第4話

「ここが俺らの新しい家だ!!」


 それは


「普通だな」

「普通ね」

「立派よお父さん」


 思ったよりも普通であった。


「確かに見た目は普通だが、中はしっかりとセキュリティー管理されている」


 扉を開ける親父。


 中は


「やっぱ普通だ」

「普通ね」

「快適そうだわ〜」


 やっぱり同じ反応。


「実はな、この街そこそこ人気で、この家が残ってる中で一番セキュリティー面が万全なんだ」

「ちゃんとした家がそんな売れてるってどんだけ治安悪いんだよ」


 この街危なくね?


「その分他よりも騎士が多い。というよりこの街は大陸最大の街だ。そこらの国よりデカいぞ?」

「もうそれは街じゃないだろ」


 え、じゃああの壁ってどこまで続いてるんだ?


 恐ろしい疑問が浮かんでしまう。


「とりあえず部屋割りから決めるか」

「前より広いから、二人ともそれぞれ個室ができるわよ」

「分かったわ」

「俺は空いた部屋でいい」


 特に意味はないが、少し気落ちする。


「素直に言ったらどうだ?」

「何の話だ」


 耳元で親父が喋りかけてくる。


「マナと同じ部屋がいいんだろ?」

「何のことだ?」

「いや、兄妹仲良いことはいいことだ」


 だけどと離れる親父。


「あんまり溺愛してると後で嫌われるぞ?」

「経験者は語るか」

「え、俺お前に嫌われてるの?」

「どうだろうな」


 仕返ししてやった。


「じゃあ私はここにするから、ソラはここね」

「うぃー」


 正直部屋なんて使えればどこも同じため、マナの言う通りの場所に決定する。


「じゃあとりあえずご近所巡りするか」


 親父が立ち上がる。


「俺はパス。そんな暇あるなら鍛えとく」

「マナはどうする?」

「私は行くわ」

「……そうか」


 行くのか


「ちなみに隣には男の子が住んでるらしいわ」


 ……


「気分が変わった。やっぱり俺も行く」

「どうしましょうお父さん。うちの息子は世界一可愛いわ」

「きっと母さんの血を引いたんだろうな」


 俺は舌打ちと共に、家を出た。


 ◇◆◇◆


「ほらケイ!!早くご飯食べなさい!!」

「う、うん」


 僕はお母さんの言った通りにご飯を食べる。


「そうだ、実は今日隣に人が来るらしい」

「こんな時期に?……あぁ、そういえばあれがあるのね」

「ああ」


 新しいお隣さん?


 話を聞くと、僕と同い年の双子らしい。


 双子なんて珍しいな。


「すみませーん、隣に越してきたものですが」


 扉を叩く音がする。


「これはこれは、ご丁寧にどうも」

「いえいえ、これから長い付き合いになるのですから」


 お父さんと向こうのお父さん?が話してる。


 お母さんもお皿を洗ってすぐにお父さんの横にいった。


 僕はなんだか怖くて、お父さんとお母さんの後ろからその光景を眺めていた。


「双子だと聞きましたが」

「ああ、息子はもう少ししたら来ます。こちらはうちの自慢の娘です」

「初めまして」

「え」


 後ろから姿を現した女の子を見た瞬間、急に胸が痛くなる。


「マナです。少し作法に疎いのですが、ご了承を」

「いえいえそんな」

「ご丁寧な娘さんですね。きっとお二人の教育の賜物でしょうね」

「いえ、勝手に本を読み始めたらいつの間にか」

「あの!!」


 僕はいつの間にか彼女の前に立っていた。


「ぼ、僕の名前はケイです!!よろしくお願いします!!」

「すみませんね、急に。出来の悪い息子で」

「そんなそんな、うちの息子と違って元気で素直そうですね」


 マナちゃんと目が合う。


「ええ、初めまして。これからお隣同士、仲良くしましょう」


 マナちゃんの手


「う、うん」


 どうしてか震える手でその小さな手を


「ほら、それよりむさい男の手の方が緊張しなくていいだろ」


 マナちゃんの手は思ってたより硬かった。


「やっと来たか」

「ウルセェ」


 あれ?誰だろ?


 僕が握手したのは名も知らない男の子の手だった。


「こちらが先程話した息子のソラです」

「ども」

「ソラ、ちゃんと挨拶しなきゃダメよ?」

「はいはい」


 何故か僕の手を離そうとしないソラ君。


 最近になってお父さんとの腕相撲でいい勝負するようになった僕だけど、今はピクリとも腕が動かない。


「初めまして、優秀な妹の兄です」

「双子揃って美形ですね」

「そうなんですよ!!」


 お父さんとお母さんが二人のお父さんとお母さんと奥の部屋に行く。


「え、えっと、僕の名前はケイって言います」

「そうか」


 ソラ君は中々手を離してくれない。


「ソラ、意地悪しない」

「友情を確かめ合ってるんだ」

「既に友情が壊れそうだけど?」


 どうにか両手を使って手を離そうとするけど、全然取れない。


「ほら」


 急に離してくれた。


「じゃあ」


 そう言ってソラ君は


「帰るか」


 帰っていった。


「あ」


 マナちゃんを連れて


 ◇◆◇◆


「パパとママは?」

「俺が帰るくらい察してるだろ」

「わざわざ私を連れてく必要ないじゃない。私もう少しケイ君と話したかったわ」

「そうか」


 俺は手を離す。


「好きにしろ」

「へぇ」


 マナはヒラリと一回転する。


「それは好きな方を選べってこと?」

「解釈は自由だ」

「そう」


 そしてマナは


「じゃあ私アッチに行くね」

「そうか」


 そうか……


「じゃあ先に家に戻ってる」

「ええ」


 ………………





「なぁ」

「何?」

「俺は素直じゃないからな」

「知ってるわ」

「……それだけだ」


 そして鉛のように重い足を進めようとした時


「やっぱり」


 隣に


「こっちを選んで正解だったわ」

「行かなくていいのか?」

「好きな方を選べって言ったのはソラでしょ?」

「じゃあ」

「何回も言わせないで。嫌われるわよ?」

「それは……ごめんだな」

「ふふ、普段からそうして素直でいればいいのに」

「俺の好きにさせろよ」

「そうね」


 こうして肩を並べて帰った。


 ◇◆◇◆


「帰ったわよー」

「ソラ!!勝手に帰るな!!失礼だろ」

「マナも帰っただろ」

「どうせお前が泣きついたんだろ?」

「泣きついてねーし!!」

「お帰り、ママ。それは?」

「お裾分けって。優しい家族だったわ」

「どうだ?ケイ君とは仲良くできそうか?」

「ええ」

「無理だ」


 ソラとマナは真反対の言葉を投げる。


「ケイ君はどっかの誰かさんと違って分かりやすいくていいわ」

「あいつは将来ストーカーになるタイプだ。離れた方がいい」

「嫉妬かしら?」

「嫉妬だな」

「ママ、パパ、そういうことは本人のいないところでしないと」

「そういうのが一番タチ悪いからな。あと違う」


 ムスッとソラは日課の素振りを始める。


「私も、読みたい本を残したままなの」

「ああ、だけど少し待ってくれ。ソラも耳だけ貸せ」


 珍しく真面目な雰囲気になるセイガ。


「実は引っ越しをしたのには二つの理由があるんだ」

「二つ?」


 ソラは一度素振りを止める。


「なんとなく俺らに人付き合いさせるためとは踏んでいたが」

「おいお子様。父親の密かな愛を瞬時に読み取るな。それと気付いててご近所さんへのあの態度は完全に喧嘩売ってるな?」

「それで、パパ。もう一つの理由って?」

「ああ、それはだな」

「学校があるのよ」

「母さん!!」


 マナとソラは驚く。


「なるほど」

「学校か。何だか懐かしい響きだ」

「二人は学校を知ってるの?」


 サーラが問う。


「本で少しね。まさか私達が学校なんて思わなかったわ」

「同じような理由だな……ああ」


 するとソラが納得したような声を上げる。


「だからあの餓鬼と仲良くできるのか聞いたのか」

「餓鬼ってお前と同い年だろ」

「人は体だけが大人の判断基準じゃない。少なくとも精神と知識が大事だ」

「ホントに子供らしくないな、お前達は」

「パパ、それは心外よ。私はちゃんと子供らしいわ」

「マナが一番大人ね」


 ソラが素振りを再開する。


「それで?いつから、どこで、道具は、手続きは?」

「一気に質問するな。分からんだろ」

「明日から学校よ」

「は?」


 また素振りを止めるソラ。


「あ、明日?」

「ええ」

「場所は近くだからすぐ分かる。道具は学校で渡すそうだ。手続きはとっくの昔にしている」

「おいおい」


 聞いてないぞという顔をするソラ。


「楽しみね」


 反してウキウキと楽しそうにするマナ。


「なにがそんなに……」


 ソラは思い出す。


 マナは生まれて初めて学校に行くのだと。


「いや……そうだな。楽しみだな」


 その時のソラの笑顔は、確かに兄としてのものであった。


「そうね。とっても楽しみ」


 だが、その時マナのした笑顔は


「今日は早く眠らないとね、ソラ」

「そうだな」


 子供のそれとは違った笑みであった。


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