すべての起源






「わたしの知っている中で、もっとも隠密能力が高いのはあなたよ。あなた以外に、輝夜の師匠は務まらないわ」


「さっきから言ってるが、俺の技は紛れもない”暗技あんぎ”なんだよ! あんなお嬢様に教えられるわけねぇだろ」




 夜の時間。

 人々が活動を終えるその時間に、人と悪魔は言い争っていた。




「あなたの意見は聞いてないわ。あなたは黙って、輝夜に技術を与えなさい」


「だから、無理だって言ってるだろ!?」




 紅月輝夜の契約悪魔、”ドロシー・バルバトス”と。

 彼女らを監視する役目を持った男、”ウルフ”。


 2人は、輝夜に”技を教える”ことについて、互いに主張をぶつけ合っていた。




「そもそもだな。俺の技は、特別な才能と、絶え間ない努力によって編み出されたもんなんだよ! それを体育祭までに会得したいだぁ? 寝言も大概に――」


「――うるさい」




 埒が明かないので。

 ドロシーはウルフの顔面を掴み、力づくでの説得を試みる。




「ッ、てぇ」




 まるで、赤子を持ち上げるかのように。

 ドロシーとウルフの実力差は、もはや歴然であった。




「”輝夜を止めるため”にも、あなたの協力が必要なの」


「はぁ? どういうこった」




 顔を鷲掴みにされながら、ウルフは問う。




「あの子のプライドは凄いのよ。高いのか、低いのかは分からないけど。もしも方法が見つからなければ、”足をサイボーグ化”するって言ってたわ」


「……バカじゃねぇのか?」


「……彼女はたまに、視野が狭くなるのよ」




 影沢舞や、アトムなどの契約悪魔。身近に多くのサイボーグが存在するため、輝夜はサイボーグ化に対するハードルがかなり下がっていた。


 見た目で分からないなら、中身が人工筋肉でも問題ない、と。




「たかが体育祭だろ? 他に、もっと心配することがあるだろ」




 輝夜の思考回路は、ウルフには理解不能であった。




「とりあえず、お嬢様本人と話せねぇと」


「あの子はもう寝てるわ。色々と考えて疲れたから、スカッとする夢を見るって、言ってたわ」


「くそっ。契約する悪魔が化け物なら、飼い主もまともじゃねぇってことか」


「そういうこと。あなたは黙って、明日から輝夜に技を教えてくれればいいの」




 世界は単純である。

 力の強いものが、弱いものを従わせる。


 ウルフはただ、理不尽に屈するしかなかった。

















 ウルフが、理不尽な目に遭っている頃。

 この街の中心、姫乃タワーでは。



 ロンギヌス日本支部長官、”紅月龍一”と。

 月の魔女こと、”リタ・ロンギヌス”が対峙していた。



 同じ、ロンギヌスという立場ながら。思想も立場も、何もかもが違う両者。

 特に龍一に関しては、リタを非常に危険視していたのだが。





 彼女の口から聞かされた、”10年後の未来”という話に、動揺を隠せずにいた。





「……そんな突拍子も無い話を、急に言われて信じろと?」


「ええ。あなたが困惑し、わたくしを信じないのも予想済みです」




 対するリタは、全てが予想通り、という表情をする。




「ウルフさんが言っていました。”龍さんは用心深いから、嘘は絶対につくなよ”、と」


「……ウルフ、だと」




 まさかの名前に、龍一はさらに動揺する。




「ふふっ。この時代ではまだ、出会ってすらいませんが。10年後の未来では、わたしと彼は友人同士なんです。数少ない、”力ある人間”ですので」




 リタには、多くの仲間が居た。自分に全てを託して、送り出してくれた仲間たちが。

 その中の一人が、ウルフだったというだけ。




「色々と聞いていますよ。あなたと出会った、最悪の戦場についてとか。鍵を奪うために奮闘した、これまた嫌な思い出とか」


「はっ。それは確かに、あいつしか知らない話だな」




 恐らく未来において、すでに話し合いをしてきたのだろう。

 龍一と対峙したときに、どういった会話をするべきなのかを。


 その自信があるからこそ、リタはここへやって来た。




「わたくしはただ、ソロモンの夜を解決するために、この街の調査を行いたいだけです。それ以外に、望みはありません」


「……」




 迷いなく、微笑みを浮かべて。リタは自らの正当性を主張する。

 自分は敵ではない、必要以上に踏み込むことはないと。


 しかし龍一は、それでも信用ができない。

 なぜなら相手は、リタ・ロンギヌス。


 龍一が、”もっとも警戒する存在”の1人なのだから。




「”輝夜”に接触されるのが、怖いですか?」


「ッ」




 それは、もっとも危惧する名前。

 しかし、リタの表情は優しいまま。




「心配は不要です。わたくしは確かに、ロンギヌスの中でも特別な1人、エーテルに属する人間ですが。わたくし個人の意思は、他の者とはいささか違うものでして」



 嘘偽り無く、リタは言葉を紡ぐ。




「この世界に、変革をもたらす鍵。”完全適合者”であっても、わたくしは捕らえようとは思いません」




 リタは知っている。龍一が輝夜を隠そうとする理由。ロンギヌスの上層部に知られたくない理由。

 この世界で唯一、輝夜にしかできない”役割”を知っている。




「理由は単純です。わたくしは、輝夜の数少ない友達ですから。あの子が幸せを手にするためなら、世界だって敵に回せます」


「……未来では、君と輝夜は、それほどの関係なのか」


「そうですわね。未来と言いますか、過去とも言いますか。わたくしには、償いきれないほどの”罪”がありますので。”今度こそ”、彼女を幸せにしてみせます」




 今度こそ。

 それはつまり、リタの歩んできた歴史では、叶わなかったということ。


 紅月輝夜にとっての、”幸せ”とは。




「これで、お分かりになりましたか? わたくしもあなたと同様、彼女を守る立場にあると」


「そう、らしいな」




 輝夜に関する秘密。

 そこまでを知られているのなら、もはやリタを仲間として受け入れるしかない。


 もしも彼女が、完全に”ロンギヌス側”であったのなら。輝夜という存在を巡って、戦争が起きてもおかしくはない。

 人も悪魔も、全ての世界を巻き込んでの戦争。


 輝夜は、その”引き金トリガー”になりかねない。




「幸いにも、まだ猶予はあります。ジョナサン・グレニスターとはすでに話をつけているので、彼がここへ来ることはありません。ゆえにまだ、”からの王”は目覚めないかと」


「ソロモンの夜を止める手立ては、何か存在するのか?」


「いいえ、申し訳ありませんが。未来においても、ソロモンの夜は謎に包まれた事件でしたので。この盛大なる儀式の首謀者、そしてその目的すら、明確な情報はありません」




 10年後の未来。

 その時点での知識をもってしても、解決不能な問題は存在する。




「分かっているのは、”最悪を起動するスイッチ”のみ。すなわち、ジョナサンの襲来です。彼個人というよりも、彼の持つ遺物レリックが引き金でしょう。一定以上の遺物レリックが姫乃に集まることで、この儀式は完了します」


「……遺物レリックが集まることで誕生する、”からの王”と。”姫乃の崩壊”か」


「ええ。すでにこの街には、バルタの騎士やあなた方を含め、非常に多くの遺物レリック保有者ホルダーが集まっていますから。そのパーセンテージが一定量を超えると、何らかの術式が起動すると、わたくしは考えています」


「そしてその術式が、この街の何処かに仕掛けられていると?」


「ええ。未来において、我々も散々計算しましたが。これだけの現象を起こすには、やはり土地そのものに式を刻む必要があるかと」




 かつて、仲間たちと散々話し合い。リタはソロモンの夜について、一つの仮説を立てていた。




「恐らくこの一件の首謀者は、”始めから”姫乃に遺物レリックが集まると予測していたのでしょう」


「その根拠は?」


「……それはやはり、”あなた”の存在が大きいかと」


「……そうか」





 紅月龍一が、人類の中でも特に強い存在であること。

 世界の危機を救った”英雄”であることは、非常に多くの人々に知られている。


 なにせ、魔王を殺した人間など、彼くらいなもの。


 その武勇と、契約悪魔ニャルラトホテプの功績もあり。

 彼は、ロンギヌス日本支部長官という地位まで手に入れた。




 まともな思考回路を持つ人間なら。多くの遺物レリックを集め、力を蓄え。

 そして最後に、龍一のいるこの街へやって来るだろう。


 ジョナサンですら、日本を狩り場にしつつも、絶対に姫乃には近づかなかった。

 単独で戦えば、間違いなく最強の遺物レリック保有者ホルダー

 バルタ騎士団と並ぶ、メインディッシュなのだから。




「もしもわたくしが手を回さなければ。ジョナサンは機を狙って、この街を襲っていたでしょう。というより、実際にそうなりましたから」




 そうして、姫乃の地に”からの王”が誕生。

 多くの強者たちを殺戮し、ソロモンの夜は終りを迎えた。




「……今更ながら聞くが。お前の言う”からの王”とは、どういった存在なんだ?」


「最終的に、”姫乃ごと吹き飛んだので”、わたくしも正確な情報は知らないのですが」




 それでもリタは、自らの知る限りの情報を提示する。




「”からの王”とは、全ての遺物レリックが集まることによって再臨した、”古代の王”であると考えられています」


「古代の王?」


「ええ。わたくしの友人、”魔王アモン”が、その古代から生きる悪魔でしたので。かろうじて、その存在を知ることができました」




 沈黙の魔王。

 輝夜の協力者であるアモンも、未来においてはリタの仲間であるらしい。




「その王の名は、”ソロモン”。かつて、地上を支配していた”人の王”です」


「……ソロモン王、”聞かない名”だな」


「ええ。彼の存在を恐れた天使や悪魔によって、その痕跡は歴史より消され。砕かれた彼の魂は、”無数の欠片”として世界中にバラ撒かれました」


「無数の欠片? つまりそれは」




 龍一は、自らの持つ指輪に、軽く触れる




「ええ。それらが全て、”ソロモン王の欠片”なのです」




 王の指輪。禁断の遺物。

 ソロモンという名前こそ消されても、その圧倒的な存在だけは消しきれず。


 数多の権力者、運命の波を渡り。

 そして今、”一つ”に集まりつつある。




「ソロモンとは、何者だったんだ? なぜ悪魔たちに殺された?」




 それは当然の疑問。

 遺物レリックの大本であった存在。彼は一体、どのような人物であり、なぜ悪魔たちに恐れられたのか。




「アモンさん曰く。――ソロモン王は、”悪魔を生み出した人間”、だったらしいです」


「悪魔を、生み出した? 人間が、悪魔を生み出しただと?」




 それは、想像もしない事実であった。

 遥かな昔。消し去られた歴史の中に、彼らの”起源”があったなど。





――魔神の反逆により霧散した、黄金の時代。





「ソロモンの夜の参加者には、皆このメッセージが送られてきています。つまり黒幕は、ソロモン王を蘇らせ、黄金の時代とやらを復活させたかったのでしょう」


「だが、結末はそうならなかったようだが」


「……ええ」




 もしも、黒幕の思惑通り、全ての遺物レリックが一つになり。

 古代の王、ソロモンが復活していたのなら、もっと別の未来が訪れていたはず。


 しかし、現実に発生したのは、後に”空の王”と呼ばれる、ただの怪物であった。




「実際に目にした、輝夜いわく。空の王は”頭のない巨大な怪物”で、ただ暴れまわるだけの存在だったそうです」




 地上を統べるもの、偉大なる王とは程遠い存在。

 頭という大切な部分の欠けた、空っぽの王である。




「だが、その怪物が生まれた結果、姫乃は滅びたんだろう?」


「ええ。かなり凄惨な光景であったと、輝夜から聞いています」





 空の王は、全ての遺物レリックが一つになることで誕生した。

 すなわち、多くの遺物レリック保有者ホルダーが、戦うための力を失ったとも言える。


 バルタの騎士も、龍一も、そしてジョナサン・グレニスターも。

 彼らの戦闘能力とは、契約する悪魔によるものが多い。

 それを失った状態で、全ての遺物レリックを吸収した怪物と戦わねばならなかった。




 龍一のように、悪魔抜きでも強い者も居たであろうが。

 やはり、大幅な戦力ダウンだったことは事実であり。


 彼らは必死に抗うも、最終的には街と運命を共にした。





「その空の王は、最終的にどうなった? 自然消滅したのか、あるいは別の存在に倒されたのか」


「空の王は倒されましたよ。たった1人、生き残った最後の遺物レリック保有者ホルダーによって」


「……1人だけ、吸収を免れた者が?」


「ええ。なぜ彼だけが影響を受けなかったのか、それは不明ですが」




 ソロモンの夜、たった1人の勝者とも言える少年。

 彼という英雄がいたからこそ、空の王による被害は、姫乃のみで抑えられた。




「彼の名は、”花輪善人”。あなたも、存在は知っていますよね?」


「ああ」




 無論、名前は知っている。輝夜がよく行動を共にしている、友人であると。




「なにせ彼は、”輝夜の幼馴染”ですし。そんな彼だからこそ、輝夜を姫乃の崩壊から守ってくれた」


「……?」




 そのワードに、龍一は引っかかる。




「少し、待て。輝夜とその少年は、幼馴染なのか?」


「あら、そんな事も知りませんでしたか。まぁ、あなたは娘に対する関心が低かったようなので、別に驚きはしませんが」




 リタは当然のように、輝夜と善人について語り始める。




「お二人の出会いは、姫乃第一病院まで遡ります。輝夜として目覚めたばかりの彼女は、人間に対して”激しい憎悪”を抱いていましたが。月の呪いを酷く受ける少年、花輪善人を見て。哀れみから、手を差し伸べたと」


「……」




 それは、龍一の知らない話。

 そもそも、”あり得ない話”であった。




「それで、2人はどうしたんだ?」


「そこからは、ずっと一緒だったと聞いています。輝夜は呪いに蝕まれた身体を、魔術によって強引に動かし。髪が白く染まりつつも、人並み程度の身体能力を手に入れた、と。それで、善人さんの呪いを自らの手で防ぎつつ。彼というたった1人の友人を通して、人類の可能性を見極めようとしたとか」


「……そう、か」




 龍一は考える。

 一体、何が違うのか。

 何が原因で、これほどまでに認識が乖離しているのか。


 呪いに蝕まれた身体を、魔術によって強引に動かした。


 龍一の知る限り、輝夜はそんなことをしなかった。

 少なくとも、あの当時は魔力の存在すら知らず。5年近くにも及ぶ厳しいリハビリで、輝夜は動ける体を手に入れた。

 髪の毛だって、今も美しい黒のままである。


 それに、花輪善人との出会いが、そもそも時期が違っている。

 確かにあの頃、輝夜のリハビリと、善人の通院時期は被っていたかも知れない。だがしかし、2人はそこで出会わなかった。


 輝夜はリハビリに必死で、善人はルナティック症候群への対処法が見当たらず。

 2人は交わること無く、それぞれの道を歩んでいった。




 輝夜と善人が出会ったのは、高校1年になってから。


 入学初日の骨折事件。

 その後、オンラインゲームを通じて、奇跡的な2度目の出会い。


 あの2人の関係は、そこが”始まり”である。




 出会う時期が違ったから、これほどまでに歪みが生じたのか。

 いいや。龍一は、もっと根源的な部分に、その可能性を見出した。




「空の王が出現した時、輝夜は戦わなかったのか? あれ自身にも、それなりの戦闘力はあるはずだが」


「いいえ? 輝夜は一度も、”戦いなどしていません”。元々、争いを好まない性格でしたし、戦闘センスに優れていたわけでもないので」


「……そう、か」




 龍一は確信する。

 リタの話す歴史と、この世界のたった1人の”相違点”を。


 リタの知っている輝夜と、この世界で生きる輝夜は、まったく”異なる性格”をしている。


 そしてそれが、非常に多くの矛盾点を発生させているのだと。




(10年後からのタイムスリップ。どうやら、”完全”に成功したわけではないらしい)




 龍一はそれに気づくも、あえて指摘はしない。


 なぜ輝夜は、それほどまでに異なる行動を取ったのか。

 そして、そこに理由はあるのか。


 けれども1つだけ、信じられることがある。





(――”俺の娘”なら、きっと大丈夫なはずだ)





 どちらの輝夜が、果たして正しい存在なのか。それはさしたる問題ではない。



 互いに背を合わせ、魔界から生き延びたあの娘が。

 龍一にとっては、何よりも”誇り”なのだから。










◆◇










 遠いマンションでは、ドロシーとウルフが理不尽なやり取りを。

 街の中心である姫乃タワーでは、龍一とリタが共に手を取り合う契約を。




 それぞれが、自分たちなりに真剣に物事に取り込んでいる中。

 問題の紅月輝夜は、心地の良い眠りに包まれていた。




 あまり悩みすぎても、きっと答えは出ない。頼れる悪魔たちが、きっと二人三脚の攻略法を編み出してくれるはず。

 ゆえに輝夜は、問題を他人任せにして。

 自分はのんきに、新作の夢データに浸っていた。




 ストレス発散。

 いわゆる、無双系の夢データ。


 その名も、”ムサシ無双演武”。


 異世界に転移した宮本武蔵になり、様々な怪物を一刀両断していく、単純明快な夢データである。




 いくらジャンル分けされているとは言え、夢データの役割は使用者に安らぎを与えること。

 ゆえに、ゲームのように難易度がどうこうという話はなく。

 誰でも確実に、怪物を薙ぎ払う無双感を味わえる、そういうタイプの夢である。




 殺しまくれば、きっとストレスも吹き飛ぶだろうと。

 ムサシ無双演武の世界で、輝夜は刀を振るい続ける。




 まったく見事な二刀流。ご都合主義の夢データとは言え、それなりに操作をしている感覚はあるようで。

 次々に現れる怪物を、バッタバッタと薙ぎ払っていく。




 この爽快感は、確かにストレス発散になるかも知れない。きっと朝起きた頃には、清々しい気分になっているだろう。


 そんなことを、考えたり、考えなかったり。


 あくまでも夢の中のため、輝夜は無心に刀を振るい続け。




 ゆえに、”その声”は大きく響いた。





――なんとも、趣味の悪い夢を楽しんでるわね。





「はぁ!?」




 声が聞こえた。

 聞き慣れない、それでもよく知っているような声が。


 それがどこから聞こえるのか、輝夜はそこに意識を向けると。



 握っていた刀の1つが、真っ黒に染まっていき。

 輝夜のよく知っている、”あの刀”と全く同じ形へと変化する。




「……これは、カグヤブレード?」




 なぜ夢の中に、自分の大切な相棒が出てきたのか。

 困惑する輝夜に対し、再び声が聞こえてくる。





――ふふっ。全くの偶然とは言え、”とんでもない宝具”を生み出したものね。”同じ輝夜”として、正直あれが一番の驚きだったかも。





 夢の中に、聞こえる声。

 いいや。夢の中だからこそ、その声は聞こえるのかも知れない。


 奇跡的に、”届いた”のかも知れない。




「どこのどいつだ? お前。人の夢にちょっかいかけるなんて、デリカシーってものが無いのか?」




――デリカシー? あなたにそれを言われると、なんだかすっごくムカつくわね。




 声は確実に、カグヤブレードから聞こえてくる。

 おそらくはそれが、”繋がり”を強める要因なのだろう。





――わたしはあなた。あなたはわたし。本来なら、とっくに消え失せるはずだった。あなたに責任を押し付けた、”張本人”ってところかしらね。





「はぁ!?」




 ただでさえ、ここは夢の中。

 ふわふわとして、思考を巡らせる余裕など無いというのに。


 その声は明確に、重要なメッセージを伝えてくる。





――全部投げ出して、あなたに任せたつもりだったけど。それでもやっぱり捨てきれない、ほんの僅かな”心残り”。





 そこまで聞いて、輝夜はようやく気づく。

 ブレードから聞こえてくる声が、自分のそれに似ていることを。





――意地悪な魔女と出会う前に、少し話をしましょうか。





 大きな世界。

 小さな世界。


 矛盾を生んだ全ての”起源”が、そこに居た。





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