⑮ 恋せよ、新人





 こてり、と首を傾げた少女は目の前で震える男を見遣る。


「あら困ったわ。これじゃあ足りない」


 コンクリートで囲まれた箱の中で、少女の声が響く。

 その手に持つ書類はカサ、と音を立てて下に落ちる。


「ねぇ、困ったわね」


「は、はい・・・」


「ねぇ、


 どうして足りないのかしら」


 またこてり、と首を傾げた少女に男の肩がびくりと震えた。そんな男の態度に、少女は溜息を吐く。


「詰まらないわ」


 男は顔を上げる事が出来ずに、拳を握り締めた。

 少女は床に散らばった書類を一枚摘み上げた。


「ねぇ、これは何かしら? どうして足りないのかしら? 貴方は、何の為に私の部下になったのだったかしら?」


 そう言って少女は男の顎を持ち上げた。

 片手には先程の書類が摘み上げられていて、瞳の揺れた男はその書類を見てからバ、と少女から離れて土下座をした。


「すいませんでした・・・ッ!」


「謝罪は要らないわ。何故足りないのか聞いてるの」


 少女は土下座する男の手を踏み付ける。

 そうしてギリギリと力を込めてから、少女はソファに座った。


「ねぇ、何故『死体の数』が足りないの?」


「それは・・・ッ!」


「貴方の初仕事だから、今回は誰も関与しなかったのよ」


 ポキリと骨を鳴らしてから、少女が次の言葉を放とうとした、途端の事だった













パァン────、










 ひとつの銃声が響いて。

 何かが崩れて落ちる音がした。




「え・・・?」




「なぁにが『足りない』だ。恋人逃す男前なんだって許してやれよ、お嬢さん」


 銃弾に倒れたのは少女だった。

 既に事切れている少女を見遣ったのは、ドア付近で煙草を咥えた男。

 正座したまま固まった男に手を伸ばす。


「俺と来るか?」


 男はよく分からぬまま、血の匂いがするコンクリート固めされた箱の中で、煙草を咥えた男の手を取ったのだった



END

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