第4話 ロクの使命
僕は自宅のアパートでぼんやりとテレビのニュースを眺めていた。
「古典芸能師しんみりーずのヤマグチ容疑者逮捕」の文字がでかでかと表示される。
あのとき、ヤマグチさんの「6@story」を聞きながら僕はわんわん泣いた。となりの客席のおばあちゃんが心配してティッシュをくれたくらい泣いた。
とても悲しい物語だった。かぐや姫が月に帰ってしまうところも、竹取の翁が不死の薬を燃やしてしまうところも。
そして物語が終わったとき。黒服の男たちが舞台にずかずかと上がって、ヤマグチさんを連行していった。
誰かがヤマグチさんの語りを聞いて、こっそり通報したのだろう。そして、物語が終わったときにちょうど黒服が到着したというわけだ。
誰もがぽかんとしてそれを見守った。警察に連行されるヤマグチさんを。
いや、黒服たちは警察ではなかった。もっと別の、何か……。
そうだ、ヤマグチさんは連行されながら、僕に向かって叫んだんだ。「見たか、これが『言葉』の力や!」と。
僕ははじけるように立ち上がると、アパートを飛び出した。
◇
マンションのヤマグチさんの部屋の鍵は開いていた。
勝手に中へ入ると、部屋はぐちゃぐちゃに荒らされていた。居間も、書斎も。
僕はぐちゃぐちゃの部屋をさらにぐちゃぐちゃにかきまわしながら、探した。手がかりを。ヤマグチさんが残したはずのヒントを。
そして、見つけたんだ。ヤマグチさんの入れ歯ケースの中に、小さな紙切れを。
触るのはちょっと嫌だったけれど、我慢してたたまれた紙を開くと、そこには小さく文字が書いてあった。
「6へ、テンプレート社へ行け」
6とは僕の名前「ロク」のことだろう。ヤマグチさんはきっと、「言葉」を取り戻す使命を僕に託したんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます