#22 〈アザレア=エクスプローラーズ〉《我が社》の理念
そして約一週間、バイト生活6日目も、騒々しく(そしてちょっとだけ虚しく)終わった。
「
「僕も屋根修理を終わらせたところだ」
…………。
二人、帰ってきて事務所で向かい合う。
そして職務報告。
二人の間には、沈黙。つまり、なんとなく疲れていた。
「……この会社の名前、〈アザレア=エクスプローラーズ〉だったよね?」
「うん」
「こんな『街のお助け屋』のような仕事ばかりだけれど『エクスプローラー』つまり冒険者として、これでいいのか社長?
……いや『街のお助け屋』をバカにしているつもりはないけどさ」
俺が言うと、レンは呆れたと言いたげな感じで切り返した。
「あのさパティ。君が始めたんだよ」
「あれ、そうだっけ?」
しらばっくれてみた。
そんな俺を気にもせずに、レンは少し考えた後に口を開いた。
「パティ。君は『冒険者』って知ってる?」
「そりゃ知ってるよ!!」
つい大きな声で叫んでしまう。
何故なら『冒険者』は、俺が異世界に転生したら成りたかった職業第一位だったからだ。
まさか本当に『異世界に行く』とも『転生する』とも思っていなかったから、妄想上の希望でしかなかったんだが。
ちなみに俺の『異世界で就きたい職業』ランキング中で『勇者』というのは第二位だ。
理由はこうだ。
勇者というのは確かにカッコいい。憧れる。
だが勇者に選ばれるということは、超強敵との戦いやものすんごい困難の解決を、運命とかなんとか理由付けられて強制されるわけだ。そういうのは好きじゃない。お断る。
せめて、一言『お前○ね』と言うだけで大魔王だの邪神だの関係なく○んだり、『この件は平和的に解決しました』と宣言したら実現する、ぐらいにチートな能力を与えてくれたんなら、勇者にならなくもない。
まあ、それはともかく俺はこの世界で『ちょっと優等生なだけの普通の女の子』として転生した。『冒険者』とは縁がないと思っていた。
『冒険者』自体も今ではごく少数がそう名乗って危険な地を旅するぐらいと知った。
つまり職業としては成り立ってないようだ。
なのでこの場でその名を聞くとは思っていなかった。
「そもそも〈アザレア=エクスプローラーズ〉の『エクスプローラーズ』っていうのはは、『冒険者』って意味なんでしょう?」
「うん」
社長は素直にうなづいた。
「僕はこの会社が『人々の生活の助け』になることを望んで設立した。
そして名付ける時に、ふと思い出したんだ。大昔、同じ様に人々の為に危険も
つまり〈エクスプローラーズ〉と社名に付けたのは君の言う通りそこから来ている。彼等の様に、皆の為に危険も厭わず働く様な企業になろうと。
勿論、冒険者には、ならず者も多くいたことを承知でね」
レンは歩き、窓から外を見ながら話を続けた。
「……もし君が動いてくれなきゃあ僕は、この会社は……『冒険者』でも、暴力を振るったりなどをしないだけマシな『ならず者』と変わらなかっただろう。
君が積極的に仕事を探し出してくれて……小さな仕事ばかりだったけれど、僕は〈アザレア=エクスプローラーズ〉を立ち上げた時の望みを叶えることができた。
こういうやり方もあるんだなって」
「じゃあ、私は採用ってことでいいの!?」
しかしレンは俺の方を振り返らなかった。
「うーん……ちょっと悩んでいるんだよね……」
「今の流れは私を採用する流れでしょう!?」
納得いかない、とレンに不平を言った。
そうしたらレンは俺の方を振り返って何かを言おうとした。
その時だった。コツコツ、とドアを叩く音が聞こえてきた。
「あの、すいません。〈アザレア=エクスプローラーズ〉はここでしょうか!?」
――女性の声が続いた。
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