第3話俺の鎧としての力


「やあ!」


 俺を身に纏った少女、フリルが剣を振るう。

 その威力は圧巻。

 見るからに硬そうな岩の肌を持つ魔物をスッパリ斬り裂いてしまったぞ。


「す、凄い……」


 そして、自分で驚いている始末だ。

 良く分からないが、このフリルがこれだけの力を振るえるのは俺を体に身に纏っているから、らしい。


「凄いわね、フリル。その鎧にそれだけの効果があるなんて」

「うん。ビックリだよ」

「とんだ拾い物ね」


 俺としてはフリルが激しく動くたびに胸だの股間だのが鎧の内側に当たってその感触でくらくらするのだが。

 年頃のお嬢さんがあまり激しくアクションしないで欲しい。


「とりあえず今日のところの討伐はこれくらいでいいかしら」

「そうだねリモネ。討伐した魔物の魂魄玉も集めたし、成功報酬も貰えそう」


 魂魄玉? と思って意識を集中させるとたしかにフリルもリモネもそれらしき小さな玉を持っていた。あれが魔物を討伐した証になるのか。それ以外の用途もあるのかもしれない。

 ともあれ、フリルとリモネはここから引き上げることにしたようだ。


「フリル。あんたその格好で町に入るつもり?」

「あ、そうか。少し恥ずかしいね」


 リモネの言葉にフリルは少し頬を赤らめる。

 そりゃあ、恥ずかしいだろう。俺はいわゆるビキニアーマーなワケで今のフリルは肩口とかへそとか太ももとかが丸出しだ。股間のラインもきわどい。


「それならこれで」


 と、フリルはどこからともなくマントを取り出すとそれを羽織った。

 それでも体の肌色は隠し切れていないのであるが、先程に比べれば随分とマシにはなった。


「それじゃ、帰ろっか」

「そうね」


 二人の少女は並んで帰路を行く。フリルは相変わらず俺を身に着けたままだ。

 どうなってしまったのか、と俺は現状の理解に苦しむ。

 サラリーマンやっていてあまりのブラックさにやけ酒を飲んでいたらぶっ倒れて気が付いたら鎧になって、こんな魔物が出てくるような世界にいた。

 ……何がなんだか分からない。

 そして、今の俺は鎧のはずなのに身に着けた少女、フリルのあちこちの感触を感じ取れる器官や、周りの状況を把握できる視界と聴覚がある。これも理解不能だ。

 とはいえ、考えても答えは出ない気がした。


「あー! フリルちゃんにリモネちゃん! 大丈夫だった?」


 そこにハイテンションな女の子の声がかかる。

 見ればフリルやリモネよりさらに幼い少女が駆け寄って来るところだった。背中に小柄な体に似合わない大型の斧を背負っている。


「アラリスちゃん、大丈夫だよ」

「アラリス。わたしたちがこの程度のダンジョンで後れを取るワケがないでしょう」


 アラリスというらしい。三人目の少女は。

 格好から察するに二人の仲間か。


「あれ? フリルちゃん、どうして鎧が新しくなっているの?」

「えへへ、この鎧凄いんだよ。着ているだけで力も強くなるし、防御力も高いの」

「そんな鎧で~?」


 アラリスは俺(鎧)の効果を疑っているようだが、なんだか知らないが、俺に身に着けた者を強化する力があるのは事実だ。


「それよりアラリス。魔物の魂魄玉。これだけ収穫があった。これならそれなりの儲けになるだろう」

「わぁ、こんなにいっぱい! これなら大丈夫だね!」


 やはり魔物の魂魄玉とやらは単に魔物を倒した証だけではなく、価値があるものなのだろう、と俺は推測した。

 そうして、おそらくは町に戻る三人の姿を俺はフリルの身を固める鎧となって見守るのだった。

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