第5話 溜息

トボトボと帰路に着く俺。

 これからどうしようか。大体の方針は決まったとしても、方法が何も思いつかない。


「……ひろしにでも相談してみるか?」


……いや、ひろしも自分の家庭があって生活がある。

 そこまで迷惑をかける訳にはいかないだろう。

 なら、彼女にまたお世話になるかな……。

 俺はスマホでスパイさんに電話をかけた。


「もしもし? うちやけど……。」


彼女は俺が病んでいるのかと少し気にしている様子だった。

 心配してくれるのは有難いな。


「もしもし。俺は大丈夫だよ。」

「ほんまか? でも体調には気をつけぇや。ストレスが溜まっとる時は、身体壊しやすいからなぁ。」


訛りのある口調で母親みたいな事を言う。

 絶賛さっき壊したところだ。と言おうとしたが、余計心配させてしまいそうだから俺はグッと言葉を飲み込んだ。


「気をつけるよ。それと、一つ頼まれてくれないか?」

「なんや?」

「証拠が欲しいんだ。だから証拠集めに協力してくれないか?」


興信所や探偵を雇えばいいのだが、シークレット口座を作ってもお金をどう移すかが問題だ。

 それが纏まるまでは興信所も探偵も雇うことが出来ない。


「ん〜。うちとしては別にええんやけど……優一は覚悟出来とんか?」

「覚悟?」

「せや。こんな時間に電話かけてきたってことは、何かあったんやろ?」


時計を見ると時刻は午後二時半。

 確かに、いつもならバリバリに仕事している時間だ。

 こいつもその事を知っているのだろう。

 だからこそ、俺を心配して言ってくれたのだ。


「別に大したことじゃないよ。お前が心配しなくてもいい。」

「……はぁ。それやったらええけど。あと、うちには九条 蓮花っていう、立派な名前があるんやからそれで呼んで〜や。」

「はいはい。また今度な。」

「まぁそれでええけど……ホンマに身体には気をつけぇや。」


だからおかんかお前は……。


「はいよ。それじゃ。」

「うちも頑張ってみるわ。」

「頼んだ。」


俺は電話を切って駅まで歩いた。

 外は相変わらず暑いが、今は何故か少しだけ涼しい。

 俺は少し楽な気持ちで家まで帰った。


「ただいま〜っていないか。」


どうやら、まだ浮気相手とハッスル中らしい。

 恐らく帰宅時間は俺がいつも帰る一時間前くらいか?

 今日はまだ話さずにもう少しボロが出るのを待つのが賢明だろう。


「……覚悟、ねぇ。」


さっきスパイさんに言われた事を思い出す。

 覚悟が出来ているのか。俺としては、覚悟は決めたつもりだった。

 だが、心の底は自分でも分からない。

 俺が本当はどう思っているかなんて俺も知らない。

 だからこそ、怖い。

 俺の選択が正しいのか分からない。


「……はぁ。」


もう溜息しか出ないわ。

 たが、この判断は任せるしかない。

 俺は嫁を、須美を許さない。

 不倫はいけないと言う歴史が紡いできた判断に身を任せることにする。

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