短篇集
SOUYA.
① 初犯ミス
特別仲が悪いとかそういうのは無かった。
『ただいま』も『おかえり』も言える家族だった。喧嘩も多少したけど、何日か経ったら仲直りしていつも通りに過ごした。テレビのリモコン争奪戦は父の圧勝だったけど。
ある日の事、母さんが料理失敗しちゃった、と焦げたカレーをアレンジしているのを見た。料理上手な母さんにしては珍しいなぁ、なんてカレー炒飯を頬張りながら思った。
弟がテストで赤点を取ったらしい。いつも高得点を取っては、私に自慢してくる弟が珍しいとゴミ箱に捨てられていた答案用紙を見て思った。
キッチンの下の戸棚が開きにくくなってるから気を付けてね、と母さんに言われた。偶におっちょこちょいな母さんの事だから勢い付けすぎて膝でも打ったんだろう。
キッチンの下の戸棚なんて鍋モノの時しか使わないし、大丈夫だとは言っておいたけど気を付けないといけないな、なんて思った。
愛犬のポンが死んだ。
15年も生きた老犬だったし、行きつけの獣医さんにも自宅で最期を迎えるだろうと言われていた。
上手く餌の食べれないポンに少しずつ手から与えたりもしたし、上手く排泄の出来ないポンを優しく拭いてあげたりもした。
それでも寿命というのは抗えないらしく、寒い日の朝。
冷たくなったポンに涙を流した。
ある日の朝、髪を整え歯を磨いていると脱衣所の傍を弟が駆け抜ける。どうやら急がないと遅刻らしい。
「ご飯はー?」
「購買で買って食う!」
「行ってらっしゃーい」
「ほーい!」
バタンと音がしたからもう行ってしまったのだろう。
馬鹿な私と違って賢い弟は、私立に通っているし遅刻一つでも厳しいのだろう。
「あ、使ってる?」
「んー、もう大丈夫。行ってきます」
「はーい、行ってらっしゃーい」
脱衣所を覗いた母に、荷物を纏めて玄関に向かう。
靴を履いた所で、ふと気になっていたことを問うた。
「ねぇ、母さーん」
「なーにー?」
「父さんはー?」
「もう会社行ったよ」
「そっか、早起きだもんね父さん」
そう言って私も家を出た。
もう殆ど人の歩いていない通学路を歩き、バスに乗って学校へ向かう。
「おはよ」
「おはよう!」
校門前で友達と挨拶を交わす。
すると友達は「ねぇねぇ」と興奮気味に言い出す
「昨日の犯罪プロファイル見た?」
「昨日、木曜ロードショー見てた」
「あーもー! 何故見ない! めちゃくちゃ面白かったんだから!」
「内容的には?」
「…んーとね、殺人事件とかの犯人の特徴とか…あとは初犯がほぼやってしまう失敗とか?」
「失敗・・・?」
「そう! 何かね、普段やっていた事が突然出来なくなるだとか鏡を見れなくなるとか。あとは・・・」
「あとは?」
「遺体を家に隠してしまう、とか」
「ふーん」
「ふーんって何、興味なさげな感じ」
「興味無いもん」
「酷っ!」
「ほらHR間に合わなくなるよ」
友達の手を引いて駆け出す。
全くサスペンス好きの友達には困ったものだ
END
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