#17 vsチミセット・3

 レンの振り向きざまの一撃が決まった!

 巨大な熊の魔獣が地に倒れた!



「レン!」


 俺はレンに呼びかけた。

 彼女は片腕にサミーズ夫人を抱えながら、魔獣を切り捨てた剣を下ろしていた。

 そして一息ついて、笑みを浮かべて俺を振り返った。


 しかしすぐに笑顔は困った顔に変わった。



「誰だ! ワシのカワいいナンディちゃんを傷つけた奴は!」


 突然の怒鳴り声に振り返る。


 すると、タキシードにシルクハットという分かり易い格好をした貴族のおっさんが、こちらに向かい杖をぶん回しながら走ってきた。


「キサマか、ああン?」


 おっさんは近くに到着するなり俺に突っかかってきた。


「ナンディちゃんを殺した罪、償ってもらうぞ!」


 おっさんは顎を突き出して、親指で首を切るような仕草をする。


「……えっと、あれっておっさんのペットだったの?」

「ペットだと!? ナンディちゃんはワシのカワいい娘だ!」


 娘……ああ、あれメスだったんだ……。


 それにしても魔獣を溺愛しすぎだろう、おっさん……。お貴族サマの考えることは分からん。


「あの娘はな、ただ迷子になっとっただけだ。

 ナンディちゃん、ちょおっとオチャメだから屋敷の塀を飛び出して、哀れ、見知らぬ街で迷子になっただけなんだ。

 そのとおとい命を貴様ら……!」

「……つまり男爵、貴方はあの魔獣を放し飼いにされていたと」


 いつの間にか、レンが近くに来ていた。

 彼女は男爵とやらを白い目で見ている。


「魔獣とか言うな、キサマ! キサマらまとめてしょっぴいて厳罰を与えてやる!」



「いえ、捕まるのはあなたの方です、男爵」


 いつの間にか街の警備兵も男爵の後ろに回っていた。


「なん……だと……!?」

「男爵、浮島での許可なき魔獣の持ち込み、及び飼育は禁止、という法はご存知でしょう。

 しかしあなたからの申請は確認できません」

「だから、あの娘はワシの娘だと……」

「はいはい、言い訳は署で聞きますよ。

 そこのお方、御協力感謝します」


 そして捕まる男爵。暴れながらも、複数の兵士には手も出ずに連れて行かれた。


 ……戦闘中、街を守るはずの兵士が戦闘にまるで関わらなかったのはどうかと思っていた。

 けれど、ちゃんと犯人をしょっぴいて、話をややこしくしないでくれたから、一応ここは感謝だ。


「……この世界の貴族サマっていうのは、皆あんな感じなの?」

「勘違いしないで欲しい。大部分は、まともな人達だよ」

「てことは、小部分はああいう問題のある人たちってこと……」


 俺の言葉にレンは苦笑いを浮かべるだけだった。




 倒された魔獣の後片付けが始まり、野次馬も集まってきた。


 ――そして今になって、やっと思い出した。


「サミーズ夫人は!?」


 レンが、さっきまで自分の居た方を指した。

 そこでは、サミーズ夫人の付き人と思われる人達がサミーズ夫人を介抱していた。

 そのうちの一人が、レンに頭を下げる。レンも片手を上げて応えた。


「サミーズ夫人、魔獣ちゃんにオモチャのように振り回されていたけれど、大丈夫だった?」

「一応、反応もあったし応急手当はしておいたけれど。彼女の家には優秀な医療団がいる。大丈夫、だと思うよ」


 実際、向こうから『御無事だぞ!』『よかった』などという声が聞こえてくる。

 ……結構タフだなあ、サミーズ夫人。まあ、無事でよかった。


「これで危険は無くなった。この場も騒がしくなってきたし、パティ、森に帰ろうか」


 レンが促してきたので、俺は頷いて、母さんが待つ森に帰るためレンについていった。

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