第6話 真夜中のお届けもの

 子供の頃に数えた羊よりもずっと少ない数でアイは眠についた。ただし、手は繋いだまま。

 指と指を絡め合わせるように繋いだアイの手は俺の体温が移ったのか少しだけ温かかった。

 すやすやと寝息をたてているその様子はまるで、子供のころに戻ったかのように錯覚させる。


「おやすみ、アイ。明日からもよろしくね」


 そう囁いて、俺も眠りに就こうとしたときだった



 ――ピンポーン♪――


 急に家のインターホンが鳴ったのだ。


 早めに眠ることにしたとは言え、もう夜の9時は過ぎている。

 そもそも、今日ここに引っ越してきたばかりだし、通販なんて頼んでいない。

 俺らがここに住み始めたと知っている人間はいないはずなのに。


 俺はそっとアイの指を動かして手を離そうとするが、途中でアイが起きてしまう。


「ん~? どうしたの?」


 寝ぼけた顔で目を擦っている。

 俺は唇の前に指を一本立てて「しーっ、静かに」とジェスチャーをする。

 できるだけ音をたてないように注意しながらインターホンの方に向かった。


 俺は不審に思いながら、声をださずにモニターをみつめる。

 そこには誰も映っていなかった。

 ただし、何も映っていなかった訳じゃない。

 そう、俺たちの部屋の玄関の前にはなにやら小さな段ボールが置かれていた。


 段ボール箱が一つだけ。


 それを持ってきた人は映っていない。

 少しだけ不気味だった。


 真夏の夜、玄関の前に謎の小包なんて……まるでホラー小説の登場人物になったような気分だった。

 正直、確認したくなかった。


 だけれど、何かアイに危険を及ぼす物だったら?


 そんなものを放って置くことはできない。

 俺はアイを一生守っていくのだから。


 気が付くとアイも俺と一緒にインターホンをのぞいていた。


「ちょっと、見てくるから。アイはここでまってて」


 俺はそう言ったけれど、アイは俺の服の袖を引っ張って首を振る。


「一緒にいくよ。心配だもん」


 真夏なのにエアコンで冷えた部屋はやたらとシンッと静まりかえってなんとなく恐ろしく感じた。

 こんな部屋に残すのも逆に心配かもしれない。


 俺とアイは手を繋いで玄関に向かった。

 息を殺したままドアスコープをのぞくがもちろん、そこに人影はない。

 最初にインターホンが鳴ってから十分ほど経過するのを待ち、俺はドアをあけた。


 周りをみまわすが人はいない。


 ただ、あるのはインターホンごしにみたのと同じ光景。

 玄関の前には段ボールが一つだけ。


 なにか変じゃないといいけれどと思いながら箱をあけるとそこには腕で抱えるほどの大きさの白い繭が入っていた。


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子育てから始まるラブコメ 華川とうふ @hayakawa5

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