#16 vsチミセット・2

 魔獣に光線剣を払いのけられたレンと、魔獣に「お前、邪魔」とばかりに体を振り払われた俺。



 倒れながらサミーズ夫人と魔獣の方を見ると


「ギャァァァッ!?」


 まるで好みの人形を見つけて嬉しそうな子供のようにはしゃぐ魔獣の長い腕に、サミーズ夫人が捕われていた!

 ものすごく甲高い声で叫びながら!

 ――おかげで耳が痛い。


「サミィ!」


 レンは彼女を救おうと魔獣に近寄る。

 だが、その度に魔獣はサミーズ夫人を振って邪魔をする。――サミーズ夫人のあの甲高い絶叫付きで、だ。


 おかげでレンは近づけない。

 レンはもう一本、実剣を持っているはずだ。けれど迂闊うかつに剣を振れば魔獣を斬りつけるどころかサミーズ夫人に当たりかねない。

 あいつは今、近寄ろうとしては魔獣に追い返されて下がって……を繰り返している。苦い顔だ。


 ――俺もサミーズ夫人の絶叫で、頭まで痛くなってきた。


「くっ、まずいな……」


 うん、マズい。レンの焦りも、俺の頭痛も、何よりサミーズ夫人の声が枯れてきた。

 もう限界なのか、みんなグッタリしてきている。


 このままレンだけに任せていてもらちがあきそうにない。俺に出来ることはないか……周囲を探した。



 ――近くにあった。レンが放り投げた銃だ。

 そっちの方に飛ばされたのか、俺。

 俺はすぐにそれを手に取った。そして魔獣に向けて構えた!


 ……恐い。あいつはレンに気を捕らわれているから俺は大丈夫。そう思っても、いつ狙われるかと思ってしまい恐い。


(――臆病者)


 パティの声が聞こえてきた。

 ――ああ、そうさ。俺は臆病者さ。


(そう言い訳して、サミーズ夫人を見殺しにするの?)


 ――『見殺し』どころか、撃ち誤れば自分がサミーズ夫人を殺してしまうかもしれないだろう。それも怖い。


(だから私を信じろというのに。

 あなたは知っているでしょう。今の家がある、魔物が多く棲むあの森では『魔除け』と身を護るすべが無いと生きていけない。だから私は――)


 ――ああ、そうだった。じゃあ俺はどうすればいい?



 俺は銃を魔獣に向けて構えた。


 魔獣をしっかり見据え、銃身を構える。

 肩の力を抜く。

 すると前のパティが俺を背中から抱いて、支えてくれているような気がした。


 銃に魔力タマを込める。――分かる、銃のグリップに魔力らしきものが吸われていくのが。


 狙うは……今だ。引き金を引いた!



 銃身から放った光が、サミーズ夫人を捉えた魔獣の肩を貫いた!


 気絶した夫人が、宙に放り出される。


「サミィ、今行く!」


 レンが急ぎ向かって、サミーズ夫人を抱えた。


 そして振り返りざま、抜いた剣で魔獣を一閃する。

 白銀の刀身に斬り払われて最期の絶叫と共に魔獣は大地に堕ちた!

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