⑩ 黒夢
ガバリと勢いよく起き上がる。
何か、怖い夢を見た気がする。
何か黒いものが、
ピリリリリリリリ────!
「・・・っ!?」
目覚まし時計が鳴った。
嗚呼、もう7時か……もう7時…………
「っ遅刻!!!」
何をぼんやりと、夢くらいで。
今日は大事なプレゼンがあってお偉いさんが来るってのにっ・・・!
あぁ、もうご飯食べてる暇なんてないっ
スーツ着て、歯も磨いて顔洗って、髪も整えなきゃ・・・!
なんてやってるうちにもう7時20分。
朝は時間が無いんだよ、もう!
玄関を飛び出して階段を駆け下りる。
マンション前を掃除している大家さんに挨拶をして駅に全力疾走をする。
あぁ頼む、間に合え間に合ってくれ……!
このプレゼン落としたら・・・、嗚呼考えたくない!
そうして角を曲がった時────、
その足が、止ま、った・・・。
さっきまで前へ前へと動いていた足がゆっくりブレーキをかけた。何か人集りが出来ている。
何だろう、早く行かないと電車に間に合わないのに足はどんどんと、その人集りへ向かっていく。
見てはいけない、見てはダメだ、そんな脳の警戒音も聞こえない振りをして足がそちらへ向かっていく。
「きゃああああっ!」
女性の声がして、人集りがおそらくその女性から遠ざかった。
女性の足に黒い手が。人集りの足の間から見えるそれに興味が湧いて、足に力が入った。
あ、走る────。
踏ん張った。出来るだけ強く。
しかしゆっくりと足はそちらへ向かっていく。
人集りの間から見えたのは人の形をした、黒いもの───。
その手が女性の足を掴んでいる。
これ、生きている……、生きているんだ。
そうしてその黒いものの首がぐりん、とこちらを見た。
────ミィ、…ツ、ヶ……タ……。
ニタリとその口が嗤った。
あ、部屋の鍵締めてない。なんて間抜けな事を最期に思って、私の意識は沈んだ。その嗤った顔は随分と私に似ていた、ような気がした。
ガバリと勢いよく起き上がる。
何か、怖い夢を見た気がする。
END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます