第6話 一番、幸せ。


とりあえず、今は休もう……。

 色々なことがありすぎて心身ともに疲労している。


「少し仮眠をとるか……。」


俺はソファーで横になって目を閉じた。

 そして、須美と出会った高校時代の事を思い出した。


――回想――

「優一!」


午後の古典の授業という地獄を通り越した俺は、睡眠という天国のような行為を行っていた。

 全く、勘弁して欲しいものだ。

 俺は眠気と闘い続けたのだ。

 これは戦果と言ってもいい。起こすなら授業中にしてくれ……。


「おい!」

「あ痛!」


ついに痺れをきらした須美が俺の頭頂部にチョップをかます。

 はぁ......暴力的な女はモテないぞ。とか言いそうになったが、ここは我慢した。


「なんだよ。」

「なんだよじゃなくて、早く古典のノート提出しなさいよ。」

「……ノート提出って今日だっけ。」


須美を見てみると、手元にはクラス分の古典ノート。

 そうえばこいつ、提出係だっけか。

 というかやばい。ノートを全く書いていない。


「どうせ書いてないんでしょ?」

「ご名答。よく分かったな。ということでノート写させて?」

「私がはいどーぞって言うとでも?」

「デスヨネー。」


提出に間に合わないと思った俺は、渋々古典の先生の元まで言い訳をしに行かないといけなくなった。

 ちくせう。


「それじゃ、必死に言い訳考えとく事ね。」

「へーい。」


俺は天国という名の睡眠を手放して、須美と一緒に職員室まで向かった。


「ほら。」

「……何?」

「何? じゃねぇよ。半分よこせ。」

「え?」


俺はそう言って須美の持っているノートを半分取った。

 何故なら、須美はノートが重たいのか足取りが重い。

 このままでは、俺の休み時間が終了してしまう。それはやばい。

 ということで、俺は須美の荷物を持つことにした。


「……ありがと。」

「へいへい……。」


その後俺は、古典の先生に叱られる! と思っていたが、ノート運びを手伝ったということで、三日だけ猶予を貰った俺は、須美からノートを借りて急いでノートを仕上げたのはまた別の話......。


――現在――

「優一!」


なんだよ……まだ回想続いてたの? 長くない?

 俺は今しんどいんだよ……少しくらい寝かせといてくれよ……。


「おい!」

「あ痛!」


痺れを切らした須美が俺の頭頂部にチョップを繰り出す。

 痛てぇよ……。


「……なんだよ。」

「なんだよじゃなくて……はぁ。ご飯、出来てるよ。」

「ああ。すまん。」

「ったく、てか優一、今日帰るの早くない? どうしたの?」

「ちょっと体調崩しただけだ。問題ない。」


須美お風呂に入ったようで、すっぴんだった。

 出かけていた証拠もないし……今日のところは収穫無しだな。


「そ。じゃあさっさと、ご飯食べて。冷めちゃうから。」

「へいへい。」


俺はまだ重たい瞼を必死にこじ開けて飯を食べた。

 俺の心の中で、もういっその事須美を許してやろうかなという想いになってきた。

 だってそうだろ? それが一番、幸せなんだからな……。


「須美……。」

「何?」

「ありがとな。いつも。」

「は? キモイ…………けど、そんな事言えるなら、もう体調も大丈夫そうね。」


ほらな......。

 高校時代と何も変わらない。

 冷たいけど、なんやかんや言って優しい、

 いつもの須美だ。

 

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