第2話
「お誕生日ー」
「おめでとう!!」
大きな拍手が鳴る。
「わー(棒読み)」
「ありがとう、ママ、パパ」
「全く、ソラはマナのように純粋に育ってくれればいいものを」
「おい親父。子供比べるとか一番やっちゃダメだろ」
「知りませーん。父さんのこと親父とか言う息子の話なんて聞きませーん」
「もうお父さん。どっちも同じくらい大好きだってちゃんと言わなきゃ」
「そうだぞ、俺はちゃんとソラも愛してる。それ以上に母さんとマナを愛してるがな」
「もう!!お父さんったら」
「うざ」
これがうちの日課となった両親の惚気である。
「微笑ましいじゃない」
「違う、こういうのをイタイって言うんだ」
二人がイチャイチャし始めたため、俺は料理に手を付ける。
「美味」
これは何の料理だろう。
「それは多分魔物の肉ね」
「へぇ」
魔物か。
「不味そう」
「さっき美味しいって言ったばかりじゃない」
そう、ここは俺の住んでいた日本ではない。
俗にいう異世界だ。
だから魔物とかいうファンタジー生き物もいれば、魔法といったファンタジー、それと貴族とかいうファンタジーもいる。
「魔物の肉は高いようね。肉が柔らかくて美味しいらしいわ」
「相変わらず博識だな」
「ソラと違ってあまり運動しないから」
俺の妹は可愛くて天才だ。
これは客観的事実であり、俺の私情は一切は入っていない。
俺は転生者だからまだ分かるが、俺が本を読むと同時に、マナは本を読み始める。
それがおよそ生後二ヶ月の出来事であり、その三日後
「おはよう、兄さん」
「ばぶ!!(何!!)」
妹は瞬時にこの世界の言語を習得した。
俺はこの世界の人間の履修速度が並ではないと考え、前世を活かして馬鹿みたいに勉強した。
その結果
「なぁ母さん。子供って普通何歳で喋るっけ?」
「確か本では2、3歳からちゃんと喋れるって」
「マジかよ」
一歳の誕生日で告げられた事実。
「あら」
マナも驚く。
「兄さんの成長が速いから勘違いしたわ」
「俺もだ」
「もしかして私達の子供達って……」
「ああ……」
両親は深刻な顔をした後
「「天才!!」」
と馬鹿騒ぎしていた。
それから時間も経ち、徐々に産毛が立派な髪となり、顔もしっかりと形を帯びてきた。
結果
「あら、そんなに見つめてどうしたの?」
マナの顔を見つめる。
この世界には魔力というものがあり、それによって髪色が変わってしまうらしい。
魔力とは魔法を使えるエネルギーのようなものだ。
その結果、両親は二人とも黒髪だが、俺は金となり、妹は綺麗な銀髪となった。
「いや、マナの顔にちょっとな」
「見惚れた?」
「ゴミがついてただけだ」
ありもしないゴミを取る。
その時に触れた肌は……いや、やめておこう。
「まぁ、お前の顔がいいことは認めてやる」
正直見惚れるなという方が無理な程の美貌。
俺はロリコンではないが、大人顔負けの美しさと愛らしさを兼ね備えている。
もう数年すればとんだ化け物になるだろう。
「ありがと、兄さんも顔はいいわよ」
「顔以外はダメってか?」
「そうね。兄さんは性格がちょっとね」
「うるせぇ」
料理に食らいつく。
「それにしても二人とも身長伸びたな」
「本当ね。昔はこんなに小さかったのに」
母さんが指で大きさを表す。
ここでツッコむと負けな気がした。
「ソラもあんな調子だし、そろそろ街に出てもいいんじゃないか?」
「そうかしら?」
「そろそろあれもあるし」
「確かにそうね」
二人が何かを話す。
「何の話だ?」
「さぁ。私もまだこの世界の常識を知らないから」
まるで別の世界のは知ってるような言い草だな。
「まぁ成り行きに任せればいいだろ」
とりあえず料理の半分を平らげる。
「おいソラ!!みんなの食べる分が無くなるだろ!!」
「大丈夫だ親父。ちゃんと母さんとマナの分は残してある」
「俺の分は?」
「残飯でも食っとけ」
「よっし、表に出ろ息子よ」
「いいね」
玄関前の木刀を手に外に出る。
「盛り上がってきたわね」
「お母さん救急箱用意しとくわ」
俺は一度木刀を振る。
風を切る音と共に、雑草が綺麗な筋をなぞり切れる。
「子供相手に何だそれ」
親父は何かの鉄の棒を取り出す。
「当たったら死ぬからな?」
「当たらないだろ」
親失格だろマジで。
「行くぞ」
「いつでも来い」
見合う。
「おら!!」
親父が思いっきり振りかぶる。
「危な」
躱す。
「本気だろ、今の」
「当たり前だ」
親父は棒をもう一度振りかぶろうとする。
だから
「隙」
俺は空いた胴に一発叩き込む。
「う!!」
親父が横腹を抑えて倒れ込む。
「あら、今日もお父さん負けちゃったのね」
「お疲れ様」
母さんが親父の方に、マナがタオルを持って俺の方に来る。
「楽勝?」
「まぁな」
「それにしても凄いわね。これだけ動けるなんて」
マナが俺の腕を触る。
「硬いわ」
「鍛えてるからな」
「……」
マナが真剣な顔で腕を触り続ける。
何か思うところがあるのかもしれない。
「いいわね」
「何がだ?」
「いいえ、なんでも」
手が離れる。
「ほら、パパ復活したわよ」
「ああ」
何故か負けたにも関わらず、偉そうに胡座をかく親父。
「認めよう、お父さんはもう息子に勝てないと」
「結構前から認めろよ」
「そんなお前を信頼した結果」
親父は優しい声で
「今度みんなで街に行くか」
軽い衝撃だった。
この世界は決して治安がいいわけではない。
一応魔物という戦力故、国同士の喧嘩はないにしろ、そこらに盗賊やら人攫いなどがゴロゴロといる。
そういうこともあってか、うちはあまり人にバレないような森の中にぽつんと家を建てている。
「いいのか?」
それは
「マナのことか」
「俺は正直」
「ソラの言いたいことも分かる」
マナは可愛い。
ならばこそ、犯罪者が放っておくとは思えないし、一度顔を見られれば危険が高まる可能性がある。
「だから俺たちは引っ越すことにした」
「へぇ」
「息子よ、結構悩んだからもう少し関心寄せてくれ」
「お金あるの?」
「それなら問題ない。俺と母さんはこういう時用にいっぱい貯金してきた」
「あと10回は引っ越しできるわー」
「そんなせんでいいだろ」
「いいの?ママ、パパ」
少し心配の声を上げるマナ。
「心配するな。少なくとも二人が大人になるまでは絶対に苦労はさせない」
「お母さん達を信じて」
「……ありがとう、パパ、ママ」
親父が俺の前に立つ。
「お前がこの日のために鍛えてきたのは知ってる」
「……俺は守れるのか?」
「本当ならこれは俺の仕事だ。だけどお前より弱い俺は、何も言えない」
「そんなこと」
「お前らの為ならこの命、何度でも払ってやる。だけどな、その後は俺じゃ力不足だ」
親父が肩を掴む。
「頼んだ」
そこに熱い思いがあった。
「任された」
俺は木刀を地面に刺し
「死んでも俺がマナを守る」
誓う。
「キュン」
「あらあら」
「よく言った!!」
親父が抱きついてくるので、咄嗟に腹を殴る。
「いい……パンチだ……」
「すまん」
だけど急だったし
「ちなみに引っ越しは明日だ。荷物はお前に任せた、息子よ」
「お前が働けや」
こうして俺たちは初めての街に赴くのであった。
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