第3話 後輩属性持ち弁護士、菜花色羽
「……朝かぁ。」
今日も今日とて朝が来た。
時刻はいつも通り朝の六時で嫁はぐうぐうと隣で寝ている。
到頭、朝飯まで作らなくなったのか……。
と、思ったが、リビングのテーブルにはいつもの朝飯が準備されてあった。
「なんだ。嫁が早く起きただけか……。」
なんというか、安堵した気持ちだ。
やはり嫁は浮気してないのでは?
しかし、メールを見てみると既に相手から返信が来ていた。
『ん〜、、あの須美ちゃんに限ってそんなことするかな。まぁでも私も少し調べてみるよ!』
俺はそのメールにありがとうと返してスマホを鞄に入れた。
彼女にも協力してもらう以上、俺も何か行動しない訳には行かない。
「よし。いってきます。」
俺は誰もいないリビングに告げて家を出た。
俺はバイクにキーを挿し、駅まで走らせた。
外では俺と同じように通勤している人や、通学している人などが汗を拭きながら歩いていた。
「最近あっついな……。」
俺は電車のクーラーに感謝しながら会社に向かった。
電車内の広告をなんとはなしに眺めていると、また例の弁護士事務所の広告が貼ってあった。
……やはり、菜花という名前に引っかかる。
「ま、帰ったら嫁にでも聞いてみるか。」
電車が会社の最寄り駅に着くと、俺は会社まで数分歩いた。
会社に入ると、涼しい空気が俺を冷やす。
「お疲れ、優一。」
「ようひろし。お疲れってまだ出勤してきただけだ。」
「まぁまぁ。大学生からしたらおはようと大して変わらないだろ?」
「俺ら大学生ってほど若くないだろ。」
そうやって、何気ない会話をする俺たち。
毎回思うのだが、どうしてこいつはいつも俺よりも出社が早いのだろうか。
「まぁそう言ってくれるなよ。俺はまだまだ若くいたいよ。」
「切実だな。」
とまぁ、そろそろ時間なのでデスクに座って仕事を始める。
仕事を始める前にスマホを見ると、スパイさんから連絡あり。
『今日は三回くらい様子見してみる。』との事だ。
ちなみにスパイさんの正体は、うちの取引先の女社長。
俺が大学生の時に知り合いで、俺がここに勤めていると知って最近連絡してきた。
どうやら、適当に予定でっち上げて外でサボっているらしい。いいのかそれで……。
だがまぁ、その性格のおかげで気軽にスパイを頼めるんだけど。
俺はスパイさんからの連絡を待ちながら黙々と仕事をしていると、あっという間にお昼になった。
「優一〜。近くに美味いパスタ屋見つけたから食いに行こーぜ。」
「ういー。」
俺はひろしに誘われるがまま近くのパスタ屋まで歩いた。
外の気温は、朝よりも当然上がっており汗がダラダラと溢れ出てきた。
クッソ暑い。
「おっ。ここだよここ。」
「なんだ。随分とわかりにくい所にあるな。」
そのパスタ屋は店と店の間をくぐり抜けた奥にあった。
見た目は随分とレトロで、側から見たらとてもパスタ屋には見えない。
「この前知り合いと食べにきてな。その時に割引券貰ったんだよ。」
「へぇ〜。ま、とりあえず入ろうぜ。」
店内はとても静かで、客が二、三人いるくらいだった。
俺たちは年老いた店主に席を案内された。
俺たちが座った隣には、スーツをビシッと着こなした女性が事務作業をしていた。
「優一。ここはナポリタンが一番美味いぞ。」
「そうか。ならカルボナーラを注文しよう。」
「あっそ。なら俺はペペロンチーノを食うか。」
人と違うのはかっこいいという俺の厨二魂が炸裂したが、結局誰もナポリタンを食べないらしい。
それから俺たちは注文を済ませて世間話に勤しんだ。
「あれ? もしかして……。」
そう俺たちに声をかけてきたのは、さっきまで隣で事務作業をしていた女性。
そして、どこかで見たことがある顔……。
「お嬢さん、このひろしに何か用ですか?」
ひろしはここぞと言わんばかりに女性に返答する。
ちなみにひろしにも嫁さんはいる。
「あ、いえ。そちらの男性なんですが……。」
「え俺?」
「……もしかして、覚えてませんか?」
待て。
どこかで会ったことあるか? 同じ部署の人か、それとも取引先の方か……。
どちらにしろ、俺は覚えていないが、、
「菜花。」
「ん?」
「菜花色羽です。……本当に覚えていませんか?」
菜花色羽……色羽……いろは……。
「あ! お前、菜花色羽か!」
思い出した。
高校時代、部活のマネージャーだった子だ。
俺たちの二歳年下で、嫁とも共通の後輩だ。
化粧をしているからか全くわからなかった。
「この人、優一の知り合いなん?」
「ああ。高校時代の部活のマネージャーだった子だよ。」
昔はよく色羽に勉強を教えていたものだ。
俺の結婚式から会っていなかったが元気そうで何よりだ。
「先輩、全然連絡くれなかったじゃないですか。」
「仕事が中々忙しくてなぁ。」
忘れてたなんて言えない!
「……まぁいいです。それより先輩、何か気づくことありません?」
そういって座りながら手を腰に当ててグイッと慎ましやかな胸を突き出す色羽。
気づくことって言われてもなぁ。
俺は色羽をじっくり見た。
本人も恥ずかしいのか顔を赤らめている。
「……美人になったか?」
全力で振り絞った言葉がこれだ。
正直お手上げだ。
「むぅ……。これですよ! こ・れ!」
彼女はスーツの襟を主張してくる。
そこにあるのは、金色の小さなバッジ。
これは……もしかして、
「弁護士バッジか?」
「やっと気づきましたか……。」
彼女はやれやれと言わんばかりにため息をついた。
いや、そんなんわからんて。
「で、どこから盗んできたんだ?」
「盗んでません! 私はちゃんと勉強して弁護士になったんです!」
「菜花……もしかして、菜花弁護士事務所の人ですか?」
ひろしが例の弁護士事務所の名前をあげる。
確かに、言われてみれば同じ名前だな……。
「そう! そうです!」
「なんだ。あの事務所の所長お前だったのか。」
「ふっふっふ。私、実はすごいんですよ?」
「はいはい、すごいすごい。」
まぁ、弁護士になったのはすごいと思ったが、彼女は頑張ればできるやつだと知っているので特に驚きはしなかった。
しっかし、あの時の後輩が今じゃ事務所持つようになったのか……。
時の流れは恐ろしいな。
「先輩〜もっと褒めてくれたっていいんですよ〜?」
「はいはい。また今度な。」
「む〜。」
それから俺たちは運ばれてきたパスタを各自食べ終えて会社に戻った。
色羽にはまた飲みに行きましょうね〜とか言われ、彼女も事務所に帰る準備をしていた。
「いや〜美味かった! また行こうな優一。」
「そうだな。今度はナポリタンを食いに行こう。」
「お、悪い優一。ちょっと部長に呼ばれたから行ってくるわ。」
「ん。」
そう言って小走りで部長のデスクに向かうひろし。
俺は気まぐれにスマホを見ると、スパイさんから連絡が入っていた。
俺はメールフォルダを開いて内容を確認する。
そして、俺の疑惑は確信に繋がった。
『オクサン、クロ。ワカイオトコ、ハッケン。」
「Oh,my,God.……。」
俺はそう呟かずにはいられなかった。
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