第3話 今は昔……

 楽屋から客席へ戻ると、舞台ではまだ若い芸人が漫才を披露していた。しんみりーずの休憩中、「つなぎ」として駆り出された芸人たちだ。


「そんな9016@manzai、せやかて544@manzai」


 暗い客席の中をなるべくほかのお客さんの邪魔にならないように這うように歩いて、僕は自分の席に着いた。

 拍手が起こって、若い芸人の漫才が終わり、いったん幕が下りる。


 次は最後の演目。しんみりーずの長い芸歴を終える大切な演目だ。

 ところが幕が上がったとき、舞台の中央にいたのはヤマグチさんひとりだった。


 てるしーさんがいない。困惑の声を上げる観客をヤマグチさんがぐるりと見回すと、どよめきの声はさざ波のように引いて行った。


「あらゆる物語はテンプレート化され」


 着物を着て、紫の座布団に正座したヤマグチさんが低い声で言った。


「『言葉』は消えていきました。今では日本の最も古い物語のひとつである『6@story』がどんな話だったか覚えている人はおらんでしょう。いや、ここに一人おります。70年も昔、わしの母親が語って聞かせてくれました。今宵はせっかく来ていただいた皆さんに、『6@story』を『言葉』を使ってお聞かせしましょう」


 しんと静まり返った劇場に、ヤマグチさんの声が響き渡った。


「『6@story』。竹取物語」


 声は僕の耳へ飛び込み、腹をびりびりと震わせる。


「昔々、竹取のおきなという男がおったそうな」





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