⑤ これからの約束





「あぁ、寒いのだぁ」


「我慢しろ、あともう少しだ」


 白いコートを着た少女は紺色のコートを着た青年にしがみつく。青年は歩きにくそうにしながらも、その足を止めなかった。


「……悪かった」


「何がなのだ」


「…………お前の親、助けらんなくて」


 目を伏せてそう言った青年に少女は「いいのだ」と明るい声を出す。


「こうやってキミと歩けなくなる方が辛いのだ」


「……はぁ、お前なぁ……」


「ワタシは仕事ばかりで帰ってきてもくれない親なんてどうでもいいのだ。ワタシはワタシに会いに来てくれていたキミが、助かってよかったのだ」


「…………」


「キミはあの瓦礫の中で、自分だけが助かりたいと喚く大人達の中で、よくワタシの親に手を伸ばしてくれたのだ」


「…………」


「キミはよく頑張ったのだ」


「…………っ」


「だから泣かないでほしいのだ」


「……うっ、ごめん、……ごめんっ」


「だから言ったのだ。ワタシは親なんてどうでもいいのだ。キミが助かっただけでも嬉しいのだ」


 少女は青年の背中から離れて隣に立つ。

 顔を掌で覆って、涙の流す青年のその手を包み込む。


「帰ろう、ワタシ達の家へ」


「これからは2人きりなのだ、守ってくれる大人も居ないのだ」


「だからキミがワタシを守って、ワタシがキミを守るのだ」


 青年は腫らした目をそのままに少女を見る。


「ね? 帰ったら特製のパンを焼いてあげるのだ。

いっぱい食べていっぱい寝て、そしてまた食べて。

元気になったら、仕事を探しに行くのだ。そうしてまた始めて行けばいいのだ」


「……っあぁ……、そうだな……」


「さ、帰ろうっ」


 そう言って泥だらけの少女は、青年の手を掴む。

 青年もその手を自分から掴む。


「・・・本当は親とこの道を歩きたかった癖に」


「何か言ったのだ?」


「いや、何も」



END

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