最強の兄と天才の妹〜拗らせた二人〜

@NEET0Tk

第1話

「暑い」


 俺は学校終わりの道を歩く。


「チッ、んだよこの気温は。人死ぬぞ」


 自然現象に悪態をつきながら信号を待つ。


「ん?」


 隣の女子高生。


 制服が違う。


「あ」


 近くのめっちゃ偏差値の高い高校のだ。


「俺と違ってエリート様か」


 財布の中身を確認し、ジュースを買えるだけのお金を確認する。


 ギラギラと照る太陽は、もしかしたら飲み物を買わせるために会社と契約をしているのかもしれない。


 そんなバカみたいなことを考えてると


「は?」


 バカみたいなことが起きる。


「おい!!」


 暑さのせいだろうか。


 先程俺の横にいた女の子が倒れる。


 しかも運悪く車が飛び出してくる。


「あー」


 ここで漫画の主人公とかならこの人を助けるのだろう。


 実際ここから手が届くのは俺だけ。


 だが、ここで手を出したところで間に合うはずがない。


 共死にするだけだ。


 けど


「誰だよ」


 背中を押される。


 だけどそこに物理的何かは存在しなかった。


 俺は女の子の手を掴むが、予想通り俺ごと倒れてしまう。


「悪い」


 俺は謝る。


 何で俺は悪いことしてないのに謝るんだよ。


 走馬灯ではないが、世界がスローモーションに映る。


 風の音、木々の木漏れ日、目を逸らす女性に携帯を取り出そうとする中学生。


 多種多様な反応を示す全て。


 そして最期に見たのは


 目の前の女の子の綺麗な


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 轟音と共に体に鈍い痛みが走り、意識を飛ばそうとする程の衝撃が襲う。


 俺は女の子を抱き抱えたまま数回地面を跳ね、引きずられるように地面を滑る。


 その間に何度も頭や体を打つ。


 血が止めどなく流れ、頭がスッキリとする。


 痛みは感じないのに、体は動かない。


 辛うじて口だけが動く。


 俺は同じように血だらけの女の子に伝える。


「次は……絶対に……」


 どうしてこんなことを言ったのだろうか。


 俺は決してそんな善人ではないはずなのに。


 この子が美人だから?


 本当はこんな主人公のような生き方をしたかったから?


 なんだかしっくりこない。


「私も」


 声


「今度こそあなたに……」


 俺に?


 なんだろう。


 声が聞こえない。


 どうやら時間が来たようだ。


 運のいいことに俺に未練はない。


 今の両親は二つとも血が繋がっておらず、俺が死んだところで清々した気持ちだろう。


 友人と呼べるものもいたが、あいつらはきっと俺の死を数日悲しんだ後、何気ない日常に戻るのだろう。


 別に悔しさはない。


 ただ


「今度は」


 誰かを愛し


「愛されたい」


 そう望んだ


 ◇◆◇◆


 ある日、平凡な世界に命が生まれた。


「お父さん!!子供が泣かないわ!!」

「そ、そんな!!最初は泣かないと危険なんじゃ」


 二人の男女がワタワタと慌てる。


 初めて二人の間に出来た子。


 心配にならないはずもない。


 だが、子供が泣かないのには理由があった。


(……どこだここ)


 男の意識が覚醒する。


(死んだ……はずだよな)


 ボヤけた視界で周囲を確認する。


(病院か?)


 男は自身の体が動かないことから、先程の出来事が夢ではないと判断する。


「どうしましょうお父さん」

「少し待ってくれ、今調べる」


 未知の言語を喋る二人。


(何語だ?日本語でないのは間違いない。英語でもないか)


 男は混乱する。


(あれ?)


 気付く。


(口は動くようだ)


 なら一度喋るのもありか


「だーだぶだ(どちら様でしょうか)」


(あ?)


 上手く言語に出来ない。


(呂律が回らない。舌が逝ったか?)


「お父さん!!」

「喋った!!喋ったのか!!」


 男性と女性が歓喜する


「よかった、よかったわ!!」

「だけど……」


 先程のテンションが嘘のように静かになる。


(言葉は分からない。だけど今の反応)


 男は自身の姿を辛うじて捉える。


(やっぱり)


 男は


(生まれ変わったのか)


 真実に辿り着く。


(まさか本当にこんなことが起きるなんてな)


「お父さん、お医者様は」

「少し外に出る。もしかしたら何かに巻き込まれてる可能性がある」


 男性が家を出る。


(何を焦ってるんだ?おそらく俺は二人の子供だろう。喋れば異常はないはずだが)


 だがその疑問はすぐに晴らされることになる。


「あー」


 声


(声?)


 気付く


(ああ、なるほど)


「喋った!!」


 女性が立ち上がる。


(多分さっき出産したばかりだろうに、タフだな)


 フラフラと女は近付き


「ありがとう」


 一言


「お待たせしました」

「母さん!!」


 白衣を着た男性が部屋に入る。


「お母様はまだ横に」

「す、すみません」

「ほら」


 男性が女性をベットに運ぶ。


「失礼」


 医者はおよそ地球では見られない現象を引き起こす。


(何だこれ?)


 白衣の男性の目元に魔法陣が浮かび上がる。


 それからまるで何かを確認する様にジロジロと見回す。


 およそ十数分が経過した頃だろうか


「なるほど」


 魔法陣が消える。


「お母様、お父様、お子さんに異常は見られません」

「本当ですか!!」

「よかった」


 胸を撫で下ろす二人。


「おめでとうございます、可愛い男の子と女の子です」


(ああ)


 男は隣に目を向ける。


 サファイアのように青い目が交差する。


「少し抱かせて下さい」

「もちろんです」


 二つの小さな命が母親の胸の中に収まる。


「初めまして、私の子供達」


 慎重に、慎重に、優しく包み込む。


「名前はお決めに?」

「はい。男の子ならソラ、女の子ならマナ」

「まさかどっちも叶うなんてな」


 男性と女性は笑う。


「ソラ、どうかマナを守ってあげて」


(何を言ってるか分からないが)


「マナ、あなたはお兄ちゃんを支えてあげて」


 ソラの手に小さな温もり。


(俺の……妹)


 小さな、小さな命が


 ニッコリと笑った。


「ヤッホー!!今日は赤飯だ!!」

「お医者様も是非!!」

「あ、いえ、まだ仕事がありますので」


 ◇◆◇◆


 あれから十五年の月日が流れる。


 風が、少女の髪を撫でた。


「それ、何回目?」

「さぁ、数えてないから知らん」

「10682回よ」

「知ってるのに聞くな」

「あら、兄と軽く話したいという妹なりの愛情表現よ?」

「そうか。なら直接の方が兄は喜ぶと妹に伝えてくれ」

「妹は兄が素直になれば素直になると言っていたわ」

「そうか。なら当分無理だな」

「新しい楽しみができたわ」


 日の光の下で、剣を振り続ける少年と、木の下で本を読む少女の姿。


「私達今日で15歳よ?成長は早いものね」

「年寄りみたいな台詞だな」

「そうね。今のは失言だったわ」

「?」

「おーい」


 そんな二人を呼ぶ声


「二人ともー、ご飯よー」

「今日は二人の誕生日だからな、奮発して高い肉を買ってきたんだ!!」


 和気藹々と騒ぐ


「高い肉って、あの二人の高いはマジで高いからな」

「嬉しいことじゃない」

「そんな金があるなら……」

「あるなら?」

「いや、何でもない」

「ふ〜ん」


 少女はニヤついた顔を見せる。


「んだよ」

「いいえ、何でも」


 本を閉じる少女。


 そんな少女の前に影が差す。


「ほら」


 大きな手


「ありがとう」


 もう一つの小さな手が掴む。


 これは後に


「行くぞ、マナ」


 最強と呼ばれる男と


「ええ」


 天才と呼ばれる少女の


「ねぇソラ」

「何だ」

「私はあなたが好きよ」

「んだよそれ」

「あなたは?」

「まぁ……同じだ」

「ふふ」


 愛の物語である。



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