職場の先輩に恋をした話
翔羅
第1話
私は、職場の先輩に恋をした。
でも、絶対に実らないってことは知ってる。だって、あの人は1人を好むから。私だって、1人の時間が好きだ。誰かとワイワイ楽しむのも好きだけど、どちらかというと1人が好き。だからこそ分かる。邪魔されたくないってことも。だから、この思いは、あの人の人生において邪魔なもの。だから、この思いは、絶対口にしないって決めてる。
でも、ずっと一緒に働けるわけじゃない。だから私は、壊れてしまった。
今飲み屋で、先輩の送別会をしてる。
私は20代だけど、あまりお酒を飲まない。…だってお酒より珈琲の方が美味しいから。それに炭酸も匂いも苦手だし…。
そんな私が、今日……そう!今日!!『お酒飲んじゃった勢いで告っちゃいましたごめんなさい大作戦!!』を決行する!!!
…と、勢いでお酒を飲んだが………やってしまった。
私は、お酒やアルコールが入ったお菓子を摂取すると、眠くなるというか寝てしまうタイプだったってこと…!!……すっかり忘れてた~。
「だ、大丈夫?」
う…あ、そうだ。運良く先輩の隣になれたんだ。
先輩は、水の入ったコップを渡してくれた。「これはいかん」と思われたんだな…。いや、実際私もいかんと思ってる。ありがたく受け取って、ゴクッゴクッと2回。
…まあでも、即効性があるわけでもないから、まだまだ眠い。
「…………。」
ふと、自分らしくない考えが浮かぶ。
「肩か背中……借りてもいいですか?」
…って!!!もう口にしてるーーーーー!!!!!!
酔ってる自分ヤベェ!!深く考えずに口にしてるーーー!!!!
「え?あ、いい、けど……どんな感じ?」
うんそうだよね。そうだよね。お互い陰キャだもん。キョどるわ、そんなお願い。
でも、これまた運良く端っこの席かつ、反対側の人もいないからなのか、先輩はOKしてくれた。
「すみません。少し……借ります。」
ピッタリ背中合わせじゃなくて、先輩の背中の左側に、私の背骨あたりを合わせた。
…我ながら馬鹿なことしてると分かってる。なのに、すごく幸せなのを感じる。
ホント、馬鹿でヤバい後輩だな……。
・・・・・・・・・・
いつの間にか、解散の時間になってた。
「大丈夫?起きれる?」
右耳から入ってくる先輩の声。
ああ……起きなきゃ……離れなきゃ……もう2度と………。
「あ、え”っ!?大丈夫!?え、マジ?え?」
やけに先輩がキョどると思ったら、私が泣いていた。それ、キョどるわな。止めなきゃいけないのに、止まらない。
あー……うざい。迷惑かけるんだから止まってよ。
流石に異変だと思ったのか、一緒に飲んでた他の人も周りに来て、心配そうに声かけしてくれた。
「先輩がいなくなるって、寂しくてないてるのかぁ?」
冗談で言っただろう誰かの一言。それは、まさにそうだ。ほんの一瞬だけ、場の空気が凍りついた気がしたが「そんなわけないだろう」とか、そういう系の言葉で溢れた。
私は、「そうしなきゃいけない」気がした。
「大丈夫…大丈夫です。大丈夫ですから。」
大丈夫を連呼した。もうそれ以上考えられなかった。今すぐ逃げて、タオルかクッションに顔をうずめて大泣きしたい。もうこれ以上、迷惑をかけたくなかった。
袖で、化粧なんか気にせず適当に涙を拭う。前が見えればそれでいい。
…タクシー呼ばなきゃ。
少し肌寒いけど、外に立っていた。1番早く外に出たから、他の人はまだいない。先輩もまだ中だろう。
やっぱり、陰キャの私に告白なんて無理だ。『夢』のように、妄想で先輩と仲良くしてればそれでいい。リアルの先輩には、そういう目で見られてないだろうし、むしろ嫌われているだろう。それか、もしかしたらお相手がいるかもしれない。
……フラれるのがこんなに怖いなんてな~。
ぞろぞろと他の人が店から出てきた。もちろん先輩も。人数の半分は飲酒した為、迎えやタクシー、代行が来ていた。私はついさっき、店を出てから電話したから、早くても20分は待たなきゃいけないだろう。あともう半分は、次々と車の運転席に座っていく。もちろん全員飲酒していない。
先輩も確か飲んでいなかったから……もう帰っちゃうのか。
目は先輩を追わず、他の人を追っていた。なんか、怖かった。それと、今先輩を見たら、また泣いちゃう気がしたから。
最後の最後まで、迷惑をかけた。恋した相手に。
もう、なんか……色々……力尽きたわ~。
適当にスマホいじって時間を潰していた。なんとなく顔を上げると、まだ先輩の車があった。
どっかでタバコ吸ってから帰るのかな。
職場でもすぐ帰る時と、そうじゃない時とある。だから、どっかに居るんだろうとしか思わなかった。
「もう、大丈夫なの?」
だから!近くにいたなんて思わなかったんだよ!!
一瞬だけフリーズした。
「あ、はい。もうダイジョブッスよ。」
「もう関わらないでくれ」と願いを込めて返した。だけどまだいる。
なんで今日に限って帰らないんだ~~~~!!!!!
「……泣いちゃってすみません。」
無の空気に耐えられなかったのは私です。
「いや!全然、大丈夫。……なんで泣いたのか、聞いてもいい?」
ですよね~。ま、どうせ会わないだろうし……話してドン引かれて嫌われた方がすっきりするか。
「…さっき誰か、言いましたよね?先輩がいなくなると思うと、なんか急に寂しくなっっちゃったんですよね~。先輩優しいし、頼りになるし……あと、失礼ですけど面白いですし。」
「え?そうなの?
「そうですよ。」
今言ったの事実だわ。
「…あと、今から言うこと、引き留める為だけだって思うかもしれませんけど、もう最後なんでそう受け止めても構わないです。」
「うん。」
「先輩のことが好きだから。」
「うん。え?」
予想通りの反応、ありがとうございます。
「なんで今なのかっていうと、先輩にそういう目で見られてないって思ってたからです。あと、もしかしたらお相手がいるかもな~って。」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、おれんよ。」
ほっとする自分と、それを醜いと思う自分がいて……気持ち悪い。
「あと先輩って、私と一緒でゲームけっこう好きじゃないですか。誰かといるより1人の方がいいじゃないですか。あ、協力プレイとかは別ですよ?そういう……時間っていうか空間っていうか……邪魔されたくないんじゃないかなーって、思って。」
「あー………。」
「フラれるのが怖い」っていう言葉は飲み込んだ。それを言うことさえも怖かった。でも、それ以外は全部言った。
…自分で言うものなんだけど「好きだからこそ、彼の幸せを優先する」っていう、なんか漫画みたいな考え持ってんな~って。
「…逆に~、聞くけど……君にお相手はいないの?」
「いませんよそんなの。」
「そんなの!?」
「あ~……えっと、ややこしくなるんでシンプルに言うと、自分が面倒な性格だって分かってるんで、誰も自分のことを好きならないだろうって。むしろ嫌われてるだろうな~って、いつも思ってるんで。」
「そう…なの?」
引いてるね。
「そのせいで……まあ、うん。学生の頃とか問題児扱いされてましたし。」
「そう………。」
ま、だよね。ここまで言えば伝わるでしょ。私がどれだけ面倒でヤベェ奴か。
これでいい。いいんだ。これが私にとって最善なんだ。だから……早く帰って独りにさせてよ……!!!
こんな時に限ってタクシーはまだ来ない。
自分で自分を欠陥品だってアピールしてることと、それを聞いてもまだそばにいる先輩の存在を感じると、またなんか、涙出てきた。
情緒不安定か。うーん……また迷惑かけるのもよくないし……先輩から少し離れよう。
「どこ行くの…!」
まだ2、3歩進んだだけだぞ…!心配性か!……てか、もう会わない人だから、ちょっと進んだだけで拉致られたり殺されたりしても関係なくね?なんで止めるん?
「ちょっとそのあたりを…歩いてくるだけです。あ、お疲れ様でした。」
流石に思ってることを口にできなかった。でもちゃんと「お疲れ様」って言ったし……帰るでしょ。
あーあ……いつもみたいにツンツンしちゃった。最後なのに……馬鹿だなぁ…。
「流石に危ないよ。女の子1人で……もう少しでタクシー来るだろうし…待ってた方がいいよ。」
私の左腕を、先輩の右手が掴んでる。いつもは近付いて来るだけなのに。いつもは触れないのに。なんで今日は……。
「…もう女の子って歳じゃないですよ。」
「あ、でも20代だし…自分より歳低いし?」
「…………。」
また袖で涙を拭う。先輩も、何も言わなかった。いや、呆れて何も言わないんだろう。
とりあえず、言われた通りにしよう。
と、店の前に戻ったら丁度タクシーが来た。
……最後だから…………最後だから…………!!!!!!!
「じゃ……お疲れ様でした。いや、さようなら。」
私が勝手に恋をしてしまった、もう2度と会えない人。
「ねぇー。お客さん来てるよー。」
「ん~~~?」
こんな朝っぱらから誰?なんか宗教の人?
母のどことなくまったりな声で起きる。「朝っぱら」というか、もう午前9時を過ぎている。でも休日ゆっくり派の私からしたら「朝っぱら」なんだ。
「着替えるから少し待ってって伝えて~。」
ん~……とりあえずジーンズと白のブラウスでいいや。すっぴんだけど…仕方ない。マスクすればいっか。の、前に、櫛で髪をとかして……と。
謎の客人がいるであろうリビングに行く。我が家は和風の造りだから、ドアじゃなく全て引き戸。私から見て、右にある取ってを左手くらいのいちまでずらす。
「あ…おはよう。」
え、は?なんで先輩がうちのリビングにいるん???
職場の先輩に恋をした話 翔羅 @kuroneko_no_satO8
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