第6話

 試験って言ったよな?


「マナ、ペンとか持ってきたか?」

「ええ」


 ペンを取り出す。


「勉強してきたか?」

「ええ」


 本を取り出す。


「俺何もしてないんだけど」

「ウケるわね」

「ウケねぇよ!!」


 んだよ初日からテストって。


 いや、普通か?


 むしろ勉強してない俺の方がおかしいのか?


「いやいや、学校があるなんて知らされたのもつい最近、というか昨日なんだし」


 しょうがないな


「とりあえず悪目立ちしないくらいは取れるといいな」

「そうね」


 マナはクスクスと笑うのであった。


 ◇◆◇◆


 教室のような場所に移動し、問題を解く。


 俺の後ろにはカリカリとマナが止まることなくペンを走らせているが


(全然分からん)


 やはり勉強不足が響いていた。


 なまじこの世界は技術的にはかなり昔のため、数学やらが出来るのは安心だが、その他がボロボロだ。


(魔物の特徴?知るか)


 頭を悩ませながら、どうにか必死に問題にくらいついた。


「頑張れ」


 後ろからの声援はどこか笑いを含んでいたのは気のせいだと信じたい。


 ◇◆◇◆


「どうだった?」

「余裕ね」

「そうか」


 後ろを向けば絶世の美女が迎えてくれる。


 ちょっと胸がドキリとした。


「な、何だか顔だけはいいソラが振り向くとちょっとドキッとするわね」

「一言余計だ」

「それで、ソラの方は?」

「予想通りだ」

「そう」


 マナはペンを回す。


「さっき先生が言ってた通り、この学校は成績順でクラスを決めるらしいわ」

「そうか」


 ということは


「残念ね、ソラの後ろの席がよかったのだけど」

「俺がマナの前だったら毎日悪戯されそうだけどな」

「そういう楽しみもあったわね」


 さらに残念だわと口にするマナ。


「おーい、二人ともー」

「げ」


 ケイとかいう糞虫が近くに来る。


「あらケイ君。どうだった?」

「僕は中々だと思うよ。マナちゃんは?」

「私も、自信はかなりあるわね」

「そっか」


 なにが「そっか」じゃ。


 お前とマナの格差がどんだけあると思ってんだ。


 ついでに目の前の男にも聞いてみな。


 絶望的雰囲気を出して空気を悪くしてやるよ。


「大丈夫よ、ソラ。この学校は実技もあるらしいから」

「は?何だよそれ」


 前世みたいな学校を想像してた俺としては、聞きなれない言葉だった。


「実技はね」

「お前には聞いてない」

「実技は純粋に戦闘能力を測るものよ。この学校は魔法を学ぶためのものだから、勉強と運動両方出来ないといけないらしいわ」

「へー」


 魔法か


 少しばかり憧れてたんだよな。


「そろそろ行きましょ」


 マナが立ち上がる。


「うん」


 ミジンコも立ち上がる。


「行くぞ」

「あら」


 俺はマナの手を引く


「ふふ、学校って楽しいわね」

「まだ始まってないだろ」

「ちょっと二人とも待ってよー」


 ◇◆◇◆


 俺らは渡された運動着に着替える。


 黒よりのグレーな上着と黒いズボン。


 前世と違って中々センスのいい服だ。


「次は実技試験です。課題は主に二つ、まずは体力測定、次に戦闘能力を測ります」

「ふ〜ん」


 なるほどね。


「点数を稼ぐチャンスね」


 マナが耳元で喋る。


「どうして距離を取るのかしら?」

「なんとなくだ」


 くすぐったい耳を掻く。


「マナは大丈夫か?」

「何がかしら?」

「運動」

「大丈夫よ。必要最低限は出来ると思うわ」

「まずは体力測定です」


 最初は何だ?


「200メートル走?」


 50じゃないのか。


「勉強のレベルが低い代わりに、この世界だと運動面が優れてるのか」


 とりあえず適当な理由で自分を納得させる。


 前の人が走って行く。


 30秒や25秒、速いやつは10秒台に乗ってる。


 やっぱりこの世界の人間は身体能力が高いな。


「次はソラさんにマナさん」

「はい」

「うぃー」


 並ぶ。


 すると周りがざわつく。


 好意的な目が多いが、中にはどこか棘のあるものが混じっている。


 それに、あの下卑た目線が


「ムカつくな」

「あら、人気者の証拠じゃない」

「目立つ必要はない」

「どうして?」

「……」


 そんなの


「めんどいからな」

「ふ〜ん」


 マナのこの顔だけは好きになれんな。


 全てを見透かして嘲笑ってるかのようだ。


「それでは位置について」

「怪我すんなよ」

「ええ」


 マナはクラウチングを構え、俺は姿勢を変えない。


「よーいスタート」

「ふぅ」


 線を過ぎる。


「何秒だ」

「え、えっと、え?」


 計測をする教師が困惑する。


「あの……測れてません」

「んだよ」


 俺はとりあえず走るマナを見る。


「あれはうちの妹だ」

「へ?そう……うわ!!凄い美人」

「いいか、手を出したら殺す」

「へ?」


 俺は優しく教師の手を掴む。


「これからよろしくな」

「ひゃい!!」


 そしてマナが息を乱れさせながらゴールする。


「な、何秒ですか?」

「えっと、丁度1分ですね」

「そう」


 マナはなんとか呼吸を整え


「頑張った……わ!!」

「お疲れ」

「ご褒美が……ハァ、欲しいわ」

「なんだそれ」

「ん」


 頭を出される。


「……」


 察す


「叩くのはなしよ」

「チッ!!」


 読まれた。


「行くぞ!!」


 軽く頭を撫でる。


「ええ」


 急にケロッとしたマナが歩き出す。


「何見せられたんだ?」


 教師は静かに呟いた。


 ◇◆◇◆


「次はこれですね」

「なんだこれ」


 最近この言葉を多用してる気がする。


 少しセーブしよう。


「これを全力で殴っていただければ、その力がどれほどかを示します」

「パンチングマシンか」


 この世界にもあるんだな。


「魔法の障壁が100層あり、奥に行けば行くほど硬くなっています」

「そうなると、弱者をかなり分けやすくするシステムってことかしら」

「だな」


 次々と人々が殴る。


 男女ともせいぜい10層くらいか。


「本気でやって大丈夫か?」

「ここでいい成績取らないと私と同じクラス慣れないわよ?」

「はぁ」


 そうだった。


「次、マナさん」

「はーい」


 マナが呼ばれる。


「大丈夫か?」


 手首とか捻らないかな?


「いきます!!」


 マナの空気が変わる。


 まるで歴戦の猛者のように静けさと、内なる熱に空間がまるで歪んで見える。


 そして美しいフォームを構え


 打つ!!


「一枚ですね」

「うー」


 トボトボと帰ってくるマナ。


「筋力はしょうがないわ」

「さっきの女の子5枚割ってたけどな」

「うるさいわね」


 珍しく凹んでるマナ。


 ちょっと……可愛


「ゴホン」

「どうしたの?」

「思考を遮った」

「次、ソラさん」

「ああ」


 俺は前に出る。


「これの100枚目ってどれくらい硬いんだ?」

「え?確か街一つを破壊できる攻撃でやっと壊せるくらいだと」

「そうか」


 さすがにそんな人間やめたみたいなことは出来ない。


 なら


「全力で」


 息を吸う。


 身体中の流れる血液を意識し、スッと頭の中が冷える。


 心臓の鼓動が徐々に徐々に加速し


「今」


 力をぶつける


 パリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリン


「どうだ」

「へ?え?へ?」


 女教師が困惑する。


「59」

「言われてもよくわからんな」


 後ろに戻る。


 なんか周りが騒ついてるが気にしない。


「凄いわね」

「家一個壊せるくらいか?」

「そのくらいじゃないかしら?不思議ね、本当に」


 クスクスと笑うマナ。


「あ、あの、僕も頑張りますね」

「いたんだ、お前」

「頑張って、ケイ君」


 さっきは会場が違ったため一緒にいなかったクソがいる。


「8枚割れました」

「ざっこ。赤ちゃんの時から鍛えとけよ」

「そんなことしてるのソラくらいよ?」

「え!!ソラ君ってそんな時から鍛えてたんですか!!」

「常識だ」

「独りよがりの価値観ね」


 雑魚が褒めてくるが耳に入らない。


 蚊がうるさいので潰しましたって正当防衛に入るのか?


「コラ」


 叩かれる


「それはダメよ」

「分かってるよ」

「?」


 長年の付き合いのせいか、マナは結構俺の考えを当ててくる。


「次行きましょ」


 それから体力測定は問題なく終わった。


 毎回毎回周りの目が鬱陶しかったが


「カッコいいわよ」


 ……まぁ寛容な心が大事だ。


 そして


「最後は実践です」


 女性教師が前に出る。


「大丈夫か?」


 別に俺は女性蔑視とかはしないが、根本的に男と女は体の構造が違うと考えている。


 しかも女教師はかなり細い。


 勝負になるのか?


「どうぞ前に」


 一人の男が前に出る。


 身長は180くらいか?


 デカいな。


「全力でいきます」

「ええ」


 えー


「大丈夫か?」

「どうかしらね」


 巨体が教師に向かって迫る。


 だが俺は信じられないものを目にする。


「ああ、そっか」


 まるで遊ばれるかのように、巨漢を悠々といなす教師。


 そんな人間離れした所業を成し遂げるのが


「魔法か」


 それにより男の攻撃は教師に触れることは出来ず、その攻撃はまるで鉄球を受けたかのように男が吹っ飛ぶ程だ。


「馴染みがないんだよなぁ」


 魔法という存在は、俺にとってまだまだ未知数だ。


「素晴らしい反応です」


 それから教師は凄い速さで攻撃を仕掛ける。


 男は必死に躱すが、何発か当たり度に吹っ飛ばされる。


「俺の体みたいだな」


 見た目以上の力。


「俺も無意識に魔法を使ってたのか?」

「ママが言うには素だそうよ」

「へえ」


 じゃあ俺って生まれつきおかしいのか。


「さて、次はケイさん」

「はい!!」


 アホ面が前に出る。


「ボコボコにされて再起不能にならないかな?」

「もう、ソラ」


 咎められる。


「実は僕、少し魔法が使えるんです」

「構いません。見せて下さい」


 魔法が使える?


「勉強したんじゃないかしら」

「独学で出来るものなのか?」

「……どうかしら。人によるんじゃない?」


 歯切れが悪いな。


「まぁいい」


 戦いを見る。


 戦いは今までと大して変わらない。


 強いて言うのであれば


「ふ〜ん」


 ケイは魔法を使い、手から炎を出す。


 教師がそれを褒めながら笑顔で消し飛ばす。


「凄いですね、きっとかなり勉強したんでしょう」

「そうなんです!!」


 アホは褒められて嬉しそうだが


「その分戦闘がおぼつかないな」


 近接戦に持ち込まれた時の慌てよう


「むしろ魔法が無い方が動けるだろ」


 銃を持った人間は銃しか頼れない。


 何故ならそれは怠慢が許される程武器が強力だからだ。


 だが、もし持っていた銃が故障してたりしたら


「参りました」


 雑魚は嬉しそうに帰ってくる。


「えへへ、僕褒められちゃいました」

「おめでたい脳だな」

「え?」


 不思議そうな顔をする


「ならソラ君は魔法が使えるんですか?」


 んだよその顔


「使えないが、問題あるか?」

「いえ」


 少し笑いながら


「魔法が使えないのによくそんなこと言えるなと思いまして」


 どうしよう、凄く殴りたい


「マナちゃんもそう思いませんか?」


 まーたマナかよ


 マナもどうせ持ち上げるんだろ。


「私達はまだ魔法を習ってないわ。魔法が使えないのは当然。なら、そこに優劣を見出すのはおかしな話じゃない?」

「え?あ、うん。そうだね」


 わぉ


 珍しいな。


「次、マナさん」

「はい」


 マナが前に出る。


「先生、少し」

「どうしました?」


 マナと先生が少し話す。


「本当にいいんですか?」

「はい」


 そして二人は向かい合う。


 そして


「行きます」


 先生が何かを唱え始める。


「んだ?あれ?」


 魔法か?


 そして


「何が起こったんだろうね」

「……」


 一瞬の出来事だった。


 俺でもギリギリ視認出来る程の速度で放たれた白い衝撃波。


 それがマナの目の前でまるで何もなかったかのように消えた。


「何したんだ?マナ」

「参りました」

「ふぅ、マナさん。あなた天才ですよ」

「ふふ、まだまだです。これからよろしくお願いしますね、先生」

「……楽しみですよ」


 優雅に帰ってくるマナ。


「さ、頑張って。私の騎士様」

「はぁ」


 マナとは一時も離れることがない仲だったが、それでもまだまだ知らないことだらけだ。


「秘密のある女の方が素敵でしょ?」

「そうだな」


 それじゃあ


「強い男はカッコいいだろうな」


 俺は少し興奮した体を前に走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強の兄と天才の妹〜拗らせた二人〜 @NEET0Tk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ