⑰ 至極当然な関係







「何も書けなくなった」


 そう宣ったのは、俺の幼馴染のリンである。

 肩まで伸ばした茶色の地毛は、夕陽に照らされて綺麗に輝いていた。凛は図書室の机に頭をつけると、うあー、と嘆く。


「あー……何も考えずに書いてみるってのは?」


「何も考えずに文が書けると思うのかこのスカポンタン、脳みそ洗って出直してこいド三流」


「口悪ッ……」


 新聞部の部長を務める凛は、どうやらスランプに陥ってしまったようだった。他の部員が校内のリア充共のスキャンダル記事を書く中、凛は園芸部が育てている向日葵にテントウムシが居たとか、誰も使わない鉄棒が錆びてきているから気を付ける旨を書いたりしている。


 ぶっちゃけそんなものに需要があるのは分からんが、おじいちゃん先生とか校長、顧問には好評らし……全員オッサンじゃねぇか!



「今何を書いてんの」


「この白紙の紙に何か書いてあるように見えるならお前は選ばれし人間だ、良かったな。明日には異世界トリップでもしてんじゃねぇのか」


「1を言えば10返ってくる…」



 変な声を上げて嘆く凛の隣で、俺は参考書を開く。

 そもそもテスト期間中に、オッサンにしか需要のない平和な記事を書いてる場合じゃないだろ。何でこんなやつが成績上位に入れるんだ。



ヨシ、その式だと爆発確定」


「……あざーす」



 自分の作業に手が付かないからか、俺の参考書とノートを覗きながら、そう訂正を入れてくる。本当に何でこんなやつが賢いんだ。世の中は理不尽である。


 そうしてカリカリと俺の勉強する音だけが響く隣で、机に突っ伏していた凛が顔を上げた。



「美くんやい」


「何じゃ、凛」


「①か②か⑮選んで」


「急に数字飛んだな、えっとじゃあ⑮で」


「チッ」


「何が不満なんだよ」



 えっとねー、と記事の後ろに書いたらしい文字を読み上げ始める。他に利用者が居ないからって自由過ぎんだろ。



「①は真面目に記事の内容を考える

 ②は美の勉強の邪魔をする

 ⑮は美を連れて校内徘徊する」



「どこから突っ込めばいい?」


「やだー、突っ込むなんてハ・レ・ン・チ」


「……嫌だからな」


「え、美が⑮って言ったんじゃないの」


「先に内容を教えてくれてたら絶対に①を選んでた」



 凛は俺の言い分にワガママだなー、と溜息を漏らす。どっちがだ。しかしながら凛はアホみたいな選択肢の書かれた面を裏にして、ガリガリと鉛筆を走らせた。



「まっ、書く内容決まったから感謝するよ美くん」


「感謝するついでに炭酸奢って」


「調子に乗るなよド素人、二酸化炭素の摂取し過ぎで病院のお世話になってしまえ」


「だから口悪ッ…」



 そんなこんなで勉強を終えた俺が見た下書きは『話に付き合ってくれる超絶アホな幼馴染』というタイトルがつけられたものだった。このクソアマ巫山戯やがって。


 ────そんなクソアマは今回もテストでは、成績上位に居座っていたのでした。


END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短篇集 SOUYA. @many_kinoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ