③ 気だるい人形師
長閑な村の外れ。
鬱蒼と生い茂る木々を抜けるとそこには黄色い屋根の小さなレンガの家が一つ。
『そろそろ食材が尽きそうよ、
「あー、外に出るのも面倒臭い」
『しっかりして頂戴、私はこの家から出られないのだから』
「いっそ改造してあげるよ、メラニー」
金髪蒼眼の美女はキッチンで玉葱を切りながら後ろにいる緑色の着物を着た怠そうな男性に言った。
男性───呉絃はこれまた怠そうに伸びをして、美女メラニーに自分にとって魅力的な提案をする。
しかしメラニーはザクっと玉葱を切り終えてピシャリと言った。
『さっさと行きなさい、この愚図男が』
*
呉絃は元々人形を作る伝統的な家の生まれだった。
人形と言ってもそれは小さな子供が持ち歩くようなものでは無い。
人形師がそれに命を吹き込んだ途端に人間のように動き出すものだった。作る、ではなく“造る”という字の方があっているやもしれない
呉絃は跡継ぎでもなければ、その資格すら与えられなかった所謂『落ちこぼれ』。
だが面倒臭がりでやる気のない呉絃にとってその『落ちこぼれ』というレッテルはとても心地の良いものだった。
呉絃の家では一人一つ、必ず自分のための人形を“造”らなくてはならない、それが掟だった。
いくら面倒臭がりでもやる気がなくても一族の掟は絶対。
そうして出来上がったソレは呉絃に厳しい人形だった。
「全く…メラニーは少し冗談が通じる様にならないとね…」
さっさと行け、と追い出された呉絃は投げて寄越された買い物袋と財布を持って少し遠い村へと歩き始めていた。
「まぁ……、いいか」
ふぁ、と欠伸をしてゆっくり歩いていく呉絃を渡り鳥が見ている。
黄色い屋根の小さなレンガの家。そこにはやる気のない人形師と、世にも美しい毒舌な人形が住んでいる。
END
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