第4話 菜花法律事務所

スパイさんの連絡を受けた俺は、しばらく放心していた。

 薄々気づいてはいたが、心にくるものがある。

 それからしばらくすると、嫁と若い男がホテルに入る写真が送られてきた。

 スパイさんからは、変なこと考えないでとのこと。

 もう少し続けるか聞かれたが、とりあえず中断して貰った。


「はぁぁぁぁぁぁ……。」


まさか本当に不倫してるなんてな……。

 俺はそのまま放心状態で仕事を続けた。

 ひろしにはどうしたのかと心配されたが正直今は話すのもしんどいくらいだ。

 しかし、今日はもうこれ以上仕事は無理そうなので部長に他言厳禁で事情を話して早退させてもらった。

 部長には明日も休んでいいと言われたので有給を使わせてもらった。


「おい大丈夫か優一。」

「ああ……少し、体調がな……。」

 

今はすぐにでも横になりたい。

 ひろしには悪いが早く帰ろう……。

 俺は会社を後にした。


「とりあえず帰ったら事実確認からか……。」


重たい足取りで駅まで歩く。

 外はまだまだ暑い。

 視界がぼやついてきた。

 汗がダラダラと流れる。

 ……やばい、倒れる……。

 俺はその場に倒れこんだ……と思ったが、誰かが俺の腕を掴んでくれている。


「ひろし……か?」


ぼやけた視界のせいで、誰か判断できない。

 俺はその人に体を任せて意識を落とした。


「せん……せんぱい……先輩!」


そっと目を開ける。

 薄っすらした視界には金色のバッジが目に入った。

 ……首元が冷たい。

 ここは……病院か?


「んぐっ……。」

「やっと起きましたか先輩……。」


体を起こした俺は声の方を見た。

 セミロングの黒い髪にしっかりとスーツを着こなしたその女性。


「色羽?」

「そうです。全く……先輩もいい歳なんですから、熱中症対策はしっかりしてくださいよ……。」


……どうやら、俺は熱中症で倒れたらしい。

 なるほど。あの時ひろしだと思ったのは色羽だったか。


「……ここは、お前の事務所か?」

「はい。いい所だと思いませんか? と言っても、ここは休憩室なんですけど。」


休憩室だけ見てもとても洒落た感じになっている。

 

「そうか。俺は好きだぞ。こういう部屋。」

「ふぇっ……。」


ん? こういうのはセクハラとかになるんだっけか。

弁護士相手だから発言も慎重にしないとな……。


「色羽?」

「はいっ!」

「どうかしたか?」

「い、いえ。なんでもないです。」


随分と顔が赤井が大丈夫か?

もしかしたらこいつも熱中症か?


「とにかく! 私、この後仕事がありますので、少しお暇しますが……。」

「ああ。俺もそろそろ帰るよ。」

「え、まだお昼過ぎですけど、もう帰るんですか?」

「ああ……。ちょっとな……。」


依頼もしてないのに弁護士に話す事も無いだろう。

しかし、離婚するにも証拠が足りない。

嫁には黙っておいてもう少し尻尾を出すのを待つか。


「先輩、これ。」


色羽はそう言って、名刺を俺に渡した。


「……まさか、お前に名刺を渡される日が来るなんてな。」

「何か依頼がある時はここにかけてください。」

「……ああ。機会があったらな。」


俺は名刺を内ポケットにしまって事務所を出た。

弁護士雇うにも、もっと証拠がいるからな。

ま、証拠が揃ったら、あいつに依頼するか。

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