≒色彩
それは、どこか。
遠い場所、深い場所。
深い深い、海の底。
人類が立ち入っていない、未開の土地。
そこで眠り続ける、”1つの宝具”があった。
それは、”輝きを失わない器”。
神か、仏が使った器であろうか。人によってはこの器を、”聖杯”と呼ぶこともあるだろう。
遥かな昔。極東の島国へ向けて、遠い異国より運ばれてきたものの。
嵐によって失われた、古の聖杯。
”■■■姫”が提示した、”■■■■■”、その1つ。
おとぎ話として忘れ去られた、遠い昔の恋物語。
多くの生命にとって、立ち入ることのできない深海の領域。
そこに、近づくものが1人。
それは、人間の女。
古めかしい洋服を身に纏う、美しい金髪の美女。
彼女はまるで宙を漂うように、深海の底を移動していた。
彼女が近づくにつれ、”古の聖杯”が輝きを増していく。
共鳴するように、鼓動を放っていく。
女性の首にかけられた、”貝殻のようなネックレス”が、その理由であろうか。
遠い昔のおとぎ話。
結果として1つも集まらなかった、■■■■■。
けれども、およそ1300年の時を越え、そのうちの2つが女性の手に。
”魔女”の手に。
確かにその瞬間、”運命”が歪曲した。
◆
「こーら」
「あ
ポンっと頭を叩かれて、輝夜は目を覚ました。
今は午後の授業中。
けれども輝夜はすやすやと眠っていたため、担任の女教師によって起こされてしまった。
「ご、ごめんなさい、紅月さん。軽めに、ポンってしたつもりだったんだけど」
あまりにも輝夜のリアクションが大きかったため、教師も驚いてしまう。
その”一瞬の隙”を、輝夜は見逃さない。
「先生。わたしは非常に身体が弱いので、下手したら頭蓋骨が砕けてましたよ? これでもし成績が下がったら、先生のせいですから」
「……はい。しゅみません」
無論、教師は軽くポンっとしただけなので、輝夜は特に痛みを感じなかった。
ただ飛び起きたから、反射的に、
とはいえ、居眠りという自分の罪を隠すために、輝夜は教師を脅した。
この行為によって、輝夜の授業態度の悪さが保護者の耳に伝わったのは、もはや言うまでもないだろう。
◇
放課後。
輝夜、善人、桜の3人は、ともに校門へ向かって歩いていた。
「そういえば、珍しいよね。かぐちが居眠りなんて」
「確かに。輝夜さん、授業中の姿勢だけは立派なのに」
「……姿勢良くしてないと、ケツが痛くなるんだよ」
普通に生きているだけでも、輝夜は体にガタが来るので。マットや背もたれなどを駆使して、非常に姿勢良く授業を受けていた。
とはいえ、相変わらず授業の内容は入ってこない。
そんな輝夜であったが、今日は珍しく居眠りをしていた。
「なんかここ最近、”変な夢”を見るというか、な」
「えっ。もしかして輝夜さんも、ルナティック症候群に?」
「いや。悪夢ってほどじゃないというか。なんか、変な電波を受信してるような」
輝夜はここ数日、言葉にできない、奇妙な夢を見るようになっていた。
今日見たのは、”深い海の底”で何かを拾うような、そんな不思議な夢。
「まぁ。かぐちもほら、脳インプラントしてるから。そういうこともあるんじゃない?」
「あぁ……」
忘れがちではあるが。ルナティック症候群の人間、それに輝夜は、脳に特殊なチップを埋め込まれている。
それが夢の原因であると、輝夜は勝手に解釈した。
「そういえば、わたし。この間からずっと調子が良いというか。夜の時間帯になっても、悪夢を見る気配すら無いんだよね〜……もしかして、治ったのかも」
「……」
そんな桜のつぶやきを聞いて、輝夜は思い出す。
不動連合、ジョナサン・グレニスターとの一件があった夜。
眠っている自分の手を、桜がずっと握っていたことに。
輝夜は、色々と察した。
「それは、あれだな。わたしに長いこと触れてたから、月の呪いに耐えられるようになっただけだな」
「あっ、なるほど」
輝夜と善人は、それで納得するも。
「えっ? なにその設定」
桜は、まるで理解していなかった。
仕方がないので、ここだけの秘密として事情を説明することに。
「ここだけの話。実はわたしは特別な体質でな、月の呪いを無力化できるんだよ。だから善人も、最近は悪夢を見てないらしい」
「えぇ〜? ほんとに?」
「うん、一応ね。僕の体感だと、1週間くらいは耐性が保つ気がする」
「えぇ……じゃあ、なに? もしかして2人って、定期的にナニカやってるの?」
「ナニカって! そんな変なことしてないよ」
「あぁ、その通り。健全も健全。――まぁいわゆる、”JKリフレ(?)”、ってやつだな」
「……え」
果たして、その言葉の意味を真に理解しているのか、それは不明だが。
輝夜は、とんでもない一言をぶっ込んだ。
桜の距離が、少しだけ2人から離れる。
「ご、誤解だよ? 誤解。……確かに、ある種のリフレッシュかも知れないけど。ゲームのついでとかに、軽く触れてもらってるだけだから」
「そうそう。ちなみに、足でのプレイが基本だな」
「……」
桜の距離が、さらに2人から遠ざかる。
輝夜は、何食わぬ顔でベラベラ喋るので。
善人が誤解を解くには、かなりの労力が必要であった。
「で、かぐちに触ってもらうのに、なにか対価とか要るの?」
「ん? そんな必要はないぞ。まぁ、友だちだからな。たまにジュースでも奢ってくれればいい。あっ、お菓子でもいいぞ?」
「……輝夜さん、そういう部分では優しいから」
お菓子やジュースを貢ぎ、時々無茶な命令をされ、その対価として”安眠”を与えられる。
輝夜と善人は、健全な契約を結んでいた。
「かぐち、かわいい〜」
「……お前の場合は、現金だな。とりあえず、1時間1000円くらいで」
「うわっ、ケチ!」
そんな、くだらない会話に花を咲かせて。
輝夜たちが、学校の敷地内に残り続けていると。
「――お三方、少々よろしいですか?」
「ん?」
いつまで校門に現れないので、しびれを切らしたのか。
紅月家の使用人、”影沢舞”が、輝夜たちのもとへとやって来る。
「どうかしたのか?」
普段はどれだけ遅くても、校門で待ち続けているというのに。今日は校内までやって来た。
その行動に、輝夜はいつもとの違いを感じ取る。
「そうですね。善人さんに、桜さん。お二人はこの後、暇でしょうか」
どうやら影沢は、輝夜たち3人に用があるようで。
善人と桜は、両者ともに予定がないことを告げた。
「では、輝夜さんと一緒に、お車に乗ってください。皆さんを案内したい場所があるので」
そんな、影沢の要望に従って。
輝夜たち3人は、紅月家の自家用車に乗った。
善人が助手席に座り、輝夜と桜は後部座席に。
「で、どこに行くんだ?」
「輝夜さんには、馴染み深い場所ですよ。――”姫乃第一病院”です」
◆
姫乃第一病院。
それは、輝夜が生まれ育った場所。
紅月姉弟はこの病院で産まれ、そこから10年にも渡って輝夜は眠り続けていた。
目を覚ましてからも、病院内でのリハビリ生活は5年近くに及び。
もはや輝夜にとって、この病院は実家にも近い感覚であった。
そんな病院に、輝夜、善人、桜の3人が招かれる。
「本日はよろしくお願いします、ダニー先生」
「ああ、ようこそ」
病院で輝夜たちを出迎えたのは、輝夜の主治医であるダニー先生。
いつも通りといった様子で、影沢と挨拶を交わす。
「そっちの子は、今回が初対面になるかな?」
「あっ、どうも。竜宮桜です」
そっちの子とは、桜のこと。
桜は、ダニー先生と軽い挨拶を交わした。
「あぁ? 善人は初めてじゃないのか?」
輝夜が疑問を口にする。
「えっと、はい。ダニー先生は、僕の病気も見てくれているので」
「そうだよ。かれこれ長い付き合いになるけど。まさか、輝夜くんと善人くんが、クラスメイトだったなんてね」
ダニー先生。
本名、ダニエル・バトラーは、紅月龍一とも深い関わりを持つ特別な医者である。
脳インプラントを始めとしたサイボーグ技術、ルナティック症候群の治療に携わる第一人者。
それゆえ、重度の罹患者である善人の治療にも尽力していた。
「じゃあ、なんだ? 下手したらわたし達は、高校に入る前から出会う可能性があったわけか」
「あっ、確かにそうですね」
輝夜がリハビリに励んでいた時期と、善人がこの街にやって来た時期は重なっている。
ひょっとしたら、2人は病院内で出会い。
”全く異なる物語”を、歩んでいたのかも知れない。
「ッ」
その可能性を考えた瞬間。
不思議と輝夜は、胸に痛みを覚えた。
自分ではない誰かの心が、悲鳴を上げるかのように。
「それじゃあ。桜くんも、関係者ってことでいいんだね?」
「あーはい。一応、指輪は持ってて、魔力みたいのも感じます」
「なるほど、了解した。それじゃあ案内するよ」
輝夜、善人、桜。そして、影沢を合わせた4人。
全員が、”その道”に通ずる者であると確認すると、ダニー先生は彼女たちをある場所へと案内した。
◇
真っ暗な部屋に、明かりがつく。
そこは、病院内でも特に異質な場所であった。
表で使われている設備とは違う、異次元の電子機器。魔力を発する精密機械。
人工的に造られた、人体のパーツなど。
ここは、ごく一部の人間しか知らない秘密の部屋。
科学と魔法の融合する、特別な研究室であった。
「おお!」
この空間の独特な雰囲気。
隠れ家的な空気に、輝夜は興奮を隠せない。
「病院の中に、こんな部屋があったんですね」
同じく、善人も驚いていた。
姫乃第一病院は、最先端を行く姫乃の中でも、最も設備に優れた病院である。
脳インプラントに、最新のリハビリ施設、ナノマシン技術の開発。
しかし、この研究室はそれと比べても”上”を行っていた。
人間界の技術ではない。
魔界で見た、テックマスターの技術や、第1階層の軍事施設、それにも近い技術。
というよりも、”ニャルラトホテプの隠れ家”にも近い印象を受けた。
「舞は、知ってたのか?」
「ええ、もちろん。ここは、”タマモさん”の使っていた研究室なので」
タマモ。
それはあまり知られていない、ニャルラトホテプの本名。
「わたしの体のメンテナンスも、普段ここで行っているんですよ」
「あぁ、そういう事情か」
影沢舞は、人間では珍しい高純度のサイボーグである。
ゆえに、整備できる場所も限られていた。
ロンギヌスにも認知されていない、龍一の秘密の1つ。
彼とその仲間によって守られ続けてきた、ニャルラトホテプの遺産とも言える部屋が、この場所である。
「とりあえず今日は、君たち全員の魔力を測定したいんだけど、いいかな?」
「なんでだ?」
ダニー先生の言葉に、輝夜たちは首を傾げる。
「君たちの知っての通り、姫乃の街はセキュリティが厳重でね。悪魔の侵入を許さないために、防壁や入場ゲートがあるのはもちろん、街中の至る所に”魔力センサー”が設置されてるんだよ」
病院や学校、その他の公共施設など。
それはまるで、監視カメラのように。
「”未登録の魔力”がそのセンサーに引っかかるとね、面倒なことに、ロンギヌスの実働部隊が動く羽目になる。君たちは、そんな経験ないかな?」
「……あー」
輝夜と善人は、あの始まりの夜を思い出す。
2人が悪魔に遭遇し、善人が覚醒、アミーを召喚した、あの夜。
確かにあの時は、武装した集団が輝夜たちの前に現れた。
「というわけで、ここで君たちの魔力を測定して、データベースに登録しようと思うんだ。そうすれば、街中で魔力を使っても、ロンギヌスが動くことはないはずだよ」
「なるほど、な。……その理屈でいうと、龍一もデータベースに登録してるのか?」
「もちろん。彼は、この街の偉大なる守護者だからね。当然だよ。……あと、輝夜くんの魔力も、すでに登録済みだよ」
「……え?」
そんな話は、聞いていない。
「君が魔界から帰ってきた日。眠っている君を、龍一がここに連れてきてね。”どうせこいつは魔力を乱用するから、今のうちに登録しておこう”って、言ってたよ?」
「……乱用とは、心外だな」
心当たりがありすぎるので、輝夜はしかめっ面をするしかない。
「できれば、君たちだけじゃなくて、契約している悪魔の測定したいんだけど、いいかな?」
「あぁ、はい。大丈夫だと思います」
「……確かに、特にドロシーはヤバいからな」
輝夜を除いた、善人と桜。
そして、輝夜と善人の契約する悪魔たち、全員の魔力を測定することに。
「じゃあ、善人くんから始めようか」
◆
病院内の研究室。
そこにある装置に、善人は座らされていた。
「ノイズが混じるから、
「了解です」
善人は指輪を外すと、それを装置の側に置き。
そんな彼の様子を、輝夜はしゃがんで見つめていた。
「わたしも、寝てる間にこれに乗せられたのか?」
「あはは、そうだね。……そういえば、あの時の龍一は面白かった。なにせ、娘に触れる機会が今までなかったからね。君に怪我をさせないよう、すっごい真剣な顔をしてたよ」
「へー」
つくづく難儀な父親であると、輝夜は思った。
「そこの丸い部分に手を置いて、軽く魔力を込められるかい?」
「……や、やってみます」
ダニーの指示に従って、善人は機械に手を触れ。集中した様子で、そこに念を込める。
すると、彼の内側にある力が溢れ出し。
善人の座っている機械、その全体が”黄金”に輝き出した。
「おおっ、これは」
機械の示す反応に、ダニーは驚きを露わにする。
「しばらく、そのまま魔力を維持できるかい?」
「あ、はい」
若干テンション高めに、ダニーは機械を操作し。
「……眩しい」
ここにいたら日焼けしそうなので、輝夜は機械から離れていった。
◇
「ドロシー、今日の晩飯は何だと思う?」
「……マイの用意した食材を見るに、多分スキヤキね」
「おお、それはいい」
輝夜とドロシーが、部屋の隅っこでそんな話をしている間も。
善人の魔力測定は続いていた。
「善人くん。君の持つ魔力は、ほかと比べてかなり特殊だね」
「えっと。そう、なんですか?」
「ああ」
そう言われても、あまり他の例を知らないので、善人にはピンとこない。
「そもそも、言うほどサンプルも多くないんだけどね。輝夜くんや龍一、その他大勢を合わせたデータと見比べても、君の魔力は格段に”色”が濃いんだ」
「あー、確かに。ちょっと、自分でも金ピカ過ぎるとは思ってて」
色に関しては、善人も自覚があった。
「魔力の色っていうのはね、いわばその人の心の色とも言えるものだ。大抵の人間はその色が定まってなくて、ほとんど無色に近いんだけど」
例えば、カノンやバルバトス、不動連合のヤクザたちなど。
「龍一は冷静で芯が通ってるから、混じり気のない青い魔力を。輝夜くんは意外なことに、淡いピンク色をしてるんだよ」
「あっ、僕も見ました。凄く綺麗でしたよ、輝夜さんの魔力」
弟相手に、かなりハードなイジメ行為を行っていたが。
その時でさえ、輝夜の魔力は美しく見えた。
「心に邪念が宿ると、魔力は”黒く”染まりがちでね。だから人間界に現れるような悪魔は、結構な割合で真っ黒な魔力をしてるんだ。それが一般的に知られてるから、悪魔は怖いってイメージがあるんだけど」
「……」
心に邪念が宿ると、魔力も黒くなる。
それは悪魔だけではなく、人間にも起こりうる現象であると。
1人の友人の叫びを見て、善人もそれを思い知った。
「まぁ。その理屈でいうと、輝夜くんはとても素晴らしい心の持ち主だと思うんだけどね。……聞いた話だと、随分やんちゃしてるらしいけど。僕は、心配ないと思うよ?」
「あっ、はい。それは僕も同感です」
言葉遣いが非常に悪くて。
たまに、自分を奴隷のように扱ってきて。
衝動的に、暴力を振るわれる。
だがしかし、初めて出会ったあの日から。
善人の輝夜に対する”感情”は、何一つ変わっていなかった。
「それで、話を戻すけど。君は特に意識していなくても、常に魔力がこの色なのかい?」
「あ、はい。たぶん、最初っからこうだったと思います」
「……なるほど、実に興味深いね」
龍一や輝夜のようなデータを含めても、異質過ぎる、”黄金の魔力”。
ダニーにとっても、かなり好奇心を掻き立てられるサンプルであった。
「研究用に、少し魔力を抽出していいかな?」
「えっと。それって、採血みたいな感じですか?」
「いいや、そのままの調子で大丈夫だよ。こっちで勝手に流れを汲むから、そのまま魔力を込め続けてくれ」
「わかりました」
眩いほどに、黄金の魔力が輝いていた。
◇
「……面倒くさい。どうして、わたしもやる必要があるの?」
機械に座った状態で、ドロシーが文句を口にする。
その隣りでは、輝夜が呆れた表情をしていた。
「お前が悪魔だからだよ。街の中を普通に歩いてて、ちょっと魔力が漏れて、それで兵隊に追われたくないだろ?」
「確かにそうね。……まぁ、もう何度か経験あるけど」
「……はぁ」
やはりそうかと、輝夜はため息を吐く。
「わたし、別に何もしてないのよ? ラーメン屋に並んでて、ちょっとお腹が空いてイライラして。そうしたら、急に連中が集まってきて」
「……お前、イライラすると漏らすタイプか」
とてつもない問題児。
まず真っ先に、彼女を登録するべきであった。
善人、桜の順番で魔力の測定が終わり。
続いて、輝夜の契約する悪魔の番へと。
「やぁ、君の噂は聞いてるよ。どうかお願いだから、機械を壊さないでくれよ?」
ダニー先生がそう尋ねるも、ドロシーの表情は芳しくない。
「……細かい機械は、少し苦手だわ」
善人たちと同様に、彼女も機械の上に手を置いて、そこに魔力を込めるよう指示される。
すると、この部屋の中の空気が変わった。
輝夜や善人のように、明確な色こそ持たないものの。
まるで濃度が違う、半透明の粒子の渦。
ドロシーを中心として、とてつもない量の魔力が溢れ出す。
「ちょっ、話を聞いてたかい!? もっと手加減してくれ!」
「……ちょっと、黙ってて」
言われなくても、ドロシーは軽く魔力を込めているつもりである。
ただし、結果はご覧の有様。
強すぎるというのも考えよう。
彼女は手加減とは無縁の世界で生きてきた、孤高の魔王なのだから。
仕方がないので、飼い主が手綱を握るしかない。
「おい、こら! もっとこう、蛇口を緩める感じで頑張れ!」
「……くっ。蛇口を、緩める?」
半ば根性論ではあるものの、輝夜のそんなアドバイスに従って。
ドロシーの魔力は、徐々にその出力を弱めていった。
その後。
カノン、アトム、ゴレムといった輝夜の悪魔たちの測定が終わり。
最後に、善人の契約悪魔である、アミーの魔力測定が行われた。
「……想像通りというか、なんというか。面白みがなかったな」
「まぁ、アミーは基本的に熱いので」
アミーの魔力が何色だったのか、もはや言うまでもなく。
暑苦しい輝きを最後に、輝夜たちの魔力測定は終りを迎えた。
◆
「そういえば、さっきの輝夜くんの言葉を借りるようだけど」
全員分の魔力を測定し終わり。
思い出したかのように、ダニーが話し始める。
「人間も悪魔も、本当は全員が魔力を持ってるんだよ。ただ、僕たちのような一般人は、その蛇口のひねり方を知らない。いや、蛇口があることにすら気づいていないんだ」
対して悪魔は、生まれた時から蛇口の存在を知っている。
「君たちの持ってる
輝夜たちだけではない。
龍一や、ジョナサンもそう。
日本のヤクザ、不動連合が超人集団でいられたのも、それが原因である。
「あっ。どうせなら、ついでに朱雨も連れて来ればよかったな」
「ああ。彼なら、もうすでに測定を済ませてるよ。つい先日、大きなワンちゃんと一緒にね」
朱雨は、どこぞの姉と違ってしっかりとしているので、すでにデータベースへの登録を済ませていた。
「まぁこれで、君たち全員のデータは取れたから。以降、街中のどんな場所で魔力を使っても、センサーに引っかかることはないはずだよ」
「……そう。じゃあ、安心してラーメン屋に並べるのね」
ドロシーのそんなのんきな一言に、輝夜は呆れ顔。
「お前、昼間からそんなのばっかなのか?」
「人間界の食文化を勉強してるのよ。魔界の知り合いが、あっちでラーメン屋をやってるから。……色々と、情報を仕入れろってうるさいの」
「はぁー」
ドロシーの意外な交友関係に、輝夜も感心する。
「……美味いのか? そっちのラーメン」
「ふふっ。今度、連れて行ってあげるわ。食べたらきっと驚くわよ」
「いや。もう流石に、わたしが魔界に行くことはないだろ」
魔界と人間界。
ゆえに、そのラーメンを食べる機会は、一生来ないだろうと。
輝夜はそう、思っていた。
それに今は、”次なる戦い”に備える必要もある。
「じゃあ、最後に。この安全な場所で、桜くんの”悪魔召喚”も済ませておこうか」
「……はい」
これより始まるのは、より本格的な
ソロモンの夜が、加速する。
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