#12 浮島・2

 診察はあっけなく終わった。

 まあ、魔法や魔法具マジック・アイテムなんて物を使えばすぐに終わるよな。

 ――興味深いものが見れて良かった。


 で検査の結果はというと、良好。身体に特に異常なしだった。

 精神的にも一般的な動揺が見られる程度で、問題はないということだ。




 まあとにかく。

 俺は元気でした、ということで午後はパティの記憶を回復がてら街を見て回ることにした。



 ――街の中を歩く人の姿は、思ったよりも少なかった。

 まあ『思ったより』は、だ。前世で、婆ちゃん家のあった田舎の市街の駅前よりはずっと多い人が歩いている。


 空を走るフローター(?)もあるから、それで皆が歩かなくなったせいかと思った。   だが、空飛ぶ乗り物の方もそんなに多く走ってない。


「人が少ないように見えるけど、『地域分散型』とかいうやつですかね?」


 数少ない前世で覚えた難しい言葉の一つを使ってレンに聞いてみた。


「目的が決まっている移動には『ポータル』を使えばいい。――そんな世界で、健康や周囲の景色を楽しむ等々の理由以外で出歩く必要なんか無いでしょう」

「ポータル?」

「小型の転移装置。目的地を告げてからドアをくぐれば、そこに着くようになっている魔法具マジック・アイテムだよ」

「ああ、なるほど。『どこでも なんとか』みたいなのがあるのね」

「『どこ……』?」


 そんな便利なものがウチの玄関に無かったのは、都市以外では自然や文化の保全といった理由から『ポータル』のような設置型の近代の魔法具マジック・アイテムの設置が許されていないからだ。という情報が今、パティの記憶から出てきた。




「あっ、パティさんじゃないですか!」

「お久し振りです!」


 レンと二人、そのまま街を歩いていると背中の方から声がかかった。

 振り返ってみると、そこには女の子たちがいた。パティが通っていた学園は今ちょうど夏休みだと聞いていたが、みんな制服を着ていた。部活帰りとかそういうのだろうか。


「こんなところで会えるなんて。スゴい偶然です!」

「ラッキーだね!」

「夏休み、どう過ごされていました!?」

「やっぱり一流の学者先生の娘さんは世界各所に旅行とか……」

「いやいや、家に閉じこもって研究づくめかも」

「夏休みの課題とか、どうされていました?」


 いっぺんに言われても、どう答えていいのかわからない。

 ていうか、まだ誰がどういう人なのか記憶が蘇ってこないから彼女らとパティの関係も分からず、どう反応していいのかも分からない。


「――パティ、知り合い?」


 レンが聞いてくる。

 だから、まだ記憶が出てこないから話し掛けないでくれ!


「え、ひょっとして彼氏ですか?」

「まさか、デート!?」

「「キャア! キャア!」」

「ひょっとして私たち、お邪魔でした?」


「い、いや、違くて……」

「いや、僕は女だからね」


「女? 彼女? まさかそういう関係?」

「やっぱりデート!?」

「「キャア! キャア!」」


 ……ダメだ、彼女たちは何を言っても自分たちに都合のいいよう情報をねじ曲げてしまう。

 正直、俺はこういう相手は苦手だ。この場から逃げたい。たじろいでしまう。


 けれど今まで築き上げてきた『パティの立場』というものがあるわけで……逃げるとか、不審な行動を取るわけにもいかず、結局、困った笑いをしてしまう。


「ね、ね、デートじゃないって言うんなら、私たちもご一緒していいですか!?」


 え、え、いきなり何を言うのだ、この子たちは!?


「もうすぐ3時になりますし、夏休み前の休日と同じように喫茶店でお茶会しませんか?

 そちらの方もご一緒に!」


 え、え、パティ、休日はそんなことしてたの!? 休みの日は独りインドア派だった俺とは真逆だ。


「そうね、それがいいわ!」

「どこにする? 先週は……」


 なんか勝手に話が進んでる。

 俺はもちろん、レンもうろたえている。


「パティさん、さあ、一緒に行きましょう」

「そちらの彼女さんも!」


 そう言われて、俺とレンは女の子たちに手を引っ張られる。


 ――ダメだ。もう限界だ! これ以上のな女の子との接触は、ウブな俺には耐えられない!


「ご、ゴメン!」

「あっ、パティさん!」

「どこへ!?」


 俺は女の子たちを振り切って逃げ出してしまった!

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