんですか? 割と好印象に見えますけど」
「このタイプっていう欄の、笑顔とか一緒にいて楽しい人ってタイプじゃなくて好きな人の好きなところでしょ…ってそんなのはどうでもいい、そもそもですよ」
「はい?」
「今回のこの話、俺しか知らないこと、俺は知らないこと、鮎原さんしか知らない事、鮎原さんが知っていることがあるんですよ」
「そうですね、まるでジジ抜きみたいに」
「しかもそのジジ抜きに余るカードはない。お互いに見せ合えばすぐにわかることですよね」
それを聞くと鮎原が窓に眼を向けた。
「合コンって初めにゲームとかしたりするんじゃないですか?」
「は?」
「行ったことないので知らないですけど、ゲームしたりするって、人狼とか。そうなんですよね?」
「知らないです、合コンとか呼ばれたことないんで」
「…あ、そうですよね、すみません」
「謝らないでください、みじめです」
「すみません、いえ、言いたいことは槙くんをいじめたいのではなく、話すことがあまりないのならゲームでもしましょうよ。そしたら嫌でも話せるでしょう? それにどうせ槙くんはこの雨の中出られませんし、わたしもしばらくここで待たなければなりません。それなら槙くんとお話、したいんです」
なるほど…つまりこれは一つのゲームって訳か。会話がない俺たちの。
5年前の俺がこの男の何かを読む取り『この男に会うのはやめとけ』と言った。そしてそれは千晶本人にとっては『出会えて良かった』と言える出会いであった。しかしそれは『出会わなければよかった』と言わざるを得ないということでもあった。
この情報から、鮎原が持つ手札のほうが先に推測はできるな。
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