過去、現在、そして
とても、とても長い間、人類と悪魔は交わることがなかった。
王の指輪、
しかし、およそ1400年前。”現在とは別の要因”で月に異常が起き、
時の権力者たちは、こぞって
すると当然のように、それを悪用する者も現れるようになった。
神秘が失われて久しい時代。王の指輪、悪魔の力に抗う方法は、当時の人類には存在せず。それに抗うべく誕生したのが、”バルタ騎士団”であった。
運命の導きか、それとも宿命か。彼らは
悪魔の力を好き勝手に利用するのではなく、人と悪魔で共存する道を模索しようとしていた。
悪魔の力を悪用する権力者たちと、バルタ騎士団の戦いは何十年にも及び。その間に、彼らは多くの悪を挫き、
だがしかし、彼らの活動はある時を境に完全に停止してしまった。
月に起きた異常。それが解決したのか、あるいは自然に直ったのか。月の加護は再び強固になり、
敵も、そして味方も、互いに悪魔の力に頼ることができなくなり。やがて騎士団は、その存在意義を失い。
後の時代に”希望”を残して、組織は解散。その意志を継ぐ子孫たちは、世界各地へと散っていった。
騎士の末裔の中で、最も重要な血を引いているのが、”聖剣”の担い手であるアリサで。ランスの一族も、騎士の末裔としてアリサの一族を守り続けてきた。
そして、現在。
”月の呪い”の発生に加えて、”ソロモンの夜”という未知なる儀式が発生。
それにより、世界各地で
マドレーヌによる、アリサ襲撃事件が発生。
それを機に、今代のバルタ騎士団は動き出した。
◇
「それでなんで、お前らはこの街にいるんだ?」
諸々あって、輝夜はマドレーヌに勝利し。彼女の口から、バルタの騎士に関するあれこれを聞いた。
だがしかし、唯一にして最大の疑問が残っていた。
「話が確かなら。お前はアリサ達を襲った凶暴なガキで、完全に敵同士だったはずだろう?」
「……」
輝夜の問いに、マドレーヌは沈黙をもって答える。
プライドゆえか、それとも単に気に食わないのか。言うつもりはないと、断固とした意思があった。
ちなみにすぐ側では、ほぼ死にかけのウヴァルが横たわっており。
ドロシーに木の枝で突かれるも、それに反応する気力すら残っていなかった。
「死人に口無し。……ほら、正直に答えたらどうだ? そうしないと、お前のパートナーの悪魔、放置しすぎて死ぬぞ?」
「……こ、この。悪魔め!」
「綺麗な人間のお姉さんと呼びなさい」
ここに、ろくな性格の人間はいなかった。
「それにわたしは、お前よりかは遥かに理性的だぞ? ――”命令”だ。しっかりと、お前がここにいる事情を説明しろ」
「ぐっ」
輝夜の声。その瞳に見つめられると、マドレーヌは胸の鼓動が抑えられなくなる。
もう、元の自分には戻れない。なぜなら、ブレードによって刻まれてしまったから。
「……アタシとウヴァルは、アリサ達に負けたんだよ」
「ほぅ? そっちの悪魔は、グレモリーより強いとか言ってなかったか?」
「確かに、サシでの戦いならウヴァルは負けなかった。でも、アリサが持ってた聖剣、”カリバーン”ってやつがインチキでよ。その力に、アタシらは負けたんだ!」
バルタの騎士の末裔。その筆頭であるアリサには、古来より継がれてきた”希望の力”が宿っていた。
その力に、マドレーヌとウヴァルは敗北。ソロモンの夜のルールに則って、
ならばなぜ。マドレーヌは再び
「まぁ、色々とあってな。アタシも、”バルタの騎士の末裔”だってことが判明したんだよ。そしたら、アリサの奴はほら、無駄に優しいというか、なんというか……」
バルタ騎士団の筆頭。アリサ・エクスタインは寛大で、そして人を信じやすい性格であった。
ゆえに、勝手な戦闘は行わない、裏切らないということを条件に。マドレーヌは騎士団のメンバーとして、再び
「勝手な戦闘は行わないって。……お前、それ、守れてないんじゃないか?」
「う、うるせぇ! 騎士団の仲間はともかく、お前らの力なんて信用できねぇからな。アタシがこうやって確かめて、あわよくば、お前から
「お前、清々しいほどのクソガキだなぁ。……あのランスとかいう奴の態度も悪かったが、お前は筋金入りだ」
「チッ。同じ騎士の末裔って言っても、アタシとあいつらじゃ育った環境が違うんだよ!」
マドレーヌは、輝夜に臆することなく吠える。
「アタシは、欲しいものは力ずくで奪う。そうしないと、生きられない環境だったからだ」
「……なるほど、な。生まれ育った環境が、お前をそんな性格にしたのか」
話を聞いて、輝夜は少しだけ考えを改める。
「可哀想に。きっと、言葉に出来ないほど、ひどい目に遭ってきたんだな。金持ちのおっさんに金で買われて、身体を好き放題されて、挙句の果てに見世物にされたり――」
「――んなことされてねぇ!!」
そこまで、酷くはなかった。
「盗みや暴力が当たり前。まぁ、いわゆるスラムってやつだよ、アタシが育ったのは」
「あぁ。アメリカだと、そういうのもあるんだな」
マドレーヌ・クラインは、そういった環境で育ってきて。
そして、今に至るのだろう。
小さくて、赤毛のツインテールで。可愛い顔をしているのに、性格はまるで大違い。
(よく見たら、こいつ。ちっこくて可愛いな。……生意気な感じが、どこか
マドレーヌを見て、輝夜はそんな事を思った。
「……」
「なに見てんだよ、お前」
すると輝夜は、
「……お手」
「……あぁ?」
マドレーヌは困惑する。
「言葉、分からないのか? お手だよ、お手」
「い、いや。お前」
「”命令”だぞ? お手をしなさい」
「うぐぐっ」
輝夜の言葉には逆らえず。
マドレーヌは酷く睨みながら、輝夜にお手をした。
「な、何なんだよ、これ」
なぜ逆らえないのか、マドレーヌには分からない。
「ほら、わたしに刺されただろ? それでお前は死んで、そして生き返った。わたしの刀で生き返った奴は、人間だろうと悪魔だろうと、わたしに逆らえなくなるんだよ」
「聞いてねぇぞ! そんな話」
「知るか。そもそも、お前が勝手に攻撃してきたんだから、自業自得だろ」
「くっ。お前、性格が腐ってやがるな」
「お互い様だ。――ほら、お座り」
「ッ」
輝夜から、再び命令を受け。
マドレーヌは渋々ながら、その場にぺたんとお座りした。
その様子に、輝夜はとても笑顔になる。
「よしよし。いい子だなぁ、お前は」
よほど機嫌を良くしたのか。
輝夜は、マドレーヌの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「なっ、撫でんな! このバカ!」
突然の行為に、彼女も顔を赤くする。
しかしそんな反応も、輝夜の心を喜ばせるだけだった。
「ふふっ。今日からお前には、わたしの”妹分”になってもらおう」
「はぁ!?」
唐突な妹認定に、マドレーヌは困惑する。
「輝夜は心が広いのね。自分を襲ってきた相手を許して、しかも妹にするだなんて」
「あぁ。生意気なクソガキを好き勝手にできるなんて、最高だからな」
輝夜とドロシーは同調していた。
(!? なんだコイツら、意味が分からねぇ)
マドレーヌには、理解の及ばない領域である。
「おい、ウヴァル! どうにかしてくれ!」
「……悪い。呼吸するので精一杯だ」
優しい姉と、叛逆の騎士。
彼女たちの戦いは、こうして幕を下ろした。
◆
「知っているかしら。月には、あなたと同じ名前のお姫様が居るらしいわよ」
「かぐや姫のことか? お前、よく知ってるな」
輝夜とドロシーは、ともに月を見ていた。
自宅のベランダで、何気なく。何も特別なことはなく。
夕方にあった戦いなど忘れて、ただ2人は月を見る。
「かぐや姫なんて、ただの”おとぎ話”だよ。あの星に生き物は居ない。月にあるのは、真っ赤な呪いだけ」
「……そうね。確かに、わたしもそう思うわ」
空にて、鈍く輝くのは。地上に呪いを振りまく真っ赤な月。
とてもとても、恐ろしい天体。
これだけ離れていても、地上を呪い、人々に恐怖を与えているのだから。きっとその地表は、想像もできないほどに穢れているのだろう。
人も、悪魔も立ち入ることのできない、死の世界。
この世界の月面は、きっとそうなっている。
だからもし、かぐや姫の物語が存在したとしても、もうあそこには暮らしていないだろう。
20年前の異変で死んだか、あるいは何処かへ引っ越したのか。
あの星には、ウサギもかぐや姫も暮らしていない。
2人は、月を見る。
だが、ただそれだけを目的として、こうしてベランダにやって来たわけではない。
輝夜とドロシーには、話すべきことがあった。
「……マドレーヌ達が襲ってくる直前。お前が、わたしに聞いてきた質問なんだが。――お前は、どこまで知ってるんだ?」
「……」
それは、輝夜の心を乱した言葉。
どうしても無視できない、唐突な質問。
――”今回とは違う出会い方”だったら、どうしたかしら。
「そう、ね」
質問を投げかけた者。ドロシーも、少し考える。
輝夜が驚いたように、彼女にも”覚悟”があったのだから。
そして、それを言葉にする。
「あなたに、”前世”が存在すること。あなたの前世が、たぶん男だったこと」
「……それで?」
知っていることは、もちろんそれだけではない。
「あなたは一度、時間を”逆行”したことがあるわね。逆行に至る理由は知らないけど。……逆行する前の時間では、わたしとあなたは、きっと”敵同士”だった」
「あぁ」
輝夜が思っている以上に。想定していた以上に。ドロシーは、輝夜の隠している秘密を知っていた。
血の繋がった家族にも話していない。この世界では、影沢舞しか知らないはずの情報。なぜドロシーが、それを知っているのか。
だがそれを尋ねる前に、輝夜には”答える義務”があった。
「……確かに、前回は敵同士だったよ。わたしは魔界から逃げる立場で、ドロシーはそれを追う立場だった。魔王アガレスの尖兵として、な」
「そう、なのね」
それを聞いて、ドロシーの表情が少しだけ暗くなる。
「まぁ、お前は当然のように強かったからな。わたしやカノンの力じゃ、到底逃げられるような状況じゃなかった。だが、そこでわたしの父が助けに来てくれてな。ほんと、ヒーローみたいに」
「それで、どうなったの?」
「……結末は、知らない。わたしは栞を連れて、一足先に姫乃に帰って。龍一は、戻ってこなかった」
「……」
「その後に、アモンに聞いたんだが。お前や他の魔王は、龍一をその場に留めるための囮にされたらしくてな。全員まとめて、アガレスの爆弾で吹き飛ばされたらしい。だからきっと、お前も死んだんだろう」
それが、輝夜の知る結末。
”もう一度”と、そう思わせるに至った、絶望の1つ。
「じゃあ、つまり。あなたが未来に絶望したのは、わたしが邪魔をしたから」
「いいや、そうじゃない。お前が来ようが来まいが、あの時のわたしは”失敗”してた」
自分の命なんてどうでもいい。
どうせ、呪いで長くは生きられない身体。だから自分を犠牲にしてでも、寿命を捨ててでも、他の人を助けられればいい。
そんな”間違った決意”から、輝夜は失敗を選び続け、挙句の果てに最愛の理解者を腕の中で失くした。
”この世界にも、自分を愛してくれる人が居る”。
それに気づけなかった時点で、最悪の未来は決まっていた。
「わたしは今、後悔しないように生きてる。心臓の呪いも絶対に治して、成人した姿を、舞やみんなに見せたい。一度しかない高校生活を、全力で楽しみたい。体育祭だって、活躍した姿を見せたい。――それがわたしの、素直な気持ちかな?」
「……そう。そんな、素晴らしい未来に。わたしなんかが、存在してもいいのかしら」
「あぁ。そんな事を、気にしてたのか」
なぜ、そんな秘密を知っているのかは、一旦置いておいて。ドロシーはそれを知って、とても”不安”になったのだろう。
もしかしたら輝夜は、自分を恨んでいるのかも知れない。いつか、縁を切られるのかも知れない。
それとも、恨みを押し殺して、自分を道具として使い続けるのかも知れない。
他者の心は分からない。人も悪魔も、それは変わらず。だからこそ、疑心暗鬼になってしまう。
分からないからこそ、言葉で知りたいと思ってしまう。
「まぁ、確かに。前回は敵同士で、印象は最悪だったが」
今思い出しても、あの時のドロシーは意味が分からなかった。
自分たちを捕らえるため、アガレスの命令で動いて。そしてなぜか、輝夜の持っていたイヤリングを勝手に奪った。
まるで、意地悪する子供のように。
しかし、そんな記憶は、すでに遥か遠く。
”現在”という名の輝きに、とっくに塗りつぶされていた。
「前回は前回、今回は今回だよ。いま目の前にいるのは、わたしの召喚に応じてくれた、最強で最高の悪魔。――その名前は、何だった?」
少女は、美しい表情で微笑み。
契約悪魔は、震えていた手を、ギュッと握り締める。
「わたしの名は、ドロシー・バルバトス。あなたをこの先、ずっとずっと、そばで守り続ける悪魔よ」
「ははっ、ずっと?」
「ええ。あなたを蝕んでいる心臓の呪いも、この先に立ちはだかる敵も、わたしが全部吹き飛ばしてあげる」
「それは、随分と頼もしいな。…………ん?」
主と、契約悪魔。その絆を、改めて確認する両者であったが。
そんな中で輝夜は、ある事実に気づいた。
思いついて、しまった。
輝夜が隠している、とっておきの秘密。前世についての話や、失敗したイフの話。
それらを知っているのは、最大の理解者である影沢舞のみ。
そして、影沢とそんな話をするのは、決まって”あの場所”。
「お前、まさか」
「?」
ドロシーは、純粋無垢な顔をしている。
罪を罪とも思っていない、無邪気な子供のように。
「わたしと舞が、一緒に風呂に入ってる時。お前まさか、”聞き耳”立てたりしてないよな?」
「……」
そう尋ねられて、ドロシーの表情は固まった。
それに加えて、あからさま過ぎる”沈黙”。それが、輝夜の問いに対する答えであった。
「お前。嘘、だろ」
ドロシーは、非常に戦闘に特化した悪魔である。
大剣を用いての破壊行為、肉体を駆使しての暴力行為においては、他者の追従を許さないものの。それ以外に、何か特殊能力を持っているわけではない。
あえて言うなら、魔力感知能力がずば抜けているが。それで人の心を覗いたり、記憶を盗み見ることは不可能であろう。
ならばどうやって。どんな場所で、いつ、それらの情報を入手したのか。
答えは明らかであった。
「……ほら。あなた達って、決まって一緒にお風呂に入るから。わたしもせめて、その気分を味わいたくて」
「それで聞き耳を立てて、諸々の秘密を知ったわけだな?」
「うん」
ドロシーは、ある程度の自由行動を許されていた。
しかし輝夜は決まって、影沢とお風呂に入る。すでに決まっている行動なので、そこに入っていく隙間は無い。
ゆえに苦肉の策として、ちょっとした出来心で、ドロシーは”盗み聞き”をしてしまった。
結局は、それだけの話である。
「お前、盗み聞きは犯罪だぞ!」
「し、知らないわ」
「知らないじゃ済まされないぞ。お前、わたしよりも年上だろう」
「だって、お風呂の外で聞き耳を立てちゃダメだなんて、あなた言ってなかったじゃない」
「常識で考えろ! このバカ」
「……そもそも、気づかないあなた達が悪いのよ」
「気づくか!」
主と悪魔の、そんな可愛らしい言い争い。
そんなさなかも、赤い月明かりは変わらず。
輝夜のイヤリングを、淡く照らしている。
「それに、隙だらけなのよ、あなたは」
「何だと?」
「だってほら。現に今だって、”わたし達以外に”秘密を喋ってるじゃない。……もしかして、気づいてなかったの?」
「……どういう、意味だ?」
輝夜は気づかない。そこに思い至っていない。
自分がどうやって、何と繋がっているのかを。
ドロシーは、仕方がないと溜め息を吐いた。
「お風呂に入る時と、寝る時以外。”それ”をずっと身に着けてるの、忘れているの?」
「……あ」
輝夜は、思い出したように。
自分の左耳にある、月とウサギのイヤリングに触れた。
善人が勝ってくれたプレゼント。何となく気に入って、ずっと身に着けているこれ。
以前はただのイヤリングだったのだが、今はそうではない。
これは、”
「それを耳に着けてる限り、わたしたち悪魔と、契約者であるあなたは繋がっているの。だから、そうね。今わたしたちが話していた内容も、他の男連中に筒抜けなんじゃないかしら」
「……」
それに気づいてしまうと、もう恐ろしくて仕方がない。
いつも、いつだって。
それこそトイレに行く時だって、このイヤリングを着けていたのだから。
「……お前たち、ちょっと出てこい」
顔を真っ赤にしながら、輝夜がそう呼びかけると。
その声に応じるように、カノン、アトム、ゴレムの3人が姿を現した。
ベランダはぎゅうぎゅう詰めだが、もはやそれどころではない。
輝夜にはどうしても、確認するべきことがあった。
「つ、筒抜けだったのか? 今までの会話は」
「「「……」」」
その質問に、3人の悪魔はバツの悪そうな顔をする。
仕方がない、繋がっていたのだから。
むしろ、なぜその考えに辿り着かないのか、逆に不思議なくらいである。
「……これからは、こまめに外さないとな」
輝夜はイヤリングを外して、その手に握り締めた。
今の会話を聞かれたことよりも、”その他の場面”でも筒抜けだったのが恥ずかしすぎる。
なぜ今まで、筒抜けだと教えてくれなかったのか。
輝夜の頭は、プッツンと。
「――お前ら、記憶が無くなるまで殴ってやる!!」
その日、紅月家のベランダは崩壊した。
◆◇
「……にわかにも信じられないな。そんな結末を迎えるとは」
「ええ。ですが、これが真実なので」
日本、姫乃から遠く離れたリゾートホテル。
その最上階のスイートルームにて。
ジョナサン・グレニスターは、”月の魔女”と称される、リタ・ロンギヌスと話していた。
「この先に待つ運命。ソロモンの夜は、人類史における”最悪の事象の1つ”に過ぎません。たとえ夜明けを迎えても、希望は何も残らない」
虚構か現実かも分からない、魔女の言葉。
それはまるで、予言のように。
「この事象の終盤で、姫乃の街は跡形もなく吹き飛びます。多くの人命が失われるでしょう。今をときめく
「たった、1人だって?」
「ええ。言うなれば、この戦いの”勝者”とでも表現しましょうか。わたくしは、実際に見てはいないので、確かなことは言えませんが」
「……つまり僕は、その勝者では無いわけか」
「あら。どうして、そうお思いですか?」
試すような、魔女の微笑みに。
ジョナサンは毅然とした態度で応える。
「当然だろう。もしも僕が勝者なら、君がここに姿を現すはずがない。”介入”する必要が無いだろう」
「ええ。ご名答ですわ」
残酷に、魔女は笑う。
「ジョナサン・グレニスター。あなたは、ソロモンの夜を生き残れません。いいえ、それだけならまだしも。あなたは数いる
「……」
正面から受け止めるには、あまりにも重たい言葉であった。
「ジョン。彼女の言葉に嘘はないよ。この僕が保証する」
沈黙を破り、アスタが魔女の言葉を支持する。
それが残酷にも、真実であると。
「ソロモンの夜は、まだ始まりに過ぎません。それより遥か先に待つ、”最悪の未来”。それを回避するために、わたくしは」
――時を、遡ったのですから。
誰かが、そうだったように。
認められない未来は存在する。
そして、それを覆そうとする意思。
”結末を塗り替える奇跡”も、また。
Re:
ソロモンの夜
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