忠告

 スタッフが淹れたての熱いコーヒーを持ってきた。俺は冷えた舌に少しずつ流した。苦くて沁みる。

「千晶…?誰だっけ?」

「原田千晶ですよ」

 首をひねる。だれだっけか? …だめだ、もうかれこれ卒業して5年経つと、もうわからん。

「で、その千晶さんがどうしました?」

「千晶、槙くんに言われたんですよ、『その男、会うのやめとけ』って」

 コーヒーを吹き出しそうになった。なんでそんな千晶とやらにそんなメロドラマみたいなことを言っているのだ?

「俺…、その時猛烈に好きだったのにこっぴどく振られたことが原因で思い出せなくなっているのでしょうか…?」

「でもないですね、当時から千晶について何とも思ってなかったと思います」

 そうかそうか。

「火曜日2時限目の宗教学、あの時間に千晶がマッチングアプリでマッチングしたイケメンについてみんなに話してて。千晶はほら、同学年の中心人物だったじゃないですか、だから女子も男子も聞いてて」

 全く覚えていないが、大学生の鮎原や俺はその千晶の近くを小さな惑星のように周遊してたようだ。

「で、その千晶のイケメンなお相手のプロフィールをみんなで見ていたんです」

「へえ」

 野郎のプロフィールなんて見せられてたのか、俺。

「“イケメンだね”、“うまくいくといいね”、まあみんなそんなこと言う中でぼそっと槙くんだけが『やめとけ』って言ったんですよ」

 その場は一瞬凍りついたらしい。当の千晶はあからさまに不機嫌になり、『なんで?』と聞いたが俺は曖昧にしか答えなかったそうだ。

「それからみんな槙くんが千晶好き説とか言って、千晶がお相手に会うまでそんなことが噂になりましたね」

「全然覚えてないんですけど、千晶さんが好きだったとは考えにくいと思います」

「そうですね、わたしもそうだと思います」

「で、その後どうでした?」

「千晶はこう言ってました。『出会えてよかった!』って」

「ああ、ならよかったじゃないですか」


「でも見方を変えたらんです。槙くんが予言したように」

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