② 黒雪
ふわり、ふわりと雪が舞う。
その
「きょうは つもるかしら」
「えぇ、お嬢様。きっと積もりますとも」
淡いピンク色のワンピースを着た少女は、雪がちらつく空を見てポツリと言う。その右手には真っ黒な手袋がはめられていた。
少し後ろにいる執事は少女に傘を差しながら、自分の肩を雪で濡らしている。
「おかあさまは みているかしら」
「えぇ、お嬢様。きっとご覧になっておりますとも」
少女の座る大きな木の椅子は所々齧られた痕がある。
執事の足元には黒い獅子が眠っていた。
「・・・そろそろ なかに はいりましょう」
「えぇ、そうしましょうお嬢様」
少女が立ち上がると同時に執事は傘をつぃ、と上げる。
足元の獅子もそれに気付いたのか2人の邪魔にならぬように起き上がる。
「ヴァル、わたしはへいきよ」
擦り寄ってくる獅子に、少女は頭を撫でて返す。
「おかあさまは へんになったのではないわ
すこし やすみたいのよ。
たくさん がんばったもの
やすんだって だれも もんくはいわないわ
わたしがいわせないわ」
独り言の様に言う少女に執事は傘を折り畳み、靴を脱がせた。
少女は足を拭かれ、左手を拭われても獅子を撫でる右手はそのままだった。
「ねぇ、ジャック」
「何でしょう、お嬢様」
執事を呼んだ少女はつい、と執事を見上げた。
彼は優しげに自分を見つめていた。
「おかあさまは まだ わたしをあいしているかしら」
少し泣きそうになった少女は声を震わせて言った。
「・・・えぇ、勿論ですとも、レアリ様」
執事はいつもの口調で言った────。
*
「嗚呼、王妃様の事? 黒魔術に呑まれたって聞いたけど?」
「お嬢様を病魔から救う為に悪魔を召喚したとか」
「それで自我を失っちゃあ元も子も無いわよね」
「こらっ! 滅多な事言うんじゃないわよ!」
噂好きの給仕はひそひそと楽しそうにお喋りをする。
「ありゃあもう人間じゃなくて化け物か何かだよ」
幼い娘を助けた偉大な母は自我を失い、我が子すら分からぬまま・・・、封印を施した部屋でただひたすらなにかに囚われる様に唸っている。
「ねぇ、ジャック」
「はい、お嬢様」
「おかあさま を すくうのに あとどれくらい いきればいいの」
「・・・まだもう少し掛かります」
今度は娘が、その右手に宿る黒魔術の欠片で母を救おうとしている。子は親に似る・・・。
しかし自己犠牲の精神まで似なくても良かったのでは、と傍らの執事と獅子は胸を痛ませる。
「おかあさま まってて」
『レアリ、待ってて』
嗚呼・・・。
おおよその結末を知っていても、主人を止めることが叶わないのは。自分の元主人と同じ顔つきでそんな事を仰るから。
何処で、何を、間違ってしまったのか。
もう何もわからないまま・・・・。
END
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