【小話】 浮島の伝承

 千年以上も昔のこと。エステレラは大災厄に襲われました。

 欲深き破壊神は世界を我が物にするべく、侵略を始めたのです。


 ですがその危機は、神の助けを得た勇者達の活躍でかろうじて退けられ、人々は生き延びることができました。


 しかし、命を繫ぐ代償に人々は多くのものを失いました。文明・魔法・精霊、その他……。


 神は大災厄を、自分達がこの世界に過剰に手を差し伸べた故に起きた事と反省し、去っていきました。後の世界を人の手にゆだねて。


 去り際に神は、魔物の内、人と共存できる魔人達を進化させていきました。

 そして消えた強大な『魔法』とは違う、全く新しい、全ての人が扱える『魔法』を残していきました。




 人、特に人間はこの新しい『魔法』を巧みに使い、過去の栄華に対しても誇れるような、素晴らしい文明を築いていきました。


 しかし過ぎた力は同時に、人の『欲望』も増大させていきました。


 現在フューベルと呼ばれる地にいくつもの国が乱立し、勢力を拡大しようと至る所で戦争が始まったのです。大地は荒れ、死体にまみれ、人間の国々は荒廃していきました。




 その時代、そんな小国の1つでしかなかった〈フューベル王国〉の片隅に〈アルビウム〉という場所がありました。


 ある時そこに一本の木が芽生え、大きな木へと育ちました。

 まるで周囲を護るかの様に広く枝葉を伸ばしたその木の下に、戦争の被害にあった弱き者達、そして争いを好まない人達が集まり街を造りました。


 そして皆、毎日のように巨木に『戦争のない世の中』が訪れるよう祈りました。或いは、平穏で、皆、穏やかに暮らせるような世になりますように、と。




 巨木がその祈りを聞き届けたように奇跡がおきました。

 アルビウムが周辺を離れ、空に浮かんだのです!


 ありえない奇跡でした。神は既に去っていったはずなのに、このような事が起こるとは。


 調べてみると、その巨木はエルフの国〈サージュ王国〉にしか存在しないはずの〈世界樹ユグドラシル〉でした。

 いつの間にか、エルフ達が『神樹』と崇め讃える木が、人間の国の平原にも生えてきていたのです。


 誰もが神の存在を感じざるを得ませんでした。

 神はこの地を離れようとも、常には力を示さずとも、いつも見守っていたのです!

 そして民が必死で祈り救いの手を求めれば、まだ差し伸べて戴けるとも!


 戦争は収束していきました。そして神の奇跡が起きた国〈フューベル王国〉の元へ集い、神へ永遠の協力と平和を誓い、手を取り合っていったのです……。


 これを記念し、浮島が浮き上がっていった5日間を世界の平和を祈る『祈樹祭』としたのです。

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