第3話

「前が見えん」


 大量の荷物を抱える。


「業者とかいないのか?」

「業者に馬車、それから護衛、その他諸々含めたら結構な金額になるんだ」

「だからって子供に全ての荷物持たせるとか虐待じゃないか?」

「でも重くないだろ?」

「まぁ」


 縦3メートル、横4メートルの袋を持ち運ぶ。


 元々うちはそこまで家具やらを持っていない上、必需品は向こうで既に置いてあるということで、この量に収まった。


「街ってどんなところかしら」


 普段は子供とは思えない程大人なマナが、今はスキップしそうな勢いで楽しそうである。


「楽しみ」

「きっとマナの見たことないものでいっぱいよ」


 家族の楽しい談笑の中、一人寂しく荷物運びをする俺。


「解せぬ」


 そうして森を抜け、初めて出た外は


「凄いわね」

「ああ」


 不思議な感動を与えた。


「街に着いたらもっと驚くからな」

「子供達の反応が楽しみね」


 オシドリ夫婦が楽しそうに歩く。


 最早俺らのことは眼中にない。


「街ってどんなところかしら」

「そうだな」


 俺は転生者だから慣れてるが、マナは本当の意味で初めてなのか。


「物や人が今まで見た事がないくらい溢れてる。そんな場所だ」

「そんなの知ってるわよ」

「じゃあ聞くなよ」

「私が聞きたいのは、どんな人がいるのかってこと」

「最初からそう言えよ」

「あら、普段から素直に言えない人にだけは言われたくないわ」

「へいへい、すみませんね」


 荷物のせいで周りがよく見えないが、多分マナはニヤニヤと俺を揶揄っているのだろう。


「育て方間違えたな」

「あら、私の父親気取り?パパ、ソラがママと結婚するって」

「あらあら」

「よしソラ。お父さん今日はナイフを持ってきたんだ」

「そんなわけないだろバカ親父!!」

「あらあら……」

「母さんが悲しんだだろ!!」

「あーもう!!どうすればいいんだよ!!」


 何で荷物持ちまでさせられた上に家族総出でいじめられなきゃいけないんだ。


「みんなソラが好きだからじゃない?」

「小学生男子かよ」

「小学生?」

「聞き間違いだ」

「そうよね……」


 なんだかマナの声のトーンが小さくなった気がした。


 すると


「ソラ」


 親父の低い声


「あいよ」


 俺は一度荷物を下ろす。


 どうやらお客さんのようだ。


 俺は近くのマナを荷物の後ろに隠す。


「随分と不用心な家族だな」


 馬に乗って現れる集団。


「生憎と俺達は貧乏人だ。追い剥ぎなら他を当たった方がいい」


 親父が母さんを背にするように一歩前に出る。


「貧乏人がそんなデカい荷物抱える筈ないだろ」

「確かに」


 納得してしまった。


「有金全部置いてけば命まではとらんよ」


 すげー


 リアルで本当にこんな台詞聞けるなんてな。


「ところでそのデカい荷物誰が運んでんだ?」

「俺らの息子だ!!自慢だが、息子は俺が今まで見てきた誰よりも力強くてな。将来はきっと大物なるぞ!!」

「お父さんの言う通りよ!!」


 盗賊の前で急に息子自慢を始める二人。


 バカである。


「おい、もしかして餓鬼があれを一人で担いでたってのか?」


 大将らしき男が仲間を一瞥し


「そんなわけないだろ!!」


 下品な笑い声を上げる。


「そろそろ出た方がいいかしら?」

「楽しそうだしまだいいんじゃね?」


 荷物の裏からコソコソとマナと二人で状況を確認する。


 相手は五人。


 もし飛び道具が有れば間に合わない可能性もある。


 やるなら不意打ちが一番効率がいい。


「それに娘もいてな!!ここだけの話、実はうちの娘天才なんだ!!」

「もうお父さんったら。天才じゃなくて大天才よ」

「ハッハッハ、そうだったな!!」


 マジであの二人バカだろ。


「こいつらイカれてるのか?」


 盗賊の一人が馬から降り、前に出る。


 盗賊と共感してしまうなんて情け無いったらありゃしない。


「おい!!あんまりふざけてるとーー」

「ふざけてるのはどっちだ」


 親父の綺麗な回し蹴りが炸裂する。


「待ってろ」


 それと同時に俺も飛び出す。


「誰だ!!」

「バカ夫婦のバカ息子だ」


 俺は抜き出した木刀で一人の胴体を撃ち抜く。


「ガハ!!」


 数メートル吹き飛ぶ。


「あ?」


 親父なら耐えてるぞ?


「ば、化け」

「私の兄に対して化け物とは失礼ね」


 何故か顔を出すマナ。


「な!!」


 盗賊達の動きが止まる。


「そんなにジロジロ見るな。うちの妹は恥ずかしがり屋なんだ」


 当然そんな隙を晒すのは倒してくれと言ってるようなものだ。


 俺は馬上の大将らしき男の馬に乗り


「グッバイ」


 顔面に一振りかます。


 グチャリと


 嫌な音と共に地面に倒れ込む。


「グロ」


 自分でやっといてなんだが、人体キモいな。


「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 残共も同じくフルボッコにし、拘束した。


「余裕だったな」


 親父が母さんを背中に置きながら歩いてくる。


「親父より弱いなんて雑魚過ぎだろ」

「お父さん別に弱くはないんだけどなぁ」


 少し悲しそうにする親父。


「まぁそれより」


 俺は近付く。


「バカ」


 フワリと頭を叩く。


「あら、お陰で速く終わったでしょ?」

「もし相手がマナに攻撃したらどうすんだ」

「ありえないわ。こんないい商品に傷でもついたら大変よ?」

「自分のこと商品とか言うな」


 これだからうちの妹は


「結果オーライよ」

「まぁ、それも……」


 この世界にオーライなんて言葉あるのか?


「いや」


 俺よりもマナの方が賢いんだ。


 色んな本を読んだ結果だろう。


「ほら、さっさと荷物持ちなさい」

「俺は奴隷か何かかよ」


 渋々荷物を持ち、また歩き始める。


「……」


 あいつらどうなるんだろ。


「街に行ったら騎士に報告する。その間に逃げられるかもしれないがな」


 俺の心の疑問に答える親父。


「騎士か」

「もしかして騎士に興味があるの?」

「別に」


 俺は


「大切なものだけ守れればいい」

「へぇ」


 嫌な予感がする。


「じゃあ私だけの騎士様ってことね?」


 初めて荷物持ちしてよかったと思う。


 顔がバレないからな。


「母さんもだ」

「お父さんは守ってくれないのかよ!!」

「あ?」


 いつの間にか周りにみんな居たらしい。


「大丈夫よ。お父さんはお母さんが守ってあげる」

「母さん!!」

「いやいいから」


 家を出てもそんなマイペースな一家は


「そろそろだ」


 ついに街に到着するのであった。


 ◇◆◇◆


「ワオ」

「凄いわ」


 街は想像していたよりもずっと凄かった。


 周りを壁に囲まれ、一つの門の前に人がズラズラと並んでいる。


 そして高い門の向こうに一つだけ聳え立つ大きな城。


「なんか……いいな」


 久方ぶりに少年心が揺れ動いた。


「並ぶぞー」


 親父が先頭に立ち、列に並ぶ。


 こんな荷物持ってれば目立つ思ったが、周りには豪華な馬車や、虹色に光る鎧を着た者など、大きな荷物が霞むような個性の殴り合いだった。


 だけど俺達は違う意味で目立つ。


「あの子」

「可愛いー」

「金髪なんて珍しいな」


 皆の視線の先には、やはり俺の妹の姿があった。


「少し恥ずかしいわね」


 ここで確信する。


 俺の見立ては間違いじゃなかったと。


 まぁ……それはさて置き


「ん」


 マナの肩を寄せる。


「何?」

「……」

「俺の女アピール?」

「妹にそんなことするか!!」

「じゃあ何?」

「……別に」

「答えになってないわよ」


 そう言って手のひらに温かみを感じる。


「あらあらあら」

「仲のいいことだな」


 母さんと親父が茶化してくる。


「……やっぱ離すか」

「え?嫌よ」

「は?」

「どうして離す必要があるの?」

「いやだって、なんか恥ずいし」

「いいじゃない」


 腕に抱きつかれる。


「私達ただの兄妹よ?」

「兄妹……そう、兄妹だから大丈夫だよな」

「ええ、私達はただの兄妹。だから大丈夫よ」

「お父さん」

「ああ。今日は赤飯だな」


 そんなバカみたいなやり取りをしていたら


「次の方」


 順番が回ってくる。


「はいはーい」


 親父が前に出る。


「えーと、お名前は……セイガ……セイガさん!!」

「よっす」

「お久しぶりですね!!」


 なんか受付の人と盛り上がる親父。


「お父さんはね、昔騎士様だったのよ」

「へぇ」


 初めて知った。


「凄かったの?」

「うーん、悪いわけじゃないけど、凄いわけでもないかな」

「そうか」


 まぁ親父だしそんなもんか。


「でもお父さんは慕われてたわ。いつも一生懸命で、笑顔でみんなのために頑張ってた。お母さんそこに惚れちゃったの」


 行き着く先は惚気である。


「またここに住むんですか?」

「ああ。息子と娘が生まれてな。そろそろあれの時期だし」

「ああ、なるほど。顔を見ても?」

「もちろんだ。腰抜かすなよ?」

「それは期待しちゃいますよ」


 親父と受付の声が近付いてくる。


 顔でも見に来たか?


「こんに……ち……は?」

「ども」

「初めまして」


 軽く会釈する俺としっかりと頭を下げるマナ。


「あの……えと……これ」


 分かりやすく動揺する。


「どうだ!!」

「どっちも可愛いでしょ?」

「いや可愛いってレベルじゃないですよ!!」


 受付の人が軽くパニックになる。


「そんなに緊張しないで下さい。私達はまだ世間も知らない田舎者ですから」

「え?今何歳ですか?」

「昨日15歳を迎えた」

「ず、随分と大人ですね」


 マナは天才だからな。


「えっと、初めまして。二人のお父さんの元同僚のニシって言います」

「はぁ」


 どうでも良すぎて変な声が出る。


「初めまして、ニシさん。私はマナ、こっちの不貞腐れてる方が兄のソラです」

「どうも、優秀な妹を持った出来の悪い兄です」

「いやはや」


 ニシという男が汗だらけになる。


「これはなんと言いますか、セイガさんは自信満々だった理由も分かりますね」

「だろ?」

「あ、お久しぶりです、サーラさん」

「久しぶり、ニシ君」

「良い教育をなされたんですね」

「いいえ、いつの間にかこんなに立派に育っちゃって」


 母さんがほっぺを押してくる。


 ウザい。


「……」

「お前ホントに母さんには甘いよな」

「私にも結構甘々よ?」

「じゃあ俺だけか」


 あんまり女性に対しての接し方が分からんだけだ。


「それにしても凄い荷物ですね」

「大事なものだけ詰めたつもりだが、それでも結構な量になってしまった」

「セイガさん一人でこれを?」

「いや、息子がだ」

「そう……え!!」


 この人リアクション激しいな。


「こ、これを息子さんが?まだ魔法を習ってないですよね?」

「ああ。凄いだろ」

「やっぱり魔法ってあるんだな」


 馴染みが無さすぎて本当はないんじゃないかと思ってた。


「と、特異体質ですかね?」

「そうかもな」

「特異体質?」

「時々いるそうよ。超人とか、超能力が使えるとか、色んなタイプ」

「へぇ」


 この世界だと丈夫な体でみんな生まれるわけじゃないのか。


「やっぱりおかしいよな、これ」

「気づいてなかったの?」

「普通なのかなって」

「バカね。昔みたいに本を読みなさい」

「いいんだよ、俺は」


 妹を守れればそれで。


「あ、お時間取らせてすみません。もちろん大丈夫です。ようこそ、マリューセルに」


 そして


「おお!!」


 俺らの新たな生活が始まった。

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