不幸な少女の話






「色々と、とんでもない連中だったな」




 不動連合の屋敷。その天井に開いた巨大な穴を見ながら、輝夜はつぶやいた。

 その隣には、守護者であるドロシーの姿もある。


 今までの悪魔とは、全く異なる存在。まるで神話の世界から飛び出したかのような、巨大な生き物。

 それが、彼らがレヴィと呼ぶ存在であり。もしも輝夜たちが訪れなかった場合、ここにある全てを吹き飛ばしていただろう。




「ドロシーは知ってるのか? さっきのやつ」


「いいえ。悪魔なのか、魔獣なのか。……もしも仮に、”人間態になれるレベルの魔獣”だとすれば、その脅威度は、並の魔王を凌ぐわね」


「……確かに、とにかく強かったな」




 結果としては、ドロシーが間に入ったものの。輝夜は一度、レヴィの攻撃に直面していた。

 その時に抱いた感覚は、魔界で経験した全ての恐怖を上回るほど。




「魔獣といえば、”その子”はいいの?」


「……ああ」




 ドロシーがその子と呼ぶのは、現在進行系で輝夜の手を舐めている、三ツ首オオカミのこと。

 輝夜としても、ちょっと不快感を抱くほどに舐めまくっていた。


 引き離そうとしても、首が三つもあるのでどうしようもない。初対面とは思えないほど、その魔獣、ケルベロスは輝夜に懐いていた。




「なぁ、朱雨。こいつ、お前が召喚したのか?」


「……まぁな」




 ケルベロスの召喚者。紅月朱雨は満身創痍であり、もはや立っているのもやっという様子で。

 輝夜はため息をつきながら、彼の元へと歩いていく。


 ケルベロスは、ドロシーに確保されていた。




「まったく。あんまり、わたしを心配させるなよ?」




 輝夜は、傷だらけの朱雨を見る。

 言葉には棘があっても、それはご愛嬌。紛うことなき、弟を心配する姉の姿であった。


 輝夜は知らない。自分の弟が、戦える人間だということを。とても、強い人間だということを。なぜなら、輝夜は今まで一度も、朱雨が暴力に頼る姿を見たことが無いから。

 自分がどれだけ罵声を浴びせても、蹴りやパンチを繰り出しても、朱雨は一度も反撃をしてこなかった。


 自分の姉がどれだけ酷い人格の持ち主でも、それを許容できる”根の優しい少年”。

 そんな弟が拐われたのだから、輝夜は心配してここまでやって来た。


 だがしかし、結果を見てみれば、朱雨は紛れもなく”今日の主役”であり。この日、この場所において、大きな偉業を成し遂げたのは明らかである。


 まるで、これまでの鬱憤を爆発させるかのように。紅月朱雨は、”覚醒”を果たしていた。

 もう、今までの自分とは、何もできない自分とは違うのだと。




「はっ。あんな意味不明な外国人に、俺が負けるわけ無いだろ?」


「はぁ? そんなボロボロの姿で言っても、なんの説得力もないぞー」


「こんなのは全部かすり傷だ。お前たちの乱入が無かったら、次の一発で勝ってた」


「そんなわけ無いだろ、お前。もしもわたしたちが来なかったら、”あの化け物”に殺されてたんだよ」


「……それは、まぁ。何も言えねぇ」


「ふっ。だろう?」




 結局のところ、今日は一度も戦っていないものの。

 輝夜が来たことで、ジョナサンが撤退したのも事実である。




「けが人は、大人しく――」



 輝夜は優しい表情で、右手の先に魔力を集結させ。




「――寝て、ろ!」




 本気の”魔力デコピン”を、朱雨の額に解き放った。




 輝夜なりの優しさ。いや、意地の悪さだろうか。今日はもう休めと、そういう意味を込めたデコピンだったのだが。

 今の朱雨は、これまでの彼とは違い。



 瞬き一つせず、輝夜のデコピンに耐えきった。

 それと同じに、デコピンとは思えない衝撃音が周囲に響く。




「なっ」




 本気の魔力を込めたというのに。それを弟は、何食わぬ顔で耐えてみせた。

 その事実に、輝夜は唖然とする。




「あの男の剣に比べたら、”弱いな”」




 そう。姉は弱くて、自分は強くなければいけない。ずっと昔、初めて喋った日からそうだった。

 彼女の体はガラス細工のように壊れやすく、弟の自分でも触れていいのか躊躇するほど。

 そんな不安も、今日で終わり。




(この力で、俺が全てから守ってみせる)




 何か、強く決意するように。

 瞳を閉じる朱雨であったが。




「――がっ」




 気がつけば、思いっ切り輝夜に殴られていた。















――弟の分際で、わたしに生意気言うな!




 紅月姉弟が、理不尽な喧嘩に突入した頃。

 ずっとの蚊帳の外であった”善人”は、とにかく無事に済んで良かったと、ため息を吐く。




(……僕、来た意味あったのかな)




 戦いは、到着した時にはすでに終わっていた。敵は、”紅月輝夜という存在”によって、逃亡を余儀なくされた。

 一緒に来たウルフや、輝夜の使役する悪魔たちは、それなりに動きを見せたものの。戦いの経験値の少ない善人は、理解不能な状況にただ立ち尽くすしかなかった。




『気にするな、相棒。あの嬢ちゃんは、お前を戦力として呼んだんだ。今回はその機会がなかったが、いずれは俺たちの力も必要になるだろう』


「……そう、だよね」




 善人は、力強く拳を握りしめる。確かに輝夜は、助けを必要としないほどに強くなり、何よりも強力な悪魔を使役している。それに比べれば、彼の力など小さなもの。


 だがしかし、それでも。善人が力に目覚めたのは、あの”眩しくて刺激的な人”のため。その事実を、再確認していると。



 ふと、隣りにいる少女。

 一緒にここまで来た、”桜”のほうに顔を向ける。



 思えば、彼女だけ”目的”が違っていた。輝夜は弟を助けるため、善人はその手助けをするため。桜も、もちろん同じ気持ちでやって来たのは確かである。


 しかし、敵を追い返して、弟と再会して、めでたしめでたし。それで納得できるのは、こちら側の話。


 桜がこの場所に来た、”本当の目的”は。

















「くたばれ!」


「ッ」




 美しい、淡いピンクの魔力を散らしながら。輝夜は真っ黒な刀を振り回し。

 それを、朱雨は全力で回避する。



――あの男の剣に比べたら、弱いな。



 そんな一言が、全ての原因であった。

 わざわざ、助けに来てやったのに。輝夜の小さなプライドは、それはもう火山のように噴火。


 初めは拳による攻撃だったのだが、朱雨はそれを容易く受け止めてしまうため。

 気づけば、その手にはカグヤブレードが握られていた。




(冗談だろッ)




 魔界に連れ去られたという、あの一件以来。輝夜が何らかの力に目覚めたことは察していた。それ故に、調子に乗っていることも知っている。


 だがしかし、まさかこんな”禍々しい刀”を持っているとは。


 この黒い刀はヤバい。ジョナサンが魔法で生み出していたモノとは根本的に違う。決して同列に扱っていいものではない。

 この刀に斬られると、死ぬよりも酷いことになる。朱雨はそれを直感し、輝夜の攻撃を必死に避けていた。




「おい、バカ! この刀、人に向けたらヤバいんじゃないか!?」


「うるさい! 殺さない程度にやるから、お前は黙ってろ!」


「ふざけるな!」


「ふざけるなぁ? これでもわたしは、戦う気満々だったんだぞ! そのくせ、お前ばっか、活躍したみたいな雰囲気だして。……ちょっと、ズルいだろ!」


「お、お前。マジか」




 我が姉ながら、どれほど器が小さいのか。

 朱雨は戦慄する。


 とはいえ、彼はもう満身創痍。

 ジョナサンとの激闘を経て、すでに魔力はほとんど残っていない。


 輝夜も当然ながら、そこは理解しており。

 本人的に手加減しての、”軽いお遊び”のつもりであった。



 だがしかし、そんな輝夜の心の内など知る由もなく。

 本当に殺されると思い、朱雨は必死であった。



 生まれて初めて、割としっかり目に。

 弟は、姉にイジメられた。















「おいおい。朱雨ぼうだけじゃなくて、姉の方もあんだけ動けんのか」


「流石は、会長のお孫さんですね」




 半壊した組織の長、”紅月不動”と。その側近である”神崎”が話をする。

 神崎を含めた幹部や、孫の朱雨の活躍もあり、会長である不動は一切の傷を負っていなかった。


 神崎も、ジョナサン相手に敗北はしたものの。

 持ち前の魔力の強さゆえに、すでに動ける程度まで回復していた。


 派手な姉弟喧嘩を眺めながら、二人は今日の結果について話し合う。




「んで、被害はどうだ?」


「そうですね。わたしを含め、直属の幹部は無事ですが。やはり、指輪を奪われた大半の幹部は、すでに手遅れでした」


「まぁ、だろうな。あの金髪野郎、とんでもねぇ魔力してやがった。てめぇらが生きてるだけでも、幸運と思うしかねぇ」




 ジョナサン・グレニスターによって、不動連合は壊滅的なダメージを負ってしまった。


 敵は悪魔の力を利用せず、たった一人で総本部に乗り込んで。そして、全てを薙ぎ払っていった。

 もしも、孫の朱雨を連れてきていなかったら、不動も確実に討ち取られていただろう。


 戦後日本を支配し続けてきた、最強のヤクザ集団が、たった一人の外国人によって壊滅させられた。

 ただ、それだけが事実であった。




「不動連合も、俺の代で終わりだな」




 幹部の半数以上が負傷、あるいは死亡し。多くの遺物レリックが奪われてしまった。

 たった一人の人間を相手に、ここまでの被害を許してしまったのだから。会長である不動のカリスマも落ち、このままでは生き残った他の幹部たちを纏めるのも難しいだろう。




「それはつまり、組織を解散すると?」


「まぁ、前々から考えてはいたんだがな。とはいえ解散しようにも、他の連中が納得するとも思えなくてなぁ」




 日本全国に支部を持つ、不動連合。その規模の大きさ、幹部、戦闘員の多さゆえに、不動の一心では動かせない部分もあった。


 だがしかし。今日のこの結果を受けて、幸か不幸か幹部の数は減り、力を持つ構成員も少なくなった。

 弱体化した今だからこそ、決断できることがある。




「とりあえず、屋敷から逃げた幹部連中から、”指輪を全部回収する”。会長として、それくらいのケジメはつけねぇとな」




 ジョナサンの襲撃を受け、幹部の半数以上がその刃に倒れたが。あの場から逃げた幹部もそれなりにおり、当然ながら指輪も所持したままである。

 指輪の所有者を放置したまま解散すれば、後々確実に面倒なことになるだろう。


 現会長に不満を持っていた幹部は、何も霧島だけではない。この襲撃で、すでに不動に見切りをつけている者もいるはず。

 ゆえに、今日中に”カタをつける”必要があった。




「残った指輪は、……まぁ、龍一に託せばいいだろ。こっから先の時代、日本もロンギヌスに守られるんだからな」


「会長が、そう決断されたのであれば。自分も幹部への対処に協力します」




 神崎がそう口にするも、不動は首を横に振る。




「いいんだよ、てめぇらは休んでな。逃げた幹部程度なら、俺でもどうにかできらぁ」




 武闘派の幹部たちは、全てジョナサンに挑み、そして散っていった。屋敷から逃げた幹部は、指輪を持ちつつも、それほど強くはない連中である。

 老いてなお頂点、紅月不動の敵ではない。



 老体にムチを打ち、軽い準備運動を。

 不動連合3代目会長として、彼は最後の仕事をするべく、動き出そうとし。




 しかし。

 そんな彼の前に、”立ちはだかる者”が一人。


 その意外な人物に、不動も目を丸くする。




「おう? お前さん、俺の孫娘と一緒に来てたやつだよな。俺に、何かようかい?」


「……」




 ”竜宮桜”が、立っていた。

 拳を握りしめて、力強い視線とともに。




「桜さん、一体……」


「ごめん。ヨッシーは、あっちに行ってて」




 善人が止めようとするも、彼女の決意は固く。その後ろ姿に、手を伸ばすことができない。

 ただ、それでも。彼女を止めるべきだと、善人は感じていた。




「悪ぃな、嬢ちゃん。俺は今からちょっと用事があってな。サインとかなら、また後にしてくれや」




 孫娘の連れてきた、ただの友達。あるいは仲間。その程度の存在であると、不動は認識していた。

 眼の前に立っている少女が、どのような感情を抱き、ここまで来たのかも知らずに。




「……なによ、それ」




 静かに、何かが壊れ始めていた。



 混じり気のない、”真っ黒な感情”。

 何年にも渡って、彼女の心を蝕み、苦しめた、形容し難い感情。



 それが今。

 この瞬間に、弾けた。





「――今さら、遅いのよ!!」





 悲痛すぎる、桜の叫び。


 それは周囲に響き渡り。

 輝夜ですら、戦いの手を止めるほど。




「バッカじゃないの!? これだけ血を流して、それ以上にもっと多くの人を不幸にして。それで、今さらになって解散?」


「……嬢ちゃん。悪いが、子供の相手をしてる時間は無くてだな」




 何の変哲もない、一人の日本人。

 ”不幸な少女の話”など、今の彼に聞く余裕はなかった。



 不動連合の解散、ヤクザの終わりを、紅月不動はずっと昔から考えていた。

 しかし、彼は組織の”3代目会長”。先代の時点で、すでに不動連合は大きくなりすぎていた。

 日本全土に支配の手を広げ、海外進出までしようと計画する程度には。


 彼らの持つ力は、圧倒的な暴力だけではない。政界、企業とも深い繋がりを持ち、その根はあまりにも深く。不動一人では、もはや制御できる規模ではなくなっていた。

 彼よりもさらに強い人間、”もしも龍一が4代目を継いでいたら”。あるいは、別の未来もあったのかも知れないが。


 しかしそんな事情は、”被害者”にとっては関係ない。




「わたしの家族は、アンタたちの勝手な戦いで殺されたのよ!?」



 桜の右手にはめられた、”王の指輪”が静かに。




「わたしだけじゃない! 数え切れないほどの人たちが、アンタたちのせいで、ずっと不幸になってきた! 怯えて生きてきた!」



 黒く、輝いていく。




「そんな簡単に”おしまい”なんて、都合が良すぎるのよ!!」




 生まれながらのセンスか。あるいは、積もり積もった感情によるものか。

 王の指輪は、遺物レリックは、彼女の内に眠る可能性を引き出していく。




 それは、”剣”の形をしていた。




 ジョナサン、あるいは輝夜の力を模倣したのだろうか。

 桜の側に、”真っ黒で禍々しい剣”が形成されていた。


 指輪が力を引き出すのと同時に、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。





「お母さん、お父さん。……お兄ちゃんだって」





 その剣は、桜の心を表したもの。

 力を持つ者なら、嫌でも理解できてしまう。


 剥き出しの感情だった。

 少女の叫びだった。





(……こんな子供にまで。俺ぁ、恨まれてきたんだな)




 所詮は、目覚めたばかりの力。見様見真似で作られた、魔力で形作られただけの剣。紅月不動にとって、本来ならそれは脅威になり得る存在ではない。

 防ごうと思えば、容易く耐えられる。簡単に壊すことができる。



 だがしかし、彼は動けなかった。



 誰もが怯えて、誰もが諦めて。それゆえ、彼らヤクザは大きくなり、不動連合は日本を支配するに至った。

 その長である不動の持つ力は圧倒的で、正面から挑んでくる人間も現れなくなった。


 だというのに、今日は不思議な日である。

 天下の不動連合に喧嘩を売る人間が、”二人も”現れたのだから。




 異国からやって来た王者、ジョナサン・グレニスター。


 そしてもう一人は、”名も知らない少女”。




 孫と変わらない年の少女が、”純粋な殺意”を向けてくる。

 その事実が、彼の頭から防御という選択肢を消していた。





 まるで、今までの”罪”を認め、相応しい”罰”を受け入れるかのように。


 だが、しかし。





 桜のすぐ側に形成されていた剣が、ボロボロと崩れ落ちていく。


 その形を、失っていく。


 彼女の制御が未熟だからでも、魔力が足りないからでもない。




 ポロポロと、大粒の涙がこぼれ落ちる。





「……なんでよ。なんでアンタが、”かぐちのお祖父ちゃん”なのよ!」





 桜の心を止めたのは、ただ一つの理由。

 どれだけ憎くても、殺してやりたくても。友だちの祖父に、そんな感情は向けられない。





「そんなこと、できるわけないじゃない」





――悪魔とヤクザの抗争で、家族が死んじゃってね。


――わたしも連れて行って。絶対に、言ってやりたいことがあるから。





 強い決意をもって、桜はここまでやって来た。

 魔力に目覚めるほどに、彼女の感情は本物だった。



 家族を奪った存在、ヤクザの王。紅月不動という存在を抹消できれば、自分の魂は救われる。

 復讐を果たしたところで、家族は戻ってこないけど。それに変わるナニカが、きっと心を満たしてくれるはず。復讐の果てに、得るものは必ずある。



 しかし代償として、輝夜という友を失ってしまうだろう。




 ずっと心を蝕んできた、”真っ黒な感情”と。

 今を一緒に歩んでくれる、”小さな輝き”。




 天秤で、比べるまでもない。




 ゆえに、禍々しい剣は消失し。

 その場に残されたのは、ただ泣き崩れる一人の少女のみ。




 悲痛なその姿に、そばにいる善人はもちろん、他の者たちも動けない。





 ただ一人、”彼女”を除いて。





「ッ」



 自分が愚かな人間であると、こういう時に思い知らされる。




 友人が必死になって、自分自身の心と戦っていたのに。

 自分はのんきに、弟を相手に遊んでいただけ。




 輝夜はブレードを投げ捨てると、全速力で、桜と不動の間に割って入り。

 背負ったものを守るべく、自らの祖父を睨みつける。




 握り締めた拳に。

 今の自分が持つ、”全ての魔力”を集結させて。


 淡いピンクの光が、強く、輝く。






「――わたしの友だち、泣かせるなッ!!」






 まだ言葉も交わしていない、初対面の祖父。

 輝夜はその腹を、全力でぶん殴った。




「ッ」




 輝夜から放たれた攻撃に、不動は反射的に魔力で防御をするも。

 真っ直ぐな感情の込められた拳は、ありとあらゆる障壁を打ち破り。




 紅月不動は、殴り飛ばされ。

 ボロボロの屋敷もろとも、地面へと崩れ落ちた。





「ふぅ……」




 だらん、と。輝夜は力なく右腕をたらす。

 完璧に近い魔力制御のおかげで、殴った右腕に怪我はない。

 ただ、魔力を使いすぎただけで、しばらく”面倒な体質”になるだけである。


 魔力は空っぽで、気力も振り絞った。

 そんな状況でも、輝夜は自らのイヤリングに念を送り。使役する、全ての悪魔をこの場へと呼び寄せる。

 すでに現界していた、ドロシー、カノンに加え、アトムとゴレムも召喚された。


 輝夜の保有する、全ての戦力。

 これだけいれば十分であろう。




「……指輪を持ってるヤクザが、この付近に残ってるらしい。そいつら全員から指輪を回収して、ここに戻ってきてくれ」




 紅月不動を、この手で倒してしまったのだから。彼のやろうとしていた、ケジメとやらをつけなくてはならない。


 輝夜の指示に従って、ドロシーを筆頭にした悪魔たちは屋敷の外へと散っていった。





「……あぁ、だる」



 本気で魔力を使ったのは、魔界での戦い以来のこと。




――かぐち!




 守った少女の声を聞きながら、輝夜は意識を失った。





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