第5話

 ピヨピヨピヨ


 小鳥の鳴き声と共に


 ビヨ!!


「あ?」


 目を覚ます。


「魔物に食われたか?」


 朝から目覚め悪いな。


 大きな欠伸をする。


「ああ、そういえば」


 昨日は早々に寝たため、どうやら早く起きてしまったようだ。


「とりあえず朝練でもする——」


 プニ


「プニ?」


 何か柔らかいものに触れる。


「…………まさか」


 恐る恐る右手を確認する。


「ありゃ、おひゃよう」


 マナは喋りづらそうに挨拶する。


「何してんだ?」


 マナのほっぺたから手を離す。


「まだ子供だから一人で眠るのが怖かったの」

「この前ホラー小説読んで笑ってなかったか?」

「所詮フィクションだもの」

「ノンフィクションをどれだけ恐ろしいものと思ってるんだ」


 俺はベットから起き上がり、伸びをする。


「朝練?」

「まぁな」

「今日は学校なのに大丈夫?」

「そんなこと言ってたら毎日出来なくなるかもだからな」


 動きやすい格好に着替えるため、上を脱ぐ。


「きゃー(棒読み)」

「雑な悲鳴あげるな」

「でも実際凄いわね」


 俺は自身の姿を確認する。


 確かに何だか15歳とは思えない程の筋肉。


 いわゆる細マッチョだが、どうやったらこんな場所に筋肉つくんだ?みたいな見た目をしてる。


「ちょっとこっち来て」

「ん?ああ」


 マナの方に行く。


 するとペタペタと俺の体を触り始める。


「……」

「何だ?」

「いえ、ただ筋肉の仕組みを調べてるだけよ」

「ふ〜ん」


 俺にはよく分からんが、妹の知能なら何か気になるところがあるのだろう。


「ハァ……ハァ……」


 マナの顔が上気し、鼻息が大きくなる。


「も、もう十分だわ」

「そうか?」


 上に服を着る。


「少し出る」

「ええ、行ってらっしゃい」


 乱れた髪をベットに寝かせたまま、マナは小さく手を振った。


 ◇◆◇◆


「よし」


 まずは走り込みからだな。


「あんま汗掻きたくないし、今日は軽く百キロでいいか」


 走り出す。


 ついでに街の道でも覚えて、今度マナにでも教えてやるか。


「さすがにまだ誰もいないか」


 時間をちゃんと見たわけじゃないが、さすがに早起き過ぎるな。


 正直、早起きは三文の徳とかいう言葉が俺は嫌いだ。


「寝てた方が気持ちいい」


 これが真理だ。


 でも


「俺走ってるんだよなー」


 矛盾したことを口走りながら同じく足も走らせる。


 すると


「へぇ」


 身長はマナと同じくらいだろうか。


 乱れたペースで走っている人物がいた。


「なんか抜くの可哀想だな」


 ま、いっか


 俺は同じペースで横をすり抜ける。


「は、はや!!」


 そんな声がまるで風のようにすぐに小さくなる。


「やっぱり俺が異常なんだな」


 自身の体のおかしさを再確認する。


「よし、終わり」


 体感10分を走り、目標を達成する。


「汗かいたな」


 10リットルもありそうなボトルに口を付ける。


 だがそれも一瞬で飲み終える。


「戦闘民族か俺は」


 セルフツッコミの後は


「よし」


 家の前に立てかけておいた木刀を手にする。


「確かあそこに」


 走ってる途中で見つけた、誰もいない空き地


「あそこなら人目なんて気にしないで済んだのにな」


 軽くホームシックではないが、昔の情景に駆られる。


「ふぅ」


 息を吐く。


 俺の鍛錬方法はシャドーボクシングを自己流でするものである。


 正直これで強くなれるか?って感じだったが、それで親父を倒せたから問題ないだろう。


 頭の中で想像するのは


「来い」


 頬を掠る。


「はえー」


 脳内で生み出した銃弾が跳ねる。


「実際もっと速いんだろうな」


 次に、仮想の敵を想像する。


 間合いを詰め、俺がフェイントを入れて攻撃するが、当然俺の想像した敵はそれを防ぐ。


「ずる!!」


 自分で自分にキレる。


「んだよ、強すぎだろコイツら」


 数対一を想定し、背後からの攻撃も認識する。


 俺は決して頭がいい方じゃないが、どうやらこういうのは才能があったようだ。


 結果


「ん?」


 後ろに誰かいるのに気付けるようになった。


「ああ、さっきの」


 どうやら走ってる内にここに来たようだ。


「無視でいいか」


 俺は今度は筋トレに入ろうとする。


「あ、あの!!」


 声を掛けられる。


「名前は!!」

「あ?」


 急に何だよ


「お前が誰だよ」

「わ、私はマリナ」

「女か」


 顔が見えないから男かと思った。


「あの……」

「んだよ」


 気にせず筋トレを始める。


「な、名前は?」

「いや普通喋らんだろ、馬鹿か」


 この世界は前世の何十倍も危ない。


 名前を出すことだっていつデメリットになるか分からんしな。


「そんな」

「いいからどっか行け」


 俺は筋トレを続ける。


「う……」

「あ」


 泣きそう


「はぁ」


 ダル


「ソラ」

「え?」

「ソラ。俺の名前だ」

「ソラ、ソラか」


 一気に笑顔になる。


「またね、ソラ」

「二度と会わねぇよ」


 そして人が少し見え始めたくらいで、俺は家に帰った。


 ◇◆◇◆


「ハンカチ持った?」

「ええ」

「タオルは?」

「入れたわ」

「これ防犯ブザー。危なかったら魔法が発動して、すぐにソラが駆けつけるからね」

「騎士呼べよ」


 母さんがマナのチェックをしている。


「ハンカチ持ったか」

「そんなのいらん」

「タオルは?」

「さっき使った。もう干してる」

「これ防犯ブザーな。危なかったら魔法が発動して、すぐにソラが駆けつけるからな」

「俺は既にいるんだよ」


 親父が俺のチェックをするが、意味を成していない。


「緊張しなくて大丈夫だ。だってみんな初めてなんだからな」


 悪い、俺何度も経験してる


「きっとマナは色んな男の子にモテモテになるわ。でも、本当にいい男だけをしっかりと見極めるのよ」

「ええ、分かってるわママ」

「……」

「いいか、ソラ。最初はお前の顔に沢山の女の子が寄ってくるだろう。だけど、ソラの性格を知れば全員離れる。しっかりと自分がダメだって見極めるんだぞ」

「殴っていいよな?」


 ちょっと酷いだろ。


「ソラのことは任せて。私がしっかりと面倒見るわ」

「さすがお姉ちゃんね」


 俺の妹ですが


「ソラ、お前は末っ子なんだから無理しなくていいからな」

「双子だからそういう分かりにくネタやめろ。少し疑うから」


 今までの兄としての誇りが無くなっちゃうだろうが。


「さ、行ってこい、バカ息子」


 背中を叩かれる。


 躱せたが、まぁ当たってやった。


「行ってらっしゃい、マナ、ソラ」

「気をつけろよ」

「行ってくるよ母さん」

「行ってきます」


 こうして二人で外に出る。


「……」

「どうしたの?行きましょ」

「ああ」


 何だか


「学校なんてクソだと思ってたが」


 隣に誰かがいると思うと


「案外いいもんだな」


 少しだけ口元が緩み


「あ、マナちゃんこんにちは」


 一瞬で口から牙が出る。


「おはよう、ケイ君」

「そっか、マナちゃんも学校なのか。一緒だね」

「ええ」


 自然とマナの近くに寄る害虫。


「普通のことをあたかも特別かのように話なんて、ナンパ師の才能でもあるんじゃないか?」


 二人の間に割って入る。


「へ、へぇ」

「ソラ」

「ああ、そうか」


 どうも慣れん。


 この世界の15歳なんてその程度だったな。


「えっと……つまり、お前イズアホ。おk?」

「よくないわよ」


 頭を叩かれる。


「ごめんね、ケイ君。ソラは少し変なの」

「変?」

「そう、ソラは言葉を遠回しに伝えるプロなの」

「間違いじゃないが失礼だな」


 俺を間に挟んで喋る二人。


 まぁ妥協点だな。


「そしてソラはシスコン。覚えててね」

「シスコンって?」

「妹のこと大好きな人」

「そっかー」

「おい!!」


 変な知識を与えるな。


 てか


「ふーむ」


 この世界って意外と前世と似てる言葉が結構あるな。


 そんなことを思いつつ、歩くこと10分ほど。


「もう着いたのか」


 そこには同じ制服を着た同じ年くらいの子供が中に入って行く巨大な建物があった。


「思ってたより大きわね」

「そっか、二人は初めてみるんだね」

「マウントか?」

「マウント?」

「褒めてるのよ」

「ソラ君ありがとう」

「どいたまー」


 三人で正門を抜ける。


「へぇ」

「凄!!顔面偏差値やば」

「カッコいいー」


 正門を潜れば多くの学生。


 中にはどこか煌びやかな服を着ている者達もいる。


 おそらく上流階級ってやつか。


「あら、注目されてるわね」

「緊張は?」

「子供の目線くらい大丈夫よ」


 大人はダメなのか。


「僕もかな?」


 ケイが気持ち悪くオドオドしてるが、コイツは何も注目されていない。


 どう考えてもマナの目線を勘違いしてるだけだ。


「調子乗んな」

「これはケイ君がカッコいいから嫉妬してるのよ」

「おい」


 それはいかんだろ。


 本気で勘違いするぞ。


「別にいいんじゃない?これくらい」

「甘いな」


 これで天狗が出来上がったらどうするんだ。


「それもそれでいいんじゃない?面白そうだわ」

「……それもそうだな」


 マナは俺と同じで多分善人じゃない。


 人当たりのいいことを言うが、それは処世術であり、実際思ってることは違うだろう。


 だからだろうか


「ソラ相手は楽ね」

「そうか」


 似たもの同士といった言葉がでるのは。


「???」


 ケイが不思議そうにこちらを眺めている。


「はーい、みんな。こっち集合ー」


 一人の女性が呼びかける。


「先生か」


 異世界の学校、どんなものか知らないが、まぁなんとかなるだろう。


「とりあえずクラス分けの試験をするから、ペンを用意しておいてね」


 どうにかならないかもな。

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