➅ 明るい悪夢






 夢を、見ているんだろうか。


 どうも真っ暗な空間に立っているらしい。

 足を踏み出してみれば少しフラつく。立っている分には何も問題は無いらしいが・・・、


『此処は……ドコだろう……、』


 思い出そうとすると酷くやる気を失くした。

 何だか全てどうでも良くなる。

 どうにかしなければいけない筈なのに、

 誰かと会う約束をしていた筈なのに。


 真っ暗な空間で自分の足元だけ淡く光っていて

 顔をあげれば遠くの方が光っていた。


 あっちはまだいい。

 眩しいのは頭がクラリとするから苦手なんだ。

 こんなに暗いのに、あっちの光が届かないのは随分遠いからかもしれない。


 まだ、……まだ此処で足踏みをしていても





────待って、



 ・・・・・・・・・?


────待って。此処に居てはダメ


 誰だろう、声が。聞こえる。

 嗚呼眠い、眠いんだオレは……


────眠ってはダメよ、立って


 閉じそうになる目をこじ開けて声のする方を見た。

 光とは逆の……真っ暗な方から聞こえた。

 そちらに足を踏み出そうとした途端だった。



────コチラへ来てはダメ!!!!!!



『……っ!!??』


 思わず足が上がったまま驚いて転んでしまった。

 拒絶……、今オレは誰かも分からない声に拒絶されたのだと気付いた。


────光へ歩いて、こちらはダメよ


 導くような声にオレは光の方を見た。

 嗚呼、眩しそう・・・。それだけでずーん、と心が沈む。

 すると声はふふ、と笑う。


────貴方は昔から暗い所が好きだものね



『どうし、て……』



────でも此処はダメよ、帰りなさい



『帰るったって何処へ・・・』



────貴方を呼ぶ声が聴こえるでしょう?




〈トウキ! お願い! 目を覚ましてよ……!〉


〈おい、トウキ! 死んだら許さねぇからな!〉


〈トウキ・・・!〉




『あ・・・、』


 オレは立ち上がって光の方へ歩いていく。

 不思議と頭がクラっとするアレは無かった。



────まだ、生……て。……、……キ……────













「・・・ここ、は・・・」



 白い天井・・・。


「トウキ!? トウキ!?

目を、覚ましたの!? トウキ!」


 そう言ってオレを掴むのは……


「サクラ?」


「……〜〜〜〜〜〜〜っ! こンのバカ兄貴! めちゃくちゃ心配したんだからね!」


 一つ年下のオレの妹だった。

 確か、オレは……事故に、



「何で事故に……」


「覚えてないの? その、母さんの墓参りに行く途中で、トラックと……」


「……そっか……」


「2日も目を覚まさなかったんだから! お医者さん呼んでくるから待ってて」


「嗚呼、有難う」



 オレは起き上がることが流石に出来ずに窓を見遣る。

 注ぐ太陽のせいで、頭は揺れる様に痛いが、何故かとても懐かしい気持ちになった。



 そう言えば────、あの声は一体何だったんだろう。









「…………まさか、な」




END

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